びの、家に帰って驚く
家を出て、雑貨屋へ向かい、言われたものを買い足して、家へと戻る。
「ただいま」
「おかえりなさい。ご主人様。ご飯にする? お風呂にする? そ・れ・と・も……」
「だから、新婚さんごっこはやめろって……え?」
僕は、目を疑った。
「覧、どうしたの? そのメイド服」
覧が、白と青を基調としたメイド服に身を包んでいるのだ。
「驚いた?」
「驚いた」
「やったー、このサプライズのためだけに、びの君をおつかいさせて正解だった」
「そのサプライズのためだけに、僕におつかいさせたの?」
「そだよ」
そのためだけにわざわざおつかいに行かせたなんて、そっちの方が驚きだよ。
「改めて訊くけど、どうしたの、その格好?」
「買っちゃいました、ご主人様。てへぺろ」
「いやいや、そんな服買う時間なかったよね?」
ここから、ミドラさんの店までは、走っても30分はする。往復すると1時間だ。
「え? あったよ?」
「いつ?」
思い返しても、そんな時間はなかった。
「はっ、まさか、もう、転移魔法を覚えたとか言わないよね」
天才の覧ならありえなくはない。
「言わないよ。転移魔法なんて、魔法教本に載ってないし」
「じゃあ、いつ買ったんだよ?」
「ほら、ミドラさんのお店で『用を足してくるから』って伝えたでしょ? あの時」
え? いや、ちょっと待って。あの顔を赤くして、もじもじしながら言ってた時だよね?
「え? トイレじゃなかったの?」
「何言ってんの、びの君。ボク、トイレに行くなんて一言も言ってないよ?」
たしかに、覧は、トイレに行くとは一言もいっていない。
「だから、ボクは、『メイキャップを買うという用』を足しにいったんだよ」
え?
「僕をお店の前に待たせて、1人で買い物してたってこと」
「うん、そうだね。まあ、正確には買い物をすることだけが目的じゃなかったけど」
「何で?」
「だって、びの君、メイキャップ買うの反対してたじゃない?」
「僕の目を気にせずに買うために?」
「うん」
「僕に黙って、高価な買い物をするなんて、許さないよ。覧」
「次からは相談して買うので、今回だけはお許しください……って、びの君は、リアルなおままごとはしないんだよね?」
「何? 藪から棒に」
そりゃあ、リアルなおままごとなんかしないよ。
「だって、これ、金銭感覚が異なる新婚さん夫婦の一幕みたいじゃない?」
「まさか、この布石を打つために、新婚さんごっこをしてるとは思わなかったよ」
「いや、新婚さんごっこは布石とかじゃなくて、個人的願望」
「何か言った?」
「いや、何も言ってないよ」
「とにかく、無駄なお金は使わない」
「無駄じゃないよ」
「え?」
「びの君、ボク、言ったよね?」
「買い物をするのも目的の1つだって」
「何か他にも目的があったと?」
「うん、ミドラさんと世間話をすること」
「世間話? そんなもの、何の役にもたたないよ」
「本当にそう思う?」
「ただの無駄話じゃないか」
よく、お母さんも、井戸端会議するけど、内容なんか芸能ゴシップや、近所の噂だし……
「じゃあ、びの君、高級料理のお店を教えてくれたのは?」
「ミドラさんだろ?」
「じゃあ、オテモ様のことを教えてくれたのは?」
「それもミドラさん」
「家のことを教えてくれたのは?」
「それもミドラさん……あ」
「世間話って聞くと、聞こえは悪いけど、大切な情報交換の場でもあるんだよ。何の役にも立たないわけじゃない」
「確かに」
「もちろん、世間話の中には、びの君の言うような無駄話もあるよ。でも、それは、無駄話をすることそのものに意味があるんだよ」
「無駄話そのものに?」
「ストレス発散のために無駄話をしたとかね」
「なるほど」
視点を変えるだけで、無駄話は無駄でなくなるのか。
「今回は、情報交換というより、ボクが質問攻めにする一方的な情報狩りだったから、そのお礼としてメイキャップを買ったんだ」
きっと、僕の知らないところで、おやじ狩りをするみたいに情報狩りをしていたんだろうな。
うん、想像に難くない。
おまけ(本編とは関係ありません)
覧「おかえりなさい。ご主人様。ご飯にする? お風呂にする? そ・れ・と・も……」
びの「それとも? (ごくり)」
覧「パーフェクト・フード(抹茶味)ですか? パーフェクト・フード(抹茶味)ですよね? パーフェクト・フード(抹茶味)に決まってますよね?」
びの「誰か助けてー」




