びのと覧、隣家に引っ越しのごあいさつをする
覧と話していると、お隣さんの部屋に明かりがともった。
「あ、お隣さんやっと帰ってきたみたい」
昨日は、ここについたのは夕方だったし、疲れてすぐに寝ちゃったから、挨拶をしていなかった。
「それじゃあ、引っ越してきた挨拶をしに行こう。びの君、ソーセージ持って」
「でも、本当に、引っ越しの挨拶が、ソーセージ一本でいいのかな?」
「この町の習わしだってルエ店長が言っていたから、いいんじゃない?」
「なんか、違う気がするんだけど……」
「郷に入っては郷に従えだよ」
「よし、ちゃっちゃっと挨拶してこよう」
僕と覧は、お隣へと向かう。
「すごいな。薔薇のガーデニングアーチか……」
覧は、お隣の玄関前にあった感嘆する。
3メートルほどの高さもあるアーチに無数の薔薇が咲き乱れていた。
ルエ店長の話だと、若い女性が一人暮らしって言ってたけど、一人でこのアーチの手入れは大変だろう。
庭師さんに手入れしてもらっているのだろうか?
もし、庭師さんに手入れしてもらっているなら、ここに住んでいる女性はかなりのお金持ちなのだろうか?
もしかしたらお友達……いや、恋人関係になれるかもしれない。
「びの君、顔がにやけてるけど、何考えているの?」
「何も考えてないよ」
覧に指摘され、すぐに真顔に戻る僕。
「本当かな?」
「本当さ。そんなことより、はやく挨拶をしよう」
アーチをくぐり、玄関に到着する。
玄関の軒下には簡素な机があり、その机の上にベルが置かれてあった。
この家では、これがチャイム代わりなのだろう。
チーン
僕はベルをならした。
「すみません、隣の赤い屋根の家に引っ越してきたものです。挨拶にあがりました」
「はーい」
中から疲れた声をした女性の声が返ってきた。
「挨拶なんてわざわざいいのに……って、え? びのと覧? 家の隣にいたんかいっ」
ドアを開けたのは、顔のソバカスが目立つ、ネグリジェ姿の10代女性だった。
「あれ? 何で僕たちの名前知ってるの? どこかであったっけ?」
見覚えは全然ない。
覧の方を見るが、覧も眉間にしわを寄せていた。
「勇者びの様と覧様といえば、この界隈で知らない人はいませんことよ。おほほほほ……ソーセージ、ありがたくいただきますわ。それでは、ごきげんよう」
「えっと、君の名前は?」
僕が尋ねると、バタンとドアを閉められた。
人見知りな子なのか、あるいは逆にマイペースで能天気な子なのかもしれない。
僕達は自分の家へと帰った。
「何なんだろうね、あのお隣さん」
家に帰ってきた僕達は、椅子に腰かけながらお隣さんについて話し合う。
「ボク達のことを知っているみたいだったけど……」
チリン、チリン
僕たちの家の呼び鈴がなった。
「風かな?」
「風じゃないよ。僕達の呼び鈴にはきちんと風よけがあるじゃないか」
「誰だろう? こんな時間に?」
「誰かは分からないけど、一応、臨戦態勢でいたほうがいいよ。おばけかも」
「またまた、冗談言って。おばけが呼び鈴を鳴らせるわけないじゃないか……」
「……」
視線をそらし、返事も返してくれない覧。
もう一度チリン、チリンと鳴る呼び鈴。
「え? 本当に?」
お化けという可能性もあり得るな。ここ、異世界だし。
僕は、唾をごくりと飲み込むと、念のためホルスターに銃を入れた。
「はーい、今、開けます」
僕はドアを開ける。
「こんばんは」
目の前には、大臣がいた。
王宮であった時とは異なり、口にはカノンを咥え、腰には短剣をさしている。
何でここに大臣がいるんだ?
まさかと思い、咄嗟に、足を確認する。
「こんばんは。足はありますね……」
良かった。お化けではない。
「開口一番、何言ってるんですか? びの様」
「こっちの話です。それより、どうしたんですか、こんな時間に」
時計はないが、現実世界であれば、夜の9時を過ぎているころだ。
「あー、勇者びの、頼みたいことがあるんだ。ちょっと」
ぎこちなく頼みごとをもちかける大臣。
頼みづらいことなのだろうか?
「え? なんですか?」
「今、王様が勇者びのを呼んでいるんです」
「そうなの? 覧、僕ちょっと行ってくる」
王様がいったいこんな時間に何の用事だろう?
「じゃあ、ボクも」
「いやいや、勇者びのだけを連れてくるようにとの命令なのです。悪いが、覧さんは、ここにいてもらえますか?」
「びの君だけに、何の用?」
青筋を立てながら質問する覧。
「何の用って言われても、私が聞いているわけないだろ」
「じゃあ、ボクが行っても構わないよね?」
「え? ……あ、いや、あ、ほら、勇者びのだけに伝えることがあって……」
「びの君に伝えること? びの君に話しても、ちんぷんかんぷんだよ」
「失礼だな。僕一人で……」
覧の無言のエルボー
「話が通じるわけないじゃないか。覧の助けが必要です」
ここは覧と話を合わせたほうが良い。
「そうだ、そうそう、これは、男の男による男のための会議なんだ。だから覧さんには遠慮していただきたい」
「男の? 男による? 男のための?」
覧は、男という単語がでるたびに怒りボルテージを上げている。
「そんないかがわしいところ、絶対びの君を行かせないんだから」
「いかがわしくなんかないですよ。覧さん。ちゃんとした、話し合いです」
「ちゃんとした話し合いなら、ボクが行ったって問題ないよね?」
「それは……ちょっと……」
「ほら、いかがわしいんじゃない。ボクを騙そうとしたってそうはいかないんだから」
「そんなことないですって」
「ところで、大臣、一つ訊いていい?」
覧は、急に真面目な顔で大臣に問いただす。
「なんでしょう?」
大臣も、空気を察したのか、ごくりと唾をのみこんで、こたえた。
「どうして、ボクとびの君がこの家に住んでるってわかったの?」
「えーと、それはですね……いいから、勇者びの、行きましょう」
大臣は覧の質問にはこたえずに、僕の手をひいて走り出した。
「え? あ、ちょっと、大臣?」
大臣に手をひかれ、僕は走り出した。




