びの、覧が内見をしなかった理由を訊く
5月1日、誤字脱字を修正しました。
内容に変わりはありません。
「じゃあ、内見にはなぜ行かなかったの?」
普通、内見へは絶対行くでしょ?
「色々と理由があるんだけど……聞く?」
「うん、聞きたい」
「一つ目、不動産屋さんがとても明るい表情で物件を勧めてきたこと」
「そんなの当たり前じゃない?」
店員さんが明るい表情で勧めなければ、こっちだって買う気はなくなるし。
「あの不動産屋さん、物件の内見を自分から張り切って勧めてきたでしょ? ボク達は、オテモ様の名前も出してるから、よっぽど自信がある物件じゃないとあそこまではできないよ」
「なるほど」
「二つ目は、ミドラさんから、良さそうな物件をきいていたんだ。だから、赤い屋根の大きなお家にすることって、実は決まっていたんだ。」
「買う前から決まっていたの?」
「当然だよ。ちなみに、オテモ様がおもてになるのも、ミドラさんからきいたんだ」
「ミドラさんの情報すごくない?」
今日一日で、何回もミドラさんの名前がでてくるんだけど。
「どんなお客にも対応できるようにだってさー。さすが店長だよね」
「三つ目は、時短。一日中歩いたり走ったりしたから、ボクの体力がない。体力のないまま内見しても、ボクの耳には入ってこない自信があるから、それなら、やったってやらくたって同じでしょ?」
「それなら日を改めればよかったじゃない?」
「うーん、それも考えたんだけど、そうするといらない宿代がかかるよね? 家の購入が遅くなればなるほど無駄にお金がかかるじゃない?」
「まあ、確かに」
「それに、今日中に魔法を試してみたいからね」
「魔法なら宿屋に泊まってもできるんじゃないの?」
「禁止されてるらしいよ。魔法で宿の物壊したとか、うるさくて隣室の人と揉めたとか、トラブルが絶えなくなって」
へー、魔法も万能じゃないということか。
「あと、ミドラさんからきいたんだけど、異世界のホテルって、固いベッドで寝心地悪い上に、壁も薄くて、隣の人のいびきが聞こえるから、寝た気にならないらしいよ」
「うわ、それは、ちょっとゴメンこうむりたい」
「そうだよね。だから中古住宅を買ったんだ」
そっか。覧もいろいろと考えてたんだな……
「それにしても良かったよ」
「何が良かったの?」
「家は、古ければ古いほど安くなる文化で」
「え? 家って、古ければ古いほど安くなるものじゃないの?」
新しい家よりおんぼろの家の方が高いなんてことあるの?
「そんなことないよ。外国には、家は古ければ古いほど伝統と格式があると思う文化もあるから、中古の家の方が高くなるなんてこともあるんだ。日本風の文化で良かったよ」
「へー、そうなのか」
古ければ古いほど高くなるなんて想像もつかなかった。
「結構、日本の文化が見られるんだよね。このジオフの世界」
「なんでだろう?」
「さあ? なんでだろう?」
いや、ボクに訊かれても、分かんないや。
あれ? でも、古ければ古いほど安くなる文化なら、
「ねえ、覧、もし、家が欠陥住宅だったらどうするのさ?」
新しく湧き出た疑問を覧にぶつける。
「ボク達は、一生ここに住むわけじゃないから、もし仮に多少の欠陥があっても、耐えられるでしょ」
「うん、まあ、そうかもしれないけど……」
まあ、程度にもよるけど……
「それに、どうしても住めないなら、誰かに貸して、賃貸料をもらえばいいんだし」
魔王を倒すという目的のために、中古物件までを使い捨ての駒のように扱える覧、たくましすぎる。
「異世界だからできることだよね?」
一応覧に確認をする。
「そりゃそうだよ。現実世界じゃ、内見なしで家を買うなんて、怖くてできないよ……って、びの君、もう元の世界でボクとの新居のこと考えてるの?」
「いや、そういうことじゃないから。現実世界でも使える知識なのかを確認したかっただけ」
「現実世界なら、内見は絶対必要。お金と時間をかけることをお勧めするよ。一生住む家かもしれないから、ご近所関係とか家の立地とか、あらゆることを想像して買った方が良い」
「ですよね」
「住んでるところで、人生変わるから。比喩じゃなくて、本当に人生変わるから。安いアパートでいいやとか適当に決めちゃうと、後悔するから。何回も何回も足が棒になるまで内見をした方が良い」
覧、本当にたくましい。
おまけ(本編とは関係ありません)
ミドラ「宿屋で魔法は禁止にゃ」
覧「魔法でお客が物を壊すかもしれませんもんね」
ミドラ「それもあるんだけど、あくどいところだと、チェックアウトの時に受付が魅了効果のあるチャームをかけて、予定よりも長く逗留させるなんてこともあるにゃ」
覧「その手があっ……」
ミドラ「じー」
覧「な、なんて恐ろしいんだ」
ミドラ「じー」




