びの、覧を賞賛する
「でもまさか、五円玉が1000ゴールドになるなんて思わなかった。すごいな、覧は」
「もっと、褒めていいよ」
「すごいな、覧の交渉力は」
「まあ、交渉次第では、もっと値を吊り上げることができたと思うけどね」
「本当に?」
まだ値段を吊り上げることができたというのか……
「もともと黄銅は、オリハルコンの一種だなんて言われていた時もあるから、その話を持ち出せばね」
「本当に物知りだな、覧は」
「ボク達が住んでいた硬貨は、この世界になくて、とても希少だから、喉から手が出るほどほしいはずなんだ」
「そうか、希少価値か。そう考えると、五円玉って、すごいんだな」
「五円玉に希少価値を見出した、ボクがすごいんだよ」
「それに比べて、僕は覧と違って、頭も良くないし、どこにでもいる普通の人だからな。僕には、値段をつけたら安いんだろうな」
「びの君、人に値段なんかつけられない!!」
「うわっ。どうしたの、覧、むきになって」
「ごめん」
「いや、いいんだけど」
「びの君、五円玉のような物は、思考もしなければ、何かを言うわけでもないよね?」
「そりゃそうだ。物は人じゃないからね」
「だから、誰かが、価値を与えないと本当の価値はわからない。今回はボクが金貨1000枚で売ったけど、もし、びの君がここに一人で来て、この五円玉を売ろうとしたら、もしかしたら、ブロンズ1枚になっていたかもしれない」
「あり得る」
「でも、人は違うんだ」
「何が違うのさ? たとえば、総理大臣とか大統領とかの希少な職業につけば、お金がたくさんもらえるじゃないか」
「それは、その職業になるのが難しいかったり、貢献度が高かったりするだけで、その人の値段じゃない」
「そうなの?」
「うん。人の価値は、お金に換えられないほど、尊いものなんだ。値段なんかつけられない」
「そうかな?」
「総理大臣や大統領の言葉より、びの君の言葉のほうが勇気をくれることもあるんだよ。びの君にしかできないことが絶対にある」
「うーん? 僕にしかできないことなんかあるのかな?」
僕は、頭も悪いし、運があるわけでもないし、何かすごいことができるわけでもないのに……
「絶対にあるよ」
「難しくて、よくわからないや」
「今は、無理に分かろうとしなくてもいいよ、びの君。それも、びの君だもん。ただ、忘れないで、人の価値はお金に換えられるものでもないし、びの君の価値は他の人が決めるんじゃなくて、びの君自身が決めるってことを」
「僕の価値は、僕が決める」
「そう、それを忘れないで」
「まあ、覧が言うなら、覚えておく」
「それより、びの君が持っているもう一枚の五円玉は当分使わないから、大切にしまっておいて」
「え? すぐ売るんじゃないの」
「売らないよ。びの君がもう一枚の五円玉を出そうとしたときは、ひやひやしたよ」
「え、なんで?」
「びの君、希少価値があるから、あの五円玉は1000ゴールドなんだよ? もう一枚出したら、希少価値が薄くなって、ありがたみがなくなるじゃないか」
「そっか」
そこまでは考えていなかった。
「それに、びの君、その五円玉を換金しないほうが良い理由が二つある」
「二つもあるの?」
「一つ目の理由は、びの君の五円玉は盗まれにくいということ」
「何で?」
「びの君が1000ゴールドもする五円玉を持っているとは思わないだろうし。それに市場に出回った五円玉はたったの1枚。美術館などに展示されない限り、びの君の持っている五円玉の価値は、ほとんどの人に知られないんだよ」
「なるほど。二つ目は?」
「二つ目の理由は、五円玉って軽いよね」
「え? そりゃ、五円玉だからね」
「もし、五円玉をゴールドに換金しちゃうと、金貨千枚。重くなるよ」
「でも、為替手形ってのにすればいいんじゃない?」
為替手形って、お札の原型みたいなものでしょ?
紙一枚じゃん。
「本当は現金にして、あまり為替手形にはしたくなかったんだよね。紙って燃えたら終わりだし。手形を発行したお店の経営が傾いたり、そんなの発行してないって白を切られたりしたら、文字通りただの紙切れだし」
「そっか。お札みたいにどこでも使えるわけじゃないのか」
「……ってか、覧、日本のお金、売っちゃってよかったの? 犯罪でつかまらない?」
「これは、いわゆる一種のFXだよ。それに、ここは異世界だから捕まるはずないよ」
「本当に?」
「ま、大丈夫でしょ」
何故、目を逸らす、覧?
二人して少し歩く。
「それにしても、金貨1000枚って、重いんだね」
「しー、静かに」
人差し指を立て、内緒のポーズをとる覧。
「どうしたの?」
「この町、治安はよさそうだけど、ここらへんは人通りも多いみたいだし。誰が聞いてるか分かんないから、金貨1000枚なんて言葉だしちゃダメ」
そっか、こんな子どもが金貨1000枚も持ってるって気づいたら、強盗を企む輩もいるか。
そう思うと、肩の荷が重く感じ、緊張も相まって、手が震えてきた。
「あー、もうダメだ。覧、ちょっと休憩しよう」
「仕方ないなー」
「なんで、こんなに僕は力も体力もないんだろう」
「それは、びの君だからね。ちょっと、あそこのベンチで休憩しよっか」
公園だろうか? 木製のベンチがあったので二人で腰をかける。
「あーあ、ボク、アイスキャンディー食べたいな」
「異世界に、アイスキャンディーはないでしょ?」
「多分ね……」
「そういえば、覧、約束を反故にしたら勇者の鉄槌が下る……って言ってたけど、弱い僕が鉄槌なんかくだせるわけないよね?」
「ああ、びの君が弱いことは、ボクと王子様と大臣しか知らないことだから、問題ないよ」
「それもそうか……」
「それに、強くないなら、強くなればいいじゃない?」
いや、そんな、パンがないなら、おやつを食べればいいじゃない……的なノリで言われても。




