びのと覧、挑戦状をうけとる
夜のお城にて――
「王子様、私のミスのせいで、勇者びのを取り逃がしましたのに、許してくださり、ありがとうございます」
「誰にでもミスはある。まあ、よくよく考えてみれば、勇者を監禁したことがばれたら、母に何をいわれるかわかったものじゃないからな。結果オーライだ」
「王子様……」
「それにしても、今日は冷え込むな、大臣」
「そうですね、少し霧がかかっています」
「珍しいな。霧なんて……」
「こんな日は、お化けでもでそうですね」
「がはは、馬鹿言うな、大臣」
「ほら、霧がまるで人の形に……あわわわわわ」
「どうした、大臣?」
「本当に、霧が人の形になっています」
「なんだと?」
「ほら、あそこ、床まで髪を伸ばした女性のようです」
「そんなわけ……あったー」
――届け物じゃ。これを勇者に――
――二人そろって気絶しておるわ。まあ良い――
――腹の上にでも置いておけば気付くじゃろ――
…………
……
「大変です。びの様、覧様」
おじさん姿の大臣がチャイムもせずにドアを叩く。
「どうしたの? こんな朝早くに?」
また、僕だけを城へ連れていこうとしてるのか?
とりあえず、家の鍵を開ける。
「大変なんです、びの様」
「大変? 何があったの? もしかして、王子様と喧嘩したとか?」
クビにはならなかったと聞いたけど。
「いいえ、喧嘩ではありません。挑戦状でございます」
「まったく、大臣、王子様に何したの? 王子様から挑戦状なんかもらっちゃって……あっ、わかった! 挑戦状とか言ってるけど、中身はラブレターだったとか? 実は、王子様も大臣のことが好きでした……みたいな」
「そんな冗談を言っている場合ではありません。挑戦状です」
「誰に?」
「びの様です」
「僕?」
そっかー、僕かー…………
そうだよね。僕、勇者だからね。
挑戦状の1通や2通くらい……
「……って、え? 僕?」
何で?
僕にくるのさ?
「いったい誰から?」
「そ……それはですね……」
僕はごくりと唾を飲み、大臣の次の言葉を待つ。
「魔王からです」
「そっか、魔王か……って、魔王!!」
まさかの魔王!!
「どんな挑戦状が届いたんですか?」
「こちらをご覧ください」
勇者様へ
大変お世話になっております、勇者様。
今、話題の魔王の一人さ。
自分、もしかして、怖くて怯えてるん?
勇者ともあろうお方が、まだ、一体も魔王を倒してないっしょ?
のう、わっち暇やねん。頭脳勝負しようよー。
城には、何人で来てもいいしね。
老若男女問わず、大人数で攻めても問題ないからっ。
人数少なくても、大丈夫やよ。
殺し合いやけど、体力勝負やなくて、頭脳勝負やから、頭のいい者集めて来い。
いい勝負しようぜ。
あ、そうそう、うち、そんなに気が長くない。
次の満月までに、勇者が指定の場所に来ないのであれば、こちらから、攻めさせてもらうよ。
この町の関係ない人間を殺されたくなかったら、指定の場所まで来なさい。
ほなな
魔王 近況
「ねえ、次の満月って書いてあるけど、それっていつなの?」
「今晩でございます」
「そっか、今晩か……」
ん? 今晩?
つまり、それって……
「今日じゃないか!!」
「ですから、大変なんです」
「はやく、行かないと」
「行くって、びの君、大臣と二人でどこへ行こうっていうの?」
覧が禍々しいオーラをまといながら、2階から降りてきた。
「誤解しないでくれ、覧。魔王の一人、近況からの挑戦状が届いたんだ。今日の夜までに近況の『指定する場所』に行かないと、町の人が犠牲になるかもしれないんだ。だから、僕急いでいるんだ。覧も急いで、『指定の場所』に行こう」
「『指定の場所』って、びの君は、どこに行くの?」
覧は冷静に僕に訊いてくる。
「『指定の場所』は、『指定の場所』だよ。早く行かないと、町の人が巻き込まれちゃうよ」
「落ち着いて、びの君。その『指定の場所』って、どこのこと?」
「え? 多分、『指定の場所』っていうところが、このジオフの世界にあるんだよ、ね、大臣?」
異世界なんだし、通称『指定の場所』というところがあるのだろう。
「そんなところありませんよ」
大臣は、大きな声でこたえた。
「ほら、大臣だって、『指定の場所』がない……って、なんだって!! じゃあ、僕達はどこへ行けばいいのさ?」
僕は、大臣に問い詰めた。
「わかりません」
困った顔をして僕を見つめてくる大臣。
どこに行けばいいかがわからなければ、八方ふさがりじゃないか。
「びの君、その送られてきた挑戦状を貸して」
僕は覧に送られてきた挑戦状を渡す。
「どうしよう、覧?」
「びの君は一回落ち着いて。深呼吸」
僕は覧に言われた通り、すーはーと深呼吸をした。
「ねえ、びの君、もし、指定の場所がわかったら、本当に魔王・近況を倒しに行くの?」
僕が深呼吸をしている間、挑戦状をわずか数秒で読み終えた覧は、僕に確認をとる。
「もちろんさ」
「ボク達、レベルあげられないんだよ? ステータスは初期値のままなんだよ? それでも、魔王を倒しに行くの?」
「ステータスなんか関係ない。関係ない町の人を巻き込むわけにはいかない」
「ボク達、弱いのに?」
「戦う覚悟はできてるよ。それに、僕は弱くない。覧が言ったんじゃないか、弱いから戦わないんじゃない、戦わないから弱いままなんだってね」
「びの君の覚悟は分かった」
「いや、僕の覚悟を確認しても、どこに行けばいいかわからないじゃないか」
「そんなことないよ。だって、指定する場所がわかったから」
「覧、本当?」
「うん、多分ね」
「それじゃあ……」
僕は、意気揚々と戦いの地へと赴くため、一歩を踏み出す。
「うん、それじゃあ、びの君。まずは、リネマのお城に行こう」
僕は踏み出した一歩をひっこめて、覧のほうへスタスタと駆け寄った。
「今から、僕が戦いの地へ行く、カッコいいシーンなのに、邪魔しないでよ、覧」
「邪魔する気は毛頭ないよ」
ん? 邪魔をする気は毛頭ない?
「それってつまり、『指定の場所』はリネマのお城ってこと?」
そうだ、それなら、説明がつく。
よし、改めて、決戦の地へ……
「違うよ」
赴けなかった。
いわゆる、二度目の肩透かしである。
「覧、ふざけてる場合じゃないんだ。満月の日って、今日なんだよ? だから、はやくなんとかしないといけないんだよ?」
ここは、すぐに近況を討伐しに行くシーンでしょ。
「まずは作戦会議。こういうのは、作戦をたてないといけないの」
「作戦会議なんか意味あるの?」
「びの君、作戦会議って滅茶苦茶大切だから」
「え? そうなの?」
作戦なんか考えたことない僕にとって、まったくイメージがわかない。
「大臣が乗ってきた馬車で城へ向かってもかまいませんよね、大臣?」
「ええ、まあ」
「びの君」
呼ばれて、メイキャップを渡される。
「城に行くんだから、それなりの格好しないと。どんな時でもTPOって大切だよ」
覧は、騎士が着るメイルを着ていた。
「わかったよ」
僕は、ロココ調の貴族のような格好に一瞬で着替え、急いでお城へと急いだ。
どうでもいいけど、この格好は、恥ずかしい。




