びの、ステータスに変化あり
僕は慌ててバッグからスクロールを取り出し、ステータスをチェックした。
「どうだった?」
覧は探索魔法を唱えて、周囲に魔物がいないことを確認した後、心配そうに僕に尋ねた。
「スキルはなかった」
『解放しないなら、この天才ガンマン、旅乃びのの銃が火を噴くぜ』だって……
僕の黒歴史がまた一つ増えた……
唯一の救いは、覧にしか知られていないことくらいだろう。
もしこんなこと、世界中の人の目にとまるインターネットとかにさらされたら、生きてはいけない。
世界中に拡散されてないから、生きていけるけど。
「そっか、残念だったね。レベルは?」
あ、そうだそうだ、レベルもチェックしないと……
「……って、え? 僕のレベルが……」
僕は声にならないほどびっくりした。
「どうしたの、びの君……って、え?」
覧も僕の異変に気付き、ステータスを覗き込む。
なんとういう、ファンタスティック!!
あの、ハードスライム、どんな経験値を持っていたのだろう?
いや、それとも、僕の目がおかしいのか?
目をこすって、もう一度スクロール確認する。
間違いない。9がいっぱいになっている。
旅乃 びの(たびの びの)LV0.9999…… 身長:172cm 体重:58kg
HP:0.9999……
MP:0.9999……
天職:特になし
筋力:0.9999……
体力:0.9999……
耐性:0.9999……
敏捷:0.9999……
魔力:0.9999……
魔耐:0.9999……
運 :-0.9999……
技能等:言語理解【日常会話・超簡単な読みのみ】 レア度:なし
折り紙付き折り紙 レア度:なし
「なんで、僕のレベルが下がってるの? 何? 0.99999……って」
「いや、待って、びの君、運は上がってるよ」
「誤差の範囲だよね? 全然うれしくないんですけど」
「それを言ったら、他の下がったステータスも誤差の範囲だよ」
「いや、まあそうなんだけどさ」
言いたいことはそういうことじゃない。
「覧、確認なんだけど、僕、ハードスライム倒したよね? 妄想のハードスライムじゃないよね?」
「うん、あれは妄想なんかじゃないよ。びの君は、確かにハードスライムを倒した」
「倒したなら経験値が入って、ステータスもあがるよね?」
「うん。ボクが魔法の授業で、この世界でモンスターを倒すとレベルが上がって、強くなれるって習ったし、教本にもそう書いてあった」
「それなら、レベルが下がるなんておかしいじゃないか」
「ボク達はもともとジオフの世界の住人ではないから、教本に書いていないことがおこったのかもしれないね」
「それってどんなこと?」
「もしかしたら、モンスターを倒せば倒すほど、ボク達のレベルが下がっていく……とか?」
「そんなことあるわけないじゃないか!!」
僕は大声で覧を否定した。
「あり得るよ。だって、この世界では装備もままならないんだよ」
確かにそうなのだ。
僕達はまともに装備さえできないのだ。
「それでも、僕のステータスが1以下になるなんてことあってはいけないんだ!!」
現実世界での通知表でもらう1より少ない数なんてあってはならない。
「もともと、びの君の運は-1だからね? -1がある時点で、1以下はあるから」
「そんなの認められないよ」
モンスターを倒せばレベルが上がって、少しずつ強くなれると思ったのに……
「現実を受け入れたくない気持ちも分かるけど、これがリアルなんだ」
「そんな……」
僕は膝から崩れ落ちた。
「びの君、とりあえず、家へ帰ろうか。ボクは体中べとべとだし、びの君もこれ以上狩りをしたくはないだろうから」
これ以上のモンスター狩りは無理だと判断した覧は僕に促した。
「……そうだね」
覧はべとべと状態、僕は放心状態のまま帰路についた。
…………
……
僕は家に帰ってすぐに、コップの水を飲み干した。
椅子に座り、一息つく。
装備もできない上に、レベルもあがらないなんて、どうなってるんだ、この世界は?
「そういえば、覧。覧の空気銃は?」
お風呂から上がってきた覧に尋ねる。
「ボクのはないよ」
「え? なんで? 覧も持っていた方がいいよ、空気銃」
もし、空気銃をもたない覧がハードスライムに襲われたら、次こそ助からないかもしれない。
「空気銃を持っていたいのはやまやまなんだけど、もう材料がないからね」
「材料がない? なんで?」
「びの君の空気銃は、ボクが持って来た懐中電灯を分解して作ったんだよ」
「え? それじゃあ、僕の銃って……」
「ジオフの世界に一つだけの銃だね」
超レアな銃じゃないか……
「じゃあ、覧専用の武器ってないの?」
「女性の色気……かな?」
バスタオル姿のまま、髪をかき上げ、うなじを見せて、ポーズをとる覧。
「それはない」
バスタオル一枚で家の中を練り歩く、ちっちゃい小学生が何を言ってるんだ。
「あると思うけどなー」
覧は自分の体を見ながらつぶやく。
「冗談抜きで真剣にはなしてるんだけど」
「ごめん、ごめん」
「銃じゃないにしろ、弓とか作らないの?」
「作らないかな」
「どうして?」
「ミドラさんのところで、弓も持たせてもらったんだけど、ボクに才能ないみたい。使いこなすには、スキルが必要なんだよ」
「ほら、僕みたいに、矢を装備品にしないで……」
「そうすると、ボクの筋力がかなりないといけないしね」
「じゃあ、杖とかは?」
「杖は装備品だから、装備品を媒介にして魔法を唱えると、杖も溶けるんだよね」
「え? 溶けるの?」
僕の銃みたいに溶けないのかと思ったけど、違うのか……
「うん、びの君の銃には装備の魔法は施されてないからね。さっきも言ったけど、装備品で魔法攻撃したら、通常攻撃と同じように1回で溶けるって考えて」
「それなら、この銃、覧が持っていた方がいいんじゃないかな?」
僕は覧に空気銃を差し出した。
「ボクには、魔法があるから大丈夫だよ。それよりも丸腰のびの君のほうが心配だよ」
「でもさ、ハードスライムが襲ってきたら……」
「その時には、びの君、頼りにしてるからね」
僕を頼りにされても、覧を守れる自信はないんだけど……
「そういえば、覧、この世界に来てから、発明してる?」
「いや、その空気銃くらいかな……魔法を研究してるから、あまり発明はできないし」
「そっか……」
「ジオフの世界の科学は、全然発達してないから、いくらでも発明できそうだけど、趣味の発明に時間をかけるくらいなら、魔法の練度をあげたほうがよさそうだしね」
覧は、僕に微笑みかけた。




