びのと覧、雑貨屋さんへ行く
「そうだ、ここ、雑貨屋さんなんだよ」
マイホームまでの道すがら、覧が教えてくれた。
「雑貨屋さん?」
「うん、食料とか、日用品が売ってるんだって」
「なんで知ってるの?」
「ミドラさんに聞いておいた」
なんでも知ってるな、ミドラさん。
「お昼ご飯のお釣りがあるから、とりあえず、夕ご飯と明日の朝食の分だけ買っておこう」
「そうだね」
「いらっしゃーい、おや、見かけない顔だねー」
中には、30代半ばの女性がいた。ぺろぺろキャンディを口に含んでいるのだろうか? 口から5cmほどの白い棒が出ている。
「今日、引っ越してきたんです」
「おー、そーかい、そーかい。どこに越してきたんだーい?」
「赤い屋根の大きなお家です」
「お、あそこかー。あそこはどんな人が住むかみんな気にしていたからねー」
「そんなに有名なんですか?」
「ああ。ずーっと空き家だったからねー。で、何人で住むんだーい?」
「ボク達2人です」
覧はピースをして、2を示す。
「え? はーっはーっはーっはーっはーっはーっはーっはーっ……」
まあ、普通はおかしいと思うよね。
事実なんだけどね。
「いやー、久しぶりに大声出して笑ったよー。ごめーん」
「お気になさらず」
言ったのは覧だ。
「まあ、ここら辺は地価は高いが、治安は良いから、子ども二人でも大丈夫だろうよー。確か、隣は、若い女性が1人で暮らしていたはずだー」
「近くには、とてもいい雑貨屋さんのご主人もいますしね」
「こりゃ、嬢ちゃんには敵わんなー」
「あら、二人暮らしをする相手に、嬢ちゃんは失礼じゃない?」
「これは失礼いたしましたー。マドモアゼール」
僕も参った。
駆け引きや交渉事は得意だと思ってたけど、ひきこもりをしていた覧が、こんなに明るくジョークをかますなんて……
「おっと、自己紹介がまだだったなー。治安のそこそこ良い、この場所で店長をしているルエっていうんだー。よろしくなー」
「覧です」
「びのです」
「覧さんにびのさんか、ここら辺では聞かない、珍しい名前だなー。それに服装もー」
「ここから遠い東の島国から来ましたから」
覧は、虚構を混ぜつつ、あたりさわりのないような答え方をする。
「へー、遠路はるばる、ご苦労様だなー。今日は何のおつか……いや、買い出しだーい?」
「今日の夜ごはんと明日の朝ごはんをと思いまして」
答えたのは僕だ。
「食料品なら、手前の方だよー」
「ありがとうございます」
「食パン、チーズ、塩、オリーブオイル、レタス、トマト、缶詰されたコーン、えーと、計算面倒だから、2シルバーでいいやー」
いいながら、口から出た棒を取り出した。
あれは、何なのだろう?
「おや、カノンが気になるかーい?」
「カノン?」
僕は訊き返す。
「そうか。異国から来たから、カノンを知らないのかー。まあ、もともとこの国でもあまり出回る代物じゃないしなー」
「カノンって何なんですか?」
「ああ、これは、MPポーションを煮詰めて、飴のように固めたものさー」
「それじゃあ、MPを回復してるの?」
「まあ、魔術師が舐めれば回復効果は抜群なんだろうけど、ルエは魔術師じゃないから、MP回復のためになめてるわけじゃないんだー」
「じゃあ、どうして?」
「嗜好品としてなめているー」
「嗜好品?」
煙草とかお酒とかのことだよね。
「まー、ルエにとっちゃ精神安定剤みたいなもんだなー」
「それ、どこに売ってるんですか?」
「びのと覧には、売れないなー」
「え?」
「年齢制限があるからなー」
「年齢制限?」
「ああ。大人にしか売ってはいけないんだー」
「なんで?」
「カノンをなめすぎると、体の魔素が暴発しちまうからなー。大人でも、1日3個までと使用も制限されているー」
「もし、魔素が暴発するとどうなるの?」
「1日、2日じゃなんともないらしいが、長く続くと、中毒になると言われているー。体の魔素がなくなるごとにMP回復薬を飲まないと、精神が安定しない症状が一生涯続いてしまうらしいよー」
「うわっ、怖い」
僕は震え上がった。
「もし、びのと覧が大人だったとしても、カノンは手に入りづらいので、売りませーん。残念でしたー」
「ケチ」
はっはっはっ……と三人で笑いながら、会計を済ませる。
「以後ごひいきにー」
店主さんは、『おまけだよ』と言って、ベーコンを僕たちの袋に忍び込ませてくれた。
良い店主さんだ。




