びのと覧、お昼ご飯の相談をする
「人生はじめて、自分から気絶したいと思った。なんで、あんなにハイテンションなんだ……もう一生ここに来たくないんだけど」
「そだね」
覧も疲れの表情を隠さず、肩をおとして歩いている。
……って、ここに出入りしている人たちの暗い雰囲気は、あのスタッフのせいなのか? いや、あのスタッフのせいだ。そうだ、あのスタッフのせいに決まっている。
あれ? もしかして、僕もあのスタッフ化してる?
今すぐ正気に戻らなきゃ。
えっと、覧と何かを話そう。
「結構、お金も取られたね」
時間も取られたけど、あえてそこは言うまい。
「そう? そうでもないと思うよ?」
「いや、入会金に100ゴールドだよ?」
「ギルドにお金を払う価値はあると思うんだ」
「情報の価値として?」
「それもあるんだけど、それ以上に、ギルドに収めたお金は、医療保険や失業保険の役割も果たしているんだよ」
「医療保険や失業保険って……どういうこと?」
「ギルドに所属している人の中には、病気や老いによって働くことができなくなる人もいるよね?」
「うん、それは、いるだろうね」
「そういった人達に、ギルドは一定額のお金を渡しているんだよ」
まあ、元の世界のギルドでも医療保険や失業保険の制度はあったみたいなんだけど……と覧は続けた。
へー、病気や老いのことまで考えているなんて、ギルドってすごいな。
「もうそろそろ、ご飯にでもしようか」
覧が提案する。
「それなら、僕、スパゲッティがいいな。元の世界と同じように、ここにもスパゲッティの木はあるみたいだし」
「びの君、スパゲッティの木って何?」
「スパゲッティって、木になってるんじゃないの? こう、柳の葉っぱみたいに」
「びの君、本気で言ってる?」
「当たり前じゃないか」
覧は突然笑い出した。
「何がおかしいのさ?」
「スパゲッティの原料は小麦だよ。だから、木になるってちゃんちゃらおかしい……」
え? あ、そうなの?
「じゃあ、あれは、何?」
僕はスパゲッティが柳の葉のように垂れ下がっている木を指さし、尋ねてみる。
「あれは、スパゲッティに似た木の葉っぱでしょ?」
「でも、女の子が、そのスパゲッテイの葉っぱを採取してるよ」
「多分、違う名前があるんだよ」
「じゃあ、訊いてみよう」
僕は、葉っぱを採取していた女の子に何をしているのか尋ねる。
「え? 貴方、スパゲッティの葉を知らないの? この葉は、お湯で茹でると、スパゲッティという麺料理になるのよ。トマトとかにんにくとかで味をつけると、とっても美味しいの」
「ほら、あるじゃん、スパゲッティの木」
「……さすが、異世界。あるんだね、スパゲッティの木」
でも、元の世界にはないからね……と覧は付け足した。
「それじゃあ、ここの露店で、スパゲッティでも……」
「ちょっと待った」
急に真剣な眼をする覧。
「どうしたの、覧?」
「びの君、ボクたちは今、スパゲッテイを食べるお金がありません」
「またまた、何言ってるの?」
王様から金貨をたんまりもらった上に、五円玉を売ることでさらに金貨を得たじゃないか。
「びの君、ボクたちは今、スパゲッテイを食べるお金がありません」
覧が同じことを2回言った!!
「いやいや、あるでしょ?」
覧はとても残念そうな顔をする。
「……え? もしかして、本当にないの?」
装備屋さんか魔法ギルドで盗まれた?
こんなところで文無しになったら……
ま、僕の持ってる五円玉を売ればいっかー。
……ってそういう問題じゃない。




