覧、愛の鞭を試着する?
「それなら、僕が実験体になるよ」
制服のままサムズアップする僕。
「それなら、さっきみたいに、状態異常の効果も調べないと」
「確かに」
実践で役に立たなかったら意味がない。
「ミドラさん、魅了効果が長時間続く武器ってありますか?」
そうそう、魅了効果を無効化できないと、意味ないよね……
「……って、魅了効果?」
何言ってるんだ、覧。
「やだなー、ちょっとした冗談だよ。そんな、都合よく魅了効果がある武器なんかあるわけないじゃない。はっはっはっ……」
「そうだよね。はっはっはっ……」
「そこに、『愛の鞭』という叩いた相手を魅了させる武器があるにゃ……」
あるんかい!
……ってか、もしあったとしても、そこは、ないって言ってくれ、ミドラさん!!
「ありがとう、ミドラさん。貴女とは、姉妹のようにうまくやっていけそうだよ」
「なんか、照れるにゃ」
お礼を言いつつ、愛の鞭をもつ覧。
「おい、覧、冗談だよね?」
「びの君、魅了効果のある武器があるなら仕方ないよね……」
「えっと……覧さん、もちろん、冗談ですよね?」
なぜか敬語になる僕。
「もちろんだよ、びの君」
嘘だ。
はぁはぁと肩で息をして、瞳孔も開ききってるもん……
誰が見ても今の覧はヤバイって気づけるレベルだもん。
ひたっ。
僕は、覧から、一歩、後ずさる。
「びの君、どこに行こうというんだい?」
鞭を持ち、ゆっくりと首を僕の方へひねる覧。
瞳は漆黒に染まり、波紋をうっている。
まさに、ホラー映画の殺害シーン直前だ。
「ちょっと、トイレに」
「そっちは、店の外だよ。トイレはこっちだから、こっちにおいで」
「外の方がいいかなって」
「もう、ボクの愛の鞭がそんなに怖いのかい?」
絶対に、僕に当てようとしているじゃないか。
「いや、待って。落ち着くんだ、覧」
「ボクは落ち着いているよ。はーはー」
肩で息をしている人が、何言ってるんだよ。
「覧、この制服には魅了効果の耐性なんかないよね?」
「あれー? ボク言ってなかったっけ? あるんだよ? そう、あるんだよ」
「あるって何が?」
「現代の科学を駆使して作られた、魅了無効の素材?」
「いや、語尾がおかしいよね。今、語尾にクエッションマークついてたよね」
「おかしくないよ。おかしいのは、魅了無効の素材を知らない、びの君のほうだよ」
「じゃあ、その素材の名前を言ってみてよ」
「………………チャームナット」
「いや、絶対、今考えたでしょ。答えるまで間があったし」
「チャームナット、あるんだよ?」
「絶対嘘。語尾がまた、疑問形だもん」
「うん、そうそう、チャームナットっていう素材をびの君の制服につけた覚えがあるし、ボクの青衣にもつけた覚えもあるし」
「ぜ、絶対嘘だ。既成事実を作るな」
恐怖に慄き、覧と距離をとる。
「びの君が知らないだけだよ? 女性科学者の間では魅了されない素材として有名なんだ?」
一歩、また一歩と距離をつめる覧。
「そもそも僕たちがいた世界に魅了なんて効果ないでしょ?」
転んでしまった僕は、覧から視線を外さずに、座ったまま、覧から離れようとした。
「あるんだよ。びの君が知らないだけで。科学的に実証された媚薬的なものが」
「何? 媚薬的なものって何?」
「媚薬的なものは、媚薬的なものさ」
「それ、答えになってないよね?」
「はぁはぁ……さあ、無駄な抵抗は止めて、おとなしくボクの鞭に叩かれなさい」
「いやだ」
「じゃあ、優しく叩いてあげるから……」
そっかー、優しく叩いてくれるのかー、それなら……
「……って、優しく叩けばいいってもんじゃないからね」
叩かれたら痛いに決まってるんだから。
「覧様、いい加減にするにゃ」
ミドラさんが、覧の前に立ちはだかる。
「そこ、どいて。びの君に攻撃できない」
「どかないにゃ」
「どうして? 貴女とは、仲良くやっていけると思っていたのに……」
「そもそも、覧様が、その鞭で叩いたら、その鞭は、溶けちゃうにゃ。それに、びの様のHPは1にゃ。もし、鞭でダメージ貫通したら、最悪死ぬにゃ。だから、実験するなら、覧様しかできないにゃ」
「「あ」」
覧と僕、二人で声を合わせる。
そうだった。僕のHPは1だったんだ。
「ゴメン、覧、僕、実験しようにも実験デキナカッター」
危ねー、まじ、危ねー。
「心なしか、びの君、片言だよ?」
「ソンナコトナイヨー」
「それじゃあさ、びの君がその鞭でボクを……優しく叩いてよ」
急にしおらしくなる覧。
僕が、覧を、この鞭で?
「まあ、それくらいなら……」
「あ、びの様……」
「ん? 何ミドラさん?」
僕は振り向きざま、覧に渡された鞭を握った。
「あわわわわわ」
「そうなることを教えようとしたにゃ」
ミドラさんはあきれ顔だ。
「ナイス、びの君」
サムズアップを決める覧。
覧め、計算して誘導したな……
でも、これは、学習能力のない僕が全面的に悪いね。
それなら、こっちにも考えがあるんだから。
「あ、そうだー。ミドラさん、覧をこの鞭で叩いてよ。その青衣には、チャームナットがあるから、魅了の効果は効かないみたいだし。覧が猫の姿をしているミドラさんになつくところ、見てみたいなー」
「確かに、その方法が一番だにゃ」
「ごめんなさい、ごめんなさい、チャームナットとかありません」
平謝りをする覧。
やっぱり、嘘だったか。
危うく騙されるところだった。
ミドラさんに愛の鞭で叩かれて、猫が苦手な覧が猫耳に抱き着いたところも見てみたかったな……
まあ、反省しているようだし、許してあげるか。




