覧、びのとハイタッチする
「ねえ、また、100ゴールドが6袋だよ。この世界に大きめの袋はないの? 大臣もこのアンティークの店主も気が利かないな」
店主が為替を作成している間、小声で覧に愚痴をこぼす。
「気を利かせたから小分けだったんだと思うよ」
覧も店主を気遣ってか小声だ。
「え?」
「おそらく、この国では、金貨百枚入った袋を重さで量ってるんだよ」
「どういうこと?」
「だって、びの君、考えてもみなよ。今回、600ゴールドって言われて、1つの大きな袋に600ゴールドをそのまま渡されたらどう思う?」
「たくさんの金貨が入ってるなって思う」
「そっか、びの君はそうかもね」
覧になんだか残念な目で見られている気がするのは気のせいだろうか?
「ボクなら、本当に600枚入ってる? ……って疑う」
「え? 取引したんだから、600枚入ってるに決まってるじゃないか」
「それは、ボクたちの世界の話でしょ……ここはジオフの世界だよ? ちょろまかしてもおかしくない」
「そっか」
言われてみればそうだ。ここは元の世界じゃないのだ。
「でも、覧は、いちいち数なんか数えてないじゃないか」
「いや、600枚だからね。数えるの大変じゃない。1枚1秒で数えたとしても、10分かかるけど、びの君、今から数える?」
「面倒くさい」
「うん、だから、大臣や店長は、ゴールドを100枚ずつ小分けにして渡したんだよ」
「ん? どういうこと?」
「最初に100ゴールドの重さを量っておいて、その重さの分を天秤にかければ……」
「そうか、わざわざ数を数える必要がないんだ」
「そう、重さで量るんだからね」
あれ?
「でも、覧は、ここの金貨100枚の重さを知ってないよね?」
「うん、だから、お城では10袋のうち、1袋目をランダムに選んで、その袋だけ、さらっと中まで見て簡単に中身がゴールドかを確認をしたんだ。まあ、勇者相手に嘘をつくとは思わなかったけどね」
「そこまでしていたの?」
「そう。そして、だいたい両手に一袋ずつ持って、だいたい同じ重さかを確認すれば……」
「そっか、だいたい100ゴールドが入っているかわかるってわけだ。さすが、覧」
「いやあ、そんなに褒めないでよ」
あれ? でも、待てよ……
「100ゴールドを重さで量ることができるなら、1000枚単位でしてもいいんじゃない?」
「びの君って、1000万円単位でお金払うこと結構ある?」
「いや、ない」
「多分、あの王城もこのお店もそんなに大きくないから、1000万円単位でお金を支払うことがあまりないんじゃないかな?」
「だから、用意していなかったってわけか」
「お城も、このお店も、もともと300ゴールドしか支払わない予定だったみたいだしね」
「そっか、最初から、1000ゴールドなんて払う予定じゃなかったのか」
覧が金額を吊り上げただけだ。
「うん、それに、100枚単位だとごまかしがあれば気付くけど、1000枚単位だとごまかしがあっても気付きにくいから」
「ごまかしって?」
「例えば、偽造金貨だよ。他の金属でゴールドの見た目だけ作って、金のメッキを貼るとか、ひどいものだと、お金の代わりに鉛をいれるとか」
「へー、そんな誤魔化し方があるのか」
「僕も今度やってみようかな……」
「偽造金貨は、天秤にかければばれるよ?」
「それじゃあ、鉛の方を……」
「鉛を入れた袋は、重さを合わせようとすると他の袋より大きくなるし、大きさを合わせようとすると軽くなるからばれるよ?」
「もしばれたら……」
「良くて終身刑。悪くて死罪かな?」
「うん、僕は、まっとうにごまかしをせずに生きるよ」
「うん、人間、正直が一番」
「それにしても覧はなんでも知ってるな」
「いやいやそんなことないよ」
「お待たせ」
店主は、最後に為替に店のハンコを押して、覧へと渡す。
「確かに受け取りました。それでは、五円玉を」
「こちらも、確かに受け取ったよ」
「また何か珍しい物あったら、買い取るからよろしくね」
「ええ。あ、でも、びの君が勇者で、しかもこの店に出入りしていたことがわかってしまうと、きっと同業者の人が黙ってないですよね?」
「私は、一般人のびのと一般人の覧と契約したんだ。勇者? 何のことを言ってるんだい?」
とぼけてはいるが、僕が勇者だということは誰にも言わないということだろう。
「助かります。買い取りの時は全額現金でお願いしますね」
「痛たたた、痛いところついてくるな……高価になりそうな時は、前もって一報を入れてくれると助かる」
「すぐに現金化してくれないなら、他の同業者の方が買い取ってしまうかもしれませんよ?」
「当店としても、全額現金で買えるように善処いたします」
「ふふふ、期待しています」
覧がほほ笑むので、僕も合わせて笑っておく。
僕には到底理解しがたいジョークを言っているのだろう。
僕と覧はアンティーク店を後にした。
少し歩き、人気のないところで二人して同時に立ち止まる。
「いえーい、やったー」
二人でハイタッチ。




