びのと覧、アンティーク屋さんに到着する
「じゃあさ、覧が、核爆弾作ればいいんじゃないの?」
「うーん、電球もない、ここの文明だと、難しいかな……早くて3年くらいかかるしね」
「3年も?」
「そう、3年」
覧の頭脳を持ってしても、3年か……
3年は長いな……
父さんも母さんも心配するだろうしな。
「そもそも、魔王に爆弾が効くかどうかも分からないし。どうする、びの君、3年かけて核爆弾を開発したのに、魔王に核爆弾当てたら、全部魔法で跳ね返されました……とかだったら」
「うわっ、時間と労力と、この世界が無駄になる」
「そうだよねー。それに……」
「それに?」
「一人で核爆弾作るのは、大変だから、助手が必要になるしね」
「助手がいると、何か問題になるの?」
「もし、その助手が核爆弾の作り方を誰かに漏らして、その情報を悪用したら……」
「悪用したら?」
「この世界の支配者が魔王から人にかわるだけ」
「え?」
「考えてもみなよ、もし、核兵器で魔王が倒したら、その次は人と人とで戦争始めるでしょ、きっと」
確かに。
「科学で魔王を倒すのは、おそらく、最終手段だよ、びの君。それまでは、この世界のことわりに則り地道に魔王を倒すしかないね」
「でも、僕達、ステータスが弱いよ。どうするの?」
「どうすればいいと思う?」
覧は僕の質問に質問で返す。
うーん、どうすればいいんだろう。
今のままじゃ魔王を倒すことなんてできないからな……
「あ、分かった。魔王と戦わなければいいんだよ」
「それって……」
「僕と一緒に逃げよう、覧」
「それって、駆け落ち?」
「いや、そういうのじゃないから」
時々覧の頭の中はお花畑な考えになるんだよな……
「じゃあ、どういうこと?」
「転移装置だよ、転移装置!! 覧が転移装置をこの世界で作ってくれれば、僕達は元の世界に帰れるじゃないか」
「転移装置を作るには、最低限、コンピューターがないと難しいよ」
「それじゃあ、コンピューターを……」
「ここの文明じゃ、早くても、12年はかかるね」
覧の頭脳をもってしても、12年。
「12年は長いよ」
「もしも、びの君が勇者じゃないと言っていたら、牢屋にいることになるから、一生かかってもできないよ?」
「おお、そう考えると、12年って短いのかも」
「たった今、びの君は戦っているんだ」
「今? 僕が? 何とさ?」
そんなことしただろうか?
「現実とだよ」
「現実と?」
「そう。最初のほうは、レベル上げもできない、装備もできない、ギルドにも所属できない……といったように、びの君はできないことに目を向けていた」
確かに。
「でも、今びの君は、今できることに目を向けようとしている。それは、現実と戦っていることだとボクは思う」
「できることに目を向けて現実と戦っている……」
実感はなかったが、覧に言われて、そんな気がしてきた。
「今を感じて、今できることを、精一杯やることが今のびの君の戦い方だよ」
覧と話していると、アンティーク屋さんに着いた。
「あれ?」
店のショーウィンドウを覗くと、見知ったオブジェがあった。
「あれって、びの君の折った鶴じゃない?」
覧が店内を指さす。
その指の先には、折り鶴が置かれていた。
そうだ、間違いなく、僕がナルにあげた鶴だ。
「どうして、アンティーク屋さんに?」
ナルは、アンティーク屋さんの娘だったってことか?
「分かった。ナルって子どもが転売ヤーだったんだ」
「転売ヤー?」
「珍しいものを買い取って、高いお金で売る仕事をしてるんだよ。びの君がせっかく折った折り紙を転売するなんて、ナルって女、本当に許せない。転売ヤー滅すべし」
僕と覧は、店内に入る。
「いらっしゃい、ああ、勇者様じゃないか」
「「こんにちは」」
二人そろって挨拶をする。
「ああ、この前の手形のお金だね? ちょっと待って」
「お金の前に訊きたいことがあって……」
「なんだい?」
「この折り紙って」
「ああ、この鳥かい? 珍しいだろ?」
「ええ、まあ」
ナル、珍しいから、お金にしたのかな……
「これは、近くに住む女の子が売りにきたんだ」
「そう、ですか」
僕は、言葉に表せないほどのとてつもないショックを受けた。
「これ、おいくらなんですか?」
訊いたのは覧だった。
「悪いが、こいつは売れないんだ」
「え?」
「その子は、先の徴兵令でお父さんが連れていかれてしまって、そのまま帰らずでね……お母さんも体が弱く、先日倒れて一気に貧しくなったんだ」
そうか、だから、すりをしようと思ったのか……
「お母さんの薬代として、お金が欲しいからと言って、この紙の鳥を売りに来たんだけど……」
お母さんの薬代……
「必ずお金を返すから、この鳥は誰にも売らないでくれと、その子は、泣きながら、この紙の鳥を売ったんだ。なんでも、友情の証だとかでね」
そういう事情だったのか……
「『お金は集められるのか?』……って尋ねたら、『お金になるかどうかは分からないけど、観光客にこの町の案内をする』って言ってたな……そんなの、誰もしていないから、金になるとは思わないけどな」
僕は、ほろほろと流れる涙を止めることはできなかった。
「おやおや、この鳥にそんなに感動したのかい、勇者様? それなら、予約するかい?」
「いや、予約はいいでず」
きっとナルなら、自分でお金を集めて取り返しにくるだろう。
最後は鼻をすすりながら、予約を拒否し、お金だけもらった。
「転売したわけではなかったね」
「でも、転売一歩手前じゃない?」
「いや、ナルにあげた僕が言ってるんだ。だから転売ではない」
「びの君がそう言うならいいけどさ」
僕と覧は、会話をしながら、家へと戻る。
「ちょっと、休憩しよう、覧。バッグ重いから疲れちゃった」
400ゴールドは結構重い。
「その重みは、お金のありがたみだね。苦労せよ、少年」
「その言葉を、僕より年下の少女に言われたくないな」
「もう、誰が、びの君より年下の美少女なの?」
「僕は美少女とは言っていないんだけどな……」
まあ、実際、美少女だけどね。
「ほら、今、言った。美少女って」
「言ってないよ」
「言ったってば」
この後、家に帰るまで、言った、言ってない論争が勃発した。




