覧、魔法ギルドの筆記試験を受ける
「確かにっ、身分証明の木札も確認しましたしっ、お金もいただきましたのでっ、登録は完了ですっ。口座の手続きに時間がかかりますのでっ、お金の預け入れは明日以降でおねがいしますっ。最後にこれをお読みくださいっ」
元の世界、百科事典3冊分ほどの厚さがある本を渡される。
表紙には、魔法の基礎という表記があった。
覧は、その本を手に取ると、ぱらぱらと中身を見始める。
「覧さんは字を読めますかっ?」
「うん、それなりに……」
ぱらぱらと本をめくりながら返事する覧。
「それならばっ、最速14日で、初心者講習を受講できるでしょうっ」
「なんで14日?」
覧が尋ねた。
「簡単な筆記試験をパスしなければっ、講習を受けられないからですっ」
「筆記試験って、どんな問題がでるの?」
本を見ながら答える覧。
「それはっ、この教本からでますからっ」
「へー」
「ここからがっ、重要です。覧さんっ、よく聞いてくださいっ」
「うん、聞いてる、聞いてる」
本から視線を離さずにスタッフさんの話を聞く覧。
いや、覧、その態度は聞き流しているのでは?
「我がギルドでオススメしてる勉強方法を伝えますっ」
「よろしく」
うん、これは、絶対聞き流してる。
「だいたい6日間かけて、1度この本を通して読んでください。そして、内容を理解するのに4日間かけ、覚えるのに4日かけてくださいっ。そうすればっ、合格は間違いないでしょうっ」
「そーなんだー」
聞き終えて、本を閉じる覧。
「ところでさー、今日、筆記試験って受けられる?」
「は?」
あー、うん、そういう反応になるよねー。分かる、分かる。
僕も最初はそうだったもん。
覧のフラッシュメモリと瞬間記憶のスピードはえげつないからねー。
「覚えたからさ」
「は? 覚えたっ? 何をっ?」
「この本の内容」
「何言ってるんですかっ、たった今、渡したばかりですよっ?」
「うん、今の時間で覚えたから、筆記試験を今日受けられるか聞いたんだけど……」
「じょっ、冗談もほどほどにしてくださいっ」
「いや、ボクは本気なんだけど……」
「それなら、覧に簡単な口頭テストをしていただけませんか?」
僕が助け船を出す。
「しかしっ、私は、魔法試験を受けたことはないのでっ……」
「じゃあ、教本を貴女に渡す。適当に開けて。ページ数を言えば、そこに書いてあった文章を言う」
「そんなことっ……」
「覧なら、きっとできますよ」
スタッフさんは、半信半疑のまま、教本を開く。
「じゃあ、130ページ」
「130ページは、題目のこの世界における魔法の種類としか書いてない」
「あってる……」
そりゃ、覧だもん。
「じゃあ131ページからは……」
「この世界は古代、火・水・風・金・土の五種類の魔法があると考えられていた。しかしながら……」
僕は内容を知らないが、スタッフさんがだんだんと青ざめていくところをみると、覧は、131ページに書いてあったことを一字一句間違えずに読み上げているのだろう。
「……ということである。」
「すごい、あってる」
「他のページでも確認する?」
「いいえっ、それには及びませんっ。今すぐにでもっ、テストをしましょうっ」
「急いでいるから、そうしてくれると助かるよ」
覧は別会場に連れていかれ、僕はその場に残ったのだが……
さっきのスタッフの人が、僕のところへ寄ってきた。
「何ですか?」
「いやっ、お暇そうでしたのでっ、この魔法ギルドのすばらしさをもっと伝えようかと思いまして」
もう、お昼休憩に入ってくれ。
「お待たせ」
15分ほどすると、覧が戻ってくる。
「あれっ? 覧さんっ、どこか体調が悪かったんですかっ」
「悪くないけど なんで?」
「いやっ、だってっ、試験は60分ですよねっ?」
「うん、途中退室ありだったから、全部解答して、抜けてきた」
「はやいっ!!」
ですよね。
「結果は、明日来れば分かるって」
いや、覧が落ちるなんてことないから。
確認しなくても100点満点だから。
「じゃあっ……」
え? まさか?
僕と覧はスタッフさんに首根っこをつかまれ、座らされた。
…………
……
「説明は以上になりますがっ、何か質問はございますでしょうかっ?」
「ありません。素晴らしい説明でした」
やっと終った、やっと解放される。
もう、嘘でもなんでも、褒めて、終わらせる。
なんで、魔法ギルドの素晴らしさを延々と聞かされなければならないんだ。
「素晴らしいっ!! 私、こんなに褒められたこと初めてですっ。よろしければ、最初からもう1度説明いたしますがっ」
「結構です。帰ります」
あの長い説明を最初からとか、本当に無理。死ねる。
「それでは、1名様及び、付き添いの方1名、おかえりでーすっ」
「ご利用ありがとうございましたっ」
ギルドスタッフたちの声のあったそれはとてもとても明るい唱和が聞こえた。




