びのVSスライム
腰に手を当て、MPポーションを飲み干す覧。
「ぷはー、やっぱ、これだね」
覧、MPポーションは、牛乳じゃないからね。
……ってか、MPポーションは覧、初体験なんじゃないか?
「そういえば、覧の魔法は、一回でどれくらいのMPを使うの? 最大MPは12だったよね」
「あ、それは、一概に固定値を出すことはできないんだ」
「どういうこと?」
「えっと……魔法の威力を簡単な数値で表すと、集めた魔素×練度×MP×魔攻のステータスなんだ」
「ん? 魔素と練度とMPと魔攻のステータス?」
「一つずつ説明するね」
「よろしくお願いしします」
「まずは、集めた魔素から。魔素っていうのは、自然界にある魔力の元だね。どこにでもあるものなんだ」
「じゃあ、どこでも魔法は使えるんだ」
「うん。でも、場所によって、その魔素の質が異なる」
「何? 魔素の質って?」
「この草むらには、風と地の魔素が多くて、水と火の魔素は少ない。それはイメージできる?」
「ここは風がふいていて、地面もあるから、風と地の魔素が多くて、水と火がないから、魔素はすくないってこと?」
「うん、そういうこと」
「それなら、イメージできそう」
「そして、場所によって魔素にも強さがあるんだ。例えば、町の井戸の近くより、川の近くの魔素のほうが、滝の近くのほうが強い水の魔素が多い」
「それじゃあ、キャンプファイヤーの近くに行けば、強い火の魔素が集められるってこと?」
「大雑把だとそんなイメージ」
「この魔素なんだけど、スクロールとか装備品の物は、その魔素をため続けることができるんだ」
「そういえば、ミドラさんがそんなこと言っていたね」
「そう。だから、ヴィンテージものは、高価になる」
「人はどうなの?」
「人は、生まれつき集められる数が決まっている」
「え? じゃあ、僕は?」
「びの君の場合は0だね。だから、魔法が使えないんだよ」
「そっか、残念だ」
「人によって集められる上限が決まっているから、より強い魔素を蓄えようとするんだ」
「ん? どういうこと? 上限があるのは分かるけど、より強い魔素のことがよくわかんない」
「ボールを持つという風に考えると分かりやすいかな? ボールを10個しかもてないけど、そのボールが、攻撃力1のボールと攻撃力2のボールだったら、びの君、どっちを持つ?」
「そりゃあ、攻撃力2のボールだよ」
「そのボールが魔素だと考えてくれればいい」
「なるほど、そういうことか」
攻撃力1のボールよりは攻撃力2のボールを10個持っていた方がいいに決まっている。
攻撃力が高い魔素が、質のいい魔素ということだろう。
「魔素についてはなんとなくわかった?」
「うん、なんとなく」
「それじゃあ、次は、練度だね。例えば、ファイヤーボルト。ボクがMP1を消費して魔法を唱えると、練度が低い……言い換えると、慣れた魔法じゃないから、今はこのくらいの大きさになる」
覧の手の上で、野球ボールくらいの火の玉ができあがる。
「そんで、MP2を消費すると、この位」
火の玉はバスケットボールくらいの大きさになった。
「例えば、MP2の大きさを維持しながら、火炎放射器のように敵に当て続ければ、毎秒MP2が消費されるって仕組みだね」
「へー」
「魔法の練度や使い方によって、MP消費は異なる。まあ、ゲームの世界じゃないから、当然なんだけどね」
「なるほどね」
そっか、ゲームじゃないんだもんな。
「ボクのこのバスケットボールくらいのファイヤーボールの場合、たき火の魔素2に、練度が低い魔法1、消費MPを2にして、ボクの魔攻は12だから、2×1×2×12で、威力は48だね」
「だから、時と場合によって、威力がことなるってことだね」
「うん。そういうこと。その他にも魔法は複雑なんだけどね。もしも、相手が同じくらいの威力を同時に放てば相殺されたりするし、その相殺も、魔法の系統によっては威力が少なくて良かったりするし」
「ああ、炎は水で消えるみたいな」
「そう、すっごい複雑。さて、おしゃべりはこれくらいにして、びの君も一匹倒してみよう」
「僕には、無理だよ」
覧の戦闘を見ていて感じた。僕には無理だと。
「どうしたの? ボクでも倒せたんだよ? 大丈夫、一匹倒してみよう」
「覧は、魔法も使えるし、僕よりステータスも高いから、そんなことが言えるんだ」
「違うよ、びの君。びの君は、弱いから戦わないんじゃない。戦おうとしないから弱いんだ」
「戦おうとしないから、弱い?」
「そう、戦おうとしなかったら、何も変わらない」
「僕は、覧みたいな怖いものしらずじゃないんだから」
「びの君、モンスターって、言葉も通じない、未知の相手だよ? 怖くないわけないじゃない」
「覧も怖いの?」
「当たり前だよ。ボクも最初、怖かった。だけど、教わった通りにすれば、モンスターを倒せるって、勇気をなんとか絞って倒したんだ」
「僕は、倒し方なんか教わってない」
「ボクがサポートするから、大丈夫」
「でも、怖いな」
「最初に言ったでしょ? 怖いからといってモンスターと戦おうとさえしなければ、心も肉体も弱いままだよ」
「覧……」
「大丈夫、すぐそばでボクがびの君を見守ってるから」
「覧、僕、戦うよ」
「さっすが、びの君!! それじゃあ、索敵魔法……前方10メートル、草むらにスライム1体発見」
「よーし、僕は行くぞ」
「まずは、自分の実力を試してみよう」
「うん、わかったよ」
「もし、何かあっても、ボクが優しく介抱してあげるから、安心して戦って」
「よしっ、スライム、かかってこい!!」
僕はスライムを相手に徒手空拳で戦いを挑むのだった。
「とうっ、とうっ」
さっきの強化した覧の動きを真似して、拳で何度もスライムを叩くが、全然ダメージを与えられない。
スライムをつねってみる。
ぷにっ。
とりあえず、気持ちいいんだけど、やっぱりダメージを与えることはできない。
スライムも制服を着た僕にダメージを与えることができないようだ。
膠着状態が30分も続いている。
「周りに敵はいないよ。そのスライム1匹と全力で戦って。がんばれー、びの君」
少し離れたところから、覧が応戦をしてくれる。
「くっそー、僕は、スライムとさえ引き分ける運命なのか」
「びの君、もっと周りを見て」
周りって言われても……
周りは殺風景なだけで、特に気になるようなものはないんだけど……
あ、そうだ。
足元にある、手のひらサイズの石を投げてみよう!!
えいっ!
石が当たった瞬間、怯むスライム。
おおっ、ダメージを与えることができた気がする。
僕は、周りに落ちていた石を投げつけた。
5回投げたところで、スライムは石と共に虚空へと消えていった。
装備ができないからって、道具が使えないわけじゃないのか……
やったー
はじめてモンスターを倒したぞ。
「やったね! びの君!!」
覧とハイタッチする。
「まあ、スライム相手に道端の石ころを使って30分以上かかったんだけどね」
「大切なのは倒した相手でも、倒した手段でも、倒すためにかかったでも時間でもないよ」
「じゃあ、何?」
「びの君が自分からモンスターを倒そうとして、モンスターを倒したってことだよ。びの君は前より強くなった」
本当に覧はいい子だなぁ。
「モンスターをはじめて倒して強くなった、びの君にご褒美です」
「え? 何、何?」
「じゃじゃーん」
覧は、くまさんポシェットから黒いブーメランのようなものを取り出した。




