びの君、ゆうべはお楽しみでしたね?
顔を洗い、朝の身支度をしていると、覧も起きてきた。
格好は、昨夜のメイド姿だ。
「おはよう、覧」
「おはよう、びの君。ゆうべはお楽しみでしたね?」
ゆうべ?
「いや、僕、楽しんでないからね」
「なんですと!?」
大げさに驚く覧。
「女装癖のない僕が、女装させられて、熱いお風呂入って、風呂場でのたうち回って、楽しいわけないでしょ?」
楽しんだのは覧だよね?
「女装させられたなんて、人聞きが悪い。びの君、自分から、メイキャップを被ったんだし」
「いや、それは、覧がおとこのこ用だって言ったからじゃないか」
「嘘は言ってないもーん。男の娘用だもーん」
「嘘じゃないけど、勘違いさせたじゃないか」
「分かったよ、びの君。ごめんね、びの君の趣味じゃなかったってことだよね」
「まあ、わかってくれればいいんだけどね」
そうそう、女装は僕の趣味じゃないんだから。
「今度は、今度はセクシードレスじゃなくて、ミニスカセーラー服にするよ」
うん、1ミリも分かってなかった。
「それに、熱いお風呂は、自分から進んで入ったんじゃないか」
「まるで、僕がドMみたいな言い方しないでくれる?」
「それに……お風呂場で12歳のボクに水商売までさせて……」
「水商売って、魔法でウォーターを出しただけだよね? それを水商売とは言わないよね? 誤解をうむような表現はやめてよ」
少なくとも、顔赤らめながら言うことではないからね、覧。
「そうやって、ボクをいじめて喜んでるんだね?」
「覧だよね? 僕をいじめて喜んでるのは、覧だよね?」
「てへっ」
可愛いポーズとっても、僕は、絶対に騙されないぞ。
「ところで、今日はどうする予定?」
「ボクは、魔法の講義を受けに魔法ギルドへ行くよ。びの君と一緒に」
「一人でがんばれ」
ちょっとくらい仕返ししないと気が済まない。
「えー、びの君も行こうよ」
「いや、僕はいいかな」
僕が足を踏み入れたが最後、『暇なら、話を聞いてくれますか? 聞いてくれますよね? むしろ聞きたいですよね?』の『三段階お姉さん』に捕まるだろうし。間違いなく。
「びの君の裏切り者」
「僕の心は常に覧とともにあるから、裏切ってはいない」
「ついでに体もボクとともにあろうよ」
「いや、体は別。魔法ギルド行ってもすることないしな」
「じゃあ、何するの?」
「モンスターの情報収集とか?」
「その学ラン姿で?」
「あ、この格好は目立つか……どうしよう」
昨日も目立ってたしなー。
「びの君がそう言うと思って、用意しましたメイキャップ!!」
「いや、今、明らかに、メイキャップを出す流れに会話を誘導してたよね、覧?」
「そんなことないもん」
どうせ、またボクに女性服を着させたいんだろう……
「今度は何? 本当にミニスカセーラー服?」
「昨日は嫌だとか言ってたのに、今は、女装を期待してるの?」
「違うよ! 覧が話を誘導したから、何か着せたいんじゃないかと勘繰っただけ」
「もう、着たいなら着たいって言おうよ。素直じゃないんだから」
「違うから、そんなんじゃないから」
「びの君、その態度を人はツンデレと呼ぶ」
「勘違いしないでよね。そういうつもりでこんな態度とったんじゃないんだから……って、あれ?」
これって、本当にツンデレの態度?
「とにかく、僕は、女装しないからね」
「女装しないも何も、残念ながら、そのメイキャップに登録されている服は、普通の一般市民の服だよ。サイズもびの君のに合わせてる。はいこれ」
覧は、昨日とは異なる色のメイキャップを僕に渡してくる。
「本当に?」
「何? その疑いの目? 本当だよ」
僕は、疑いながらも、それを被る。
お、今度は昨日みたいに、すーすーしない。
自分の体を見てみる。
確かに、通行人が着ている服そのものだった。
「似合ってるね、びの君」
「でも、すぐ溶けるんじゃ……」
「それは、普通の服だから、溶けたりしないから大丈夫!!」
それならいいんだけどね。
「そのかわり、暴れ出すんだ、その服」
「そっかー、暴れるのか……って、何、その服?」
「冗談だよ、冗談」
本当に冗談なんだよね?




