覧、おしゃれに目覚める
しばらく待っていると、ミドラが非正規品を差し出してきた。
「旅人の外套にゃ」
「これ、本当に、非正規品? どこにも傷なんかないじゃない」
「この肩のところを見るにゃ」
「肩?」
指差してるところをみると、3mmくらいのほつれがあった。
「え? これで非正規品になっちゃうの?」
「うちの店と取引している職人は、自分の仕事に誇りをもってるにゃ。少しの傷や汚れがあるものを売るなんてこと絶対しないにゃ」
意識高すぎじゃないか……
職人さんが誇りを持って出している商品を疑っていたなんて……本当にさっきの自分が許せないよ。
僕と覧は顔を見合わせ、こくりと頷く。
「それじゃあ、ミドラさんのお言葉に甘えて、この旅の外套を試着させてもらうよ……えっと、試着室は……」
「試着するより、この商品、一度メイキャップに登録したらどうにゃ?」
覧は、ロングTシャツを脱ごうとすると、ミドラさんが遮った。
「メイキャップ?」
「覧様もびの様も、メイキャップもはじめてかにゃ?」
「うん」
「これも説明するより、見てもらった方がはやいかにゃ」
言いながら、猫耳メイド店員さんは、手にしていたデニムの帽子を被る。
被った瞬間、猫耳メイドが一瞬でカジュアルスーツになった。
「「すごい」」
僕と覧は声を合わせて驚嘆の声を漏らす。
「メイキャップを被ることで、予め登録しておいた服に着かえることができるにゃ」
正義のヒーローの変身ベルトみたいな感じか。
さすが、魔法文明。魔法文明万歳!
「あとは、キャップを取れば、着替え完了にゃ」
「それって、1回だけの使い捨てなの?」
僕は素朴な疑問をぶつける。
「いやいや、何度でも使えるにゃ。ちなみに、さっきの服装に戻りたいときは、もう一度メイキャップを被りなおすにゃ」
言いながら、ミドラはもう一度キャップを被ると、猫耳メイドになった。
「兜や帽子・武器・盾・鎧や服・靴の5つ登録できて、いつでもどこでも着替えができるから、すごく楽にゃ」
「これいくらなんですか?」
興味津々の覧。
「10ゴールドにゃ。魔法効果が付与されているキャップだから、いい値段するにゃ」
「これは、このタイプしかないの?」
「大きく分けると、キャップタイプ、ハットタイプ、ベレー帽タイプ、ハンチングタイプ、ニット帽タイプ、シルクハットタイプ、ティアラタイプと全部で7種類。それぞれ4色あるから、28種にゃ。」
ティアラとか、もはや、帽子ですらないじゃないか。
「じゃあ、それ、1タイプずつください」
「覧、そんなに必要ないよね?」
「武器で攻撃すると、バターみたいになったんだから」
「メイキャップは、装備じゃないから溶けるということはないにゃ」
「え? そうなの?」
「そもそも、登録した服のサイズと、体型が異なると、発動しない仕組みだから、赤ちゃんでも安心して触れるにゃ」
「じゃあ、びの君でも持てるよ」
ひょいと渡されて、手に取ってみる。
たしかに、電流は走らない。
「でも、今のところ必要ないよね?」
「必要だよ」
「何で?」
「おしゃれって大切だと思うから」
「いやいや、なんで、今おしゃれに目覚めるの」
「ほら、ボク、おしゃれなティーン雑誌は購読してるし」
ティーン雑誌? そんな姿一回もみたことないから怪しい。
「昨日も、着かえるの手伝ってとか言ってたのに、お年頃?」
「現実世界だと、着かえるのって、時間がかかって煩わしいと思ってたんだけど、これなら、一瞬だから」
「え? もしかして、着かえるのが面倒で、いつも同じ白衣だったの?」
「そうだよ。でも、帽子を被るだけで着かえられるなら、何回でも着かえるよ。びの君も、そっちの方が嬉しいよね?」
いや、着替えって、一日に何回もするもんじゃないから。
覧に余計なお金は使わせるわけにはいかないし……
よーし、ここは……
「覧は、白衣が一番似合ってると思うよ?」
「IラインもYラインもAラインも分からないびの君は黙ってて」
おしゃれ褒め作戦、失敗。
「いやいや、おしゃれじゃなくて、違うことにお金を使おうよ……」
「いやいや、びの君、可愛いは正義。正義は強い」
覧、その三段論法、根本的におかしいからね。




