びのと覧、魔王・近況に出会う
僕達は、兵士が用意してくれた馬車に乗り込んだ。
「それでは、出発」
ぶおーーー
外で大佐が、出発の合図、ほら貝を吹く。
このほら貝は、王子様が所用で外出する際の合図らしい。
ほら貝の音で、馬車が動き出す。
馬車が動き出すと同時に、覧は僕の鞄から何かを取り出し、それを広げた。
「何見てるの、覧?」
僕は、覧に尋ねる。
「ああ、大樹の城のマップだよ。以前まで使われていた山城みたいなんだけど、こちらに遷都してから、使われなくなり、50年以上放置されたままなんだって」
「50年も誰もいなかったの?」
「大佐の話だと、近年まで、山賊たちが根城にしていたらしいんだよね。でも、最近はそのの噂を聞かなくなったらしいから……」
「そうか、近況が城を乗っ取った可能性もあるってことだね?」
「うん。もしかすると、中はモンスターだらけかもね」
「そっか。もしかしたら、城の中は罠だらけかもしれないね」
下手したら、改築されてダンジョン化しているかもしれない。
「この地図が使えるかどうかは分からないんだけど、もし、改築されてなければ使える情報だから、覚えていたんだ。目的は、魔王・近況を倒すことだから、城の中の攻略にそんなに時間をかけたくないしね」
頭をぽりぽり掻きながらマップを眺める覧。
さすが、覧だ。先のことまで考えてる。
「あっ……」
「どうしたの? びの君?」
「酔ったー」
馬車がガタゴトと揺れるので、気分が悪くなってしまった。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないかも……」
「街道じゃない荒れ道を通ってるからね。我慢して」
「覧、バッドステータスを治す呪文ってある?」
「あるにはあるんだけど……」
言葉を濁す覧。
「それじゃあ、それ頼むよ」
「うん……治癒魔法、キュア」
よーし、これで気分もすっきりに……なってない……
「気持ち悪い」
「ごめん、やっぱり、治癒系の魔法、ボク使えないみたい……」
肩をすくめる覧。
「え? 使えないの?」
「うん」
「治癒系ってことは、回復魔法も?」
「呪文は覚えたんだけど、うまく発動しなかったんだ。今もうまく発動しないみたいだし……」
「そっか……そんなこともあるのか……」
呪文は覚えても、発動しないなんてこともあるのか……
「ごめんね」
「覧が悪いわけじゃないから、気にしないで。こんな馬車酔い、すぐに治るから」
僕は落ち込む覧に、気を遣わせないようにできるだけ笑顔でこたえた。
…………
……
僕達をのせた馬車は、道中、モンスターに遭遇するでもなく、大樹の城へと到着した。
酔って気持ちは悪かったけど。
「ここが、大樹の城であります」
「え?」
「ここが?」
目の前には、新しくできたのではないかと見紛うごとき、ピカピカなお城がそびえたっていた。
「新しすぎませんか?」
「以前は、廃城だったのでありますが……」
どうしてこんなに新しいのか大佐も首をかしげる。
「もしかしたら、近況の幻想魔法かもしれない」
覧が仮説をたてた。
「幻想魔法? 覧、何それ?」
「幻術とも呼ばれている魔法だよ。相手に幻をみせるんだ」
「じゃあ、もしかして、もう、僕達は敵の術中にいるの?」
「そうかもしれない」
僕と覧は顔を見合わせて、身構えた。
「本当にお二人だけでよろしいのでありますか?」
心配そうに確認をとる大佐。
「うん、大丈夫。ね? びの君」
「そ……そうだね」
足はがくがく震え、喉もカラカラだけど、関係のない人を巻き込みたくない僕は、なんとかこたえた。
「びの君もそう言ってるので、大丈夫です」
「かしこまりました。それでは、お気をつけて」
城の中は、静まり返っていた。
「びの君、なんで、空気銃のレーザーポインターつけてるの?」
「暗くなってきたから、必要かな……って」
「いや、レーザーポインターは、懐中電灯の代わりにはならないからね」
「分かってるけどさ」
灯りがないと、不安になっちゃうんだよね。
「相手にこっちの位置を教えてるようなものだからね」
僕は何も言わずに、すぐさまレーザーポインターを消した。
「ねえ、モンスターの気配がないんだけど……」
モンスターどころか、人っ子一人いないような気配だ。
「ボクの索敵魔法にも引っかからない……」
まあ、魔王が索敵魔法にひっかかるとは思えないけど。
「もしかして、ここじゃないのかもしれないよ?」
「いや、ここであってるはずだよ……多分」
覧が少し自信なさげにこたえる。
僕達は、周りを警戒しながらも、ゆっくりと奥へ進んだ。
「じゃあ、なんで、モンスターが出てこないのさ? 普通、城の中は、モンスターでいっぱいでしょ?」
「あえて、モンスターを配置していないとか?」
「何で?」
「それほどまでに自信があるか、魔王自らの手で、勇者を倒したいか」
――後者だよ――
霧の中から声が聞こえてきた。
後者ってことは、魔王が自ら勇者を倒したいということだ。
霧は、何かの形になっていく。
あれは……人?
そうだ、髪の長い女性だ。
――きゃはははは、暗号を解いて、やってきた――
――勇者が本当にやってきた――
「だだだだ……誰?」
「びの君、とりあえず落ち着いて。目の前にいる相手だけじゃなくて、相手は、4体いるうちの魔王の1体なんだよ? 目に見えてる敵が本体とは限らないから」
僕の質問には答えずに、覧は早口でまくし立てた。
そっか、そうだよね。
魔王と対峙しているんだ。
気を抜いちゃだめだ。
僕は周囲を警戒する。
「びの君、よく聞いて」
覧は小声で僕にだけ聞こえるように話しかけてきた。
「ついさっき、ばれないように、あの霧のステータス・チェックをしたら、成功した」
さすが、覧。
「それじゃあ……」
「うん、どうやら、霧状の姿が本体みたいだね」
「ステータスは?」
「僕の体重みたいに、すべて秘密になってる」
「さすがに開示はしてくれないか」
ゲームのボス戦は、何も分からないまま倒さなければいけないことが多いもんな。
――何をこそこそと話している?――
「お前を倒す算段だよ。ファイヤー・ボルト」
覧は、牽制のために魔法を放った。
ぼんっ。
「よし、あたった」
霧状の本体が霧散する。
魔王め、弱いじゃないか……と思ったのも束の間、すぐに元の形に戻った。
――無駄じゃ。我は霧。魔法など効きはせん――
魔法が効かないだって?
覧は、落ちていた小石を投げた。
――わからんか? 私は霧。もちろん、物理も効かない――
「魔法も物理も効かない? 覧、どうやって倒すのさ?」
「それは今から考える。ちょっと、びの君は黙ってて」
はーい。何もしないことが協力ってやつですね。
僕は周りを警戒しつつ押し黙った。
――さて、我と普通に戦えば、主たちが勝てないということは、理解してくれたかな?――
「そうみたいだね」
――挑戦状通り、これから頭脳戦を始めようぞ――
「頭脳戦?」
覧は確認する。
――そうじゃ。頭脳戦じゃ。命を賭けたな……ところで、お主らは、たった二人で来たのか?――
「ああ、そうだよ」
――肉体がある人間の余裕か? たった二人で我を倒そうとは……なめられたものじゃな――
「あなたに体がないってこと、今、はじめて知ったんだけど?」
――そうやって、体があることを我にアピールしているのか?――
いや、どう考えても、僕達体があるアピールしてないよね?
きっとこの魔王は、精神が不安定なんだな。
一人称も語尾もそろってないし。
――まあ、よい。命を賭けた頭脳戦するのか、しないのか?――
「ボクが条件も訊かずに、簡単にするっていうと思う?」
――別に、しなくても良いぞ、しないというのであれば、ジオフの町がなくなるだけじゃ――
「まさか……」
――その『まさか』じゃ。すでに、毒の仕込みは終わっておるわ。もしも町の住人を守りたいのであれば、主たちができるのは、頭脳戦をするの一択のみ――
「なんて卑劣な」
覧は、眉を顰めて、そう吐き捨てた。
――さて、最後にもう一度だけ問おう。頭脳戦をするのか、しないのか――
「するよ」
こたえたのは僕だった。
――よくぞ、もうした。それでこそ、勇者。勇者たちと頭脳戦ができることをどれほど待ち望んだか――
「その代わり、町の人はまきこまないでよ」
――ああ、約束しよう――
ああ、関係のない人を巻き込みたくなくて、ついつい言ってしまった。
頭脳戦……僕が一番苦手な戦い……
僕は、ごくりと唾を飲みこんだ。
――ルールは簡単。わっちが得意の変化の術・今鏡を披露する――
――霧が晴れるまでに偽物を見極めて、倒せばいい――
――この霧が晴れるのは、1時間後――
――1時間以内に、偽物を倒せば、私の負け――
――でも、もし、偽物を倒せなかったら、君たちの負け――
――負けたほうには死が待っている――
――ルールは以上――
――さあ、始めようか。命をかけたデスゲームを――
長い髪の女を模した霧が散り散りになり、城全体に霧がかかっていく。




