びのと覧、貴族の使用人になる?
不動産屋へ入ると、さらさらロングヘアーのクールビューティーな女性が僕たちに近づいてきた。
「貴方達、二人? お父さんかお母さんはいらっしゃいませんの?」
「今日は、二人だよ」
平然と答える覧。
「ここは不動産……いえ、家や土地を扱っているところですわ。子どもが遊びで来るところではありませんわ」
そうですよね。僕たち子ども二人だけは、場違いですよね。
すぐに帰ります。
「あれ? お話も聞かず、その応対でいいんですか?」
「どういうことですの?」
「ボク達、とある貴族の召使いで、ご主人様がここらへんに小さな別荘が欲しいとボクたちに密命を受けたんですけど……」
密命?
そんなの受けてないけど。
……覧、嘘ついてるな。
「それでは、委任状をお持ちですか?」
委任状? なにそれ? 持ってないけど、どうすんの? 覧?
「委任状って、ご主人様の代わりに家を買ってきてね……って委任する紙だよね? 持ってないよ」
そこは、正直に答えるの、覧?
「委任状を持っていない方に家を売ることはできないですわ」
まあ、そうなるよね。
「密命だから渡さなかったとしても?」
「渡さなかったのなら、私は何を信じて売ればいいのかしら?」
「そもそも、ご主人様は、小さな別荘を買うために、わざわざ委任状を出すのも煩わしいと考えるお方です。密命ならなおさら。ご主人様は、現金だけを我々にお渡ししてくださいました」
覧は言いながら、僕のバックから1袋の金貨を取り出し、相手に見せる。
じゃらじゃら……
「なるほど」
「ちなみに、その貴族の名前を伺ってもよろしくて?」
「あまり口にしたくないのですが……」
「プライバシーは守ります」
「……オテモ様です」
オテモ? 誰それ?
流れる沈黙。
そして、僕を見るクールビューティーさん。
いや、クールビューティーさん、こっち見られても、僕からは何もないからね。
「もしも、委任状が必要であるならば、他を当たりますが……」
覧は、金貨を片付けようとする。
「いいえ、その必要はありません。あの東の貴族オテモ様なら、使用人にこれくらいのことをさせかねませんから」
「ちなみにですが、ご主人様が言うには、契約者はこの旅乃びのでいいそうです」
え? 僕の名前出して、大丈夫?
心臓がばくばくなんだけど……
「なるほど……それなら、元より、委任状は必要ないですわね」
「そうですね」
「今までもご無礼、失礼いたしました。イホと申します。以後お見知りおきを」
「覧です」
「びのです」
軽く自己紹介をする。
「覧様にびの様、先ほど、小さな別荘とおっしゃっていましたが、あなた方のご主人様は、具体的にどのようなものをご所望でしょうか?」
クールビューティーさんは、急にかしこまり、ビジネスの話をする。
「商談の前に、一言いいですか?」
「なんでしょう?」
「とても良い物件を紹介していただければ、オテモ様は次もまた、この不動産屋を利用されるでしょう……この意味わかりますよね?」
「もちろん、分かっております」
クールビューティーさん意味ありげにほほ笑んだ。
「中古の二人暮らしができるくらいの大きさで、採光も十分あり、家具は備え付けであると助かります」
「予算のほうは?」
「予算は700ゴールドきっかりで、地盤がしっかりとした閑静な住宅街が希望です。井戸があればいうことなしですが、そこまで必要なわけではありません。今日から住めるところというのが、絶対条件です」
的確に住みたい家の話をする覧。
「家具に希望はありますか?」
「ベッドは、1つあれば良いです」
ああ、と頷くクールビューティーさん。
「ベット1つって、どういうことだよ?」
小声で覧に訊く。覧と同じベッドで寝ろってこと?
あるいは床とか。
「あとで説明するよ。これには、きちんとした理由があるから」
小声でかえす覧。
「そうですね、条件にあいそうな物件は……こちらなんか如何ですか? 築15年で少し広めの2階建ての5LDKですわ。お庭もあり、井戸もついていますわ」
「家具は?」
「もちろん、ついておりますわ。ダブルベッドとシングルベッドが、別々の部屋にひとつずつ」
「ベッドは一つでいいのに……」
「何か言った? 覧?」
「いや、何も」
「ここの外観って、どんなものですか?」
「レンガでつくられた、赤い屋根の大きなお家ですわ」
「やっぱり」
やっぱりって、どういうことですかね、覧さん。
プリーズ ギブ ミー 説明、なんですけど。
「この物件は、お客様の条件にあっていると思いますが、いかがでしょう?」
「あなたの一番のオススメはこの物件ですか?」
「はい、当社が自信をもっておすすめしますわ。よろしければ、お家の紹介もいたします。内見なさいますか?」
「あ、それはいいです」
え? 内見しないで家を買うの? 大丈夫? 覧?




