覧も着替えをする
「じゃあ、ボクも着かえるか……」
「……って、なんで普通にメイド服を脱ぎだすの? 覧」
「服を着かえるのに、なんで、服を脱ぐのって聞かれても……ボク、困るな」
「いや、服を着かえるのに、服を脱ぐのは当たり前なんだけど……」
「当たり前なら、問題ないじゃない。何言ってるの、びの君?」
あれ? そうだよね?
服を着かえるんだから、服は脱がないといけないよね……
「……いや、違うよ。そうじゃないよ。メイキャップがあるのに、なんで、普通に服脱ごうとしてるのかを訊きたいんだよ」
「ほら、メイキャップって被るのが面倒じゃない?」
「覧、昨日までは、服を着かえるのが面倒っていってたよね?」
「びの君、昨日は昨日、今日は今日だよ」
「何その理論? そんな理論聞いたことないよ」
「でも、昨日はメイキャップ買おうとしたら、お金がもったいないって、びの君言ってたよね? もし、メイキャップを買っていなかったら、普通に着替えをしてるよね?」
「覧、知らないのか? 昨日は昨日、今日は今日なんだぞ」
キメ顔をつくる僕。
「それ、さっきボクが言った理論だよね?」
はい、おっしゃる通りです。
「あれ? 普通に着かえるってことは、もしかして、メイキャップないの?」
確かに、メイキャップを1枚しか買ってなければ、普通に着かえることはあり得る。
「あるよ」
「あるなら、被ろうよ。一瞬だよ」
何故被らない?
「えー、情緒がないよ」
「情緒とかいらないから、覧が一瞬で着かえるところ見てみたいな」
「え? びの君、ボクが着かえてるところ見たいの? 仕方ないな」
「わー、だから、脱ぐなってば。メイキャップで変身するところがみたいの」
「もう、仕方ないなー」
覧は、メイキャップを被り、着替えをする。
「魔女っ子?」
覧は、青いつばの広い三角帽子に、箒型の杖、青いローブで身を覆っている。
「似合ってる? どうせ、魔法ギルド行くんだから、それっぽい格好をしようと思って」
「似合ってるよ……って、それ、装備だよね?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、もし、攻撃されたら……」
「溶けるね」
この子、言い切りやがりましたです。
「ん? もしかして、びの君、ボクのこと攻撃しようとしてる? きゃー、びの君のエッチ」
「いや、そんなこと考えてないから」
「じゃあ、どんないけないこと考えてるの?」
「いけないことって前提は止めてもらおうか」
僕は、いたって真面目なんだから。
「それより、覧、もし、みんなの前で溶けちゃったら、公然わいせつ罪で捕まってしまうのではないか?」
「まあ、町の中には、基本、モンスターはいないから大丈夫じゃないかな?」
「モンスターはいないかもしれないけど……」
「しれないけど?」
「男は狼だというよ」
街中でごろつきに因縁をつけられるなんてこともあるかもしれない。
「……ということは、びの君も狼なの?」
「僕は狼じゃない」
「えー、つまんない」
覧、言ってることおかしいよね?
「そもそも、僕は、つまんなくなんかないし」
「じゃー、やっぱり、狼なの?」
しまったー。覧の罠だった。
「僕は、つまらなくも、狼でもないってことだよ……ってか、今は僕の話じゃなくて、覧の装備が溶けたらの話をしてたんだよね?」
「大丈夫。もし溶けたとしても、メイキャップ持ってるから、すぐに青衣に戻るよ」
「ねえ、覧、今、メイキャップ何個持ってるの?」
1つ10ゴールドだったよね?
日本円にして10万円だよね?
「えっとね……」
「いや、ちょっと待った。昨日、いくらミドラさんのところに課金したのさ?」
よくよく考えてみたら、メイキャップに加えて、服の代金もあるじゃないか。
今わかっている時点では、メイド服に魔法少女服の服だけだけど、他にも買ってるんじゃないか?
「……聞きたい?」
今から怖い話をするかのように、にやつく覧。
「あ、いや、聞きたくないです」
即返事する。
覧のことだ、つけ払いだとか勇者払いだとか何とか言って、借金をしている可能性さえある。
ここで値段を聞いてしまったら、借金の片棒を担がされることになってもおかしくない。
聞いたら最後ゆえに、知らぬが仏をきめこもう。
「そっか、そうだよね。聞きたくないよね。ボクも言いたくないから、ウィンウィンだ」
いや、僕は何かに負けた……
確実に負けた……
「まあ、とりあえず、僕は、情報収集をがんばるよ」
「情報収集はギルドでボクがしてくるから、びの君、町の道具屋さんで、HPポーションとMPポーションを買いに行ってくれる?」
「え? ポーション? もしかして……」
「うん、午後から狩りに行こう」
「狩りキターーーー」
僕は朝食も食べないまま、お金の入った通学バッグだけ背負って、駆け出した。
「びのくーん、それじゃあ、お昼にまた会おう」
背後から覧の声が聞こえた。




