覧、異世界で五円玉を売る
「五円玉」
同じことを二回言う覧。
「何言ってんの、覧、五円玉だよ? ここの世界では、ブロンズが100円くらいの価値なんだよ? 五円玉なんか売れるわけないじゃないか」
「それは、売り方次第」
「売り方次第って、どう考えたって五円玉がブロンズになるわけないじゃないか」
10円銅貨を売るならまだしも……
「ブロンズなんかにしない」
「え? じゃあ、何にするのさ?」
わらしべ長者のように、物々交換をしていくのか?
「ゴールドでしょ」
ゴールド? 日本円にして、一万円?
「は? どうやってするのさ? 無理無理。確認するけど、五円玉だよ、五円玉?」
「いいから、びの君は黙って五円玉を1枚出す」
まあ、言われたら出すけどさ……
異世界のお店に異様な不安を感じる。
店主が恐い人だったら……とか、むしろ、狂人じゃないだろうか……とか、むしろ、恐竜じゃないか……とか。
まあ、恐竜だったら、それはそれで面白いんだけど。
そういえば、最近、恐竜を題材にした映画、見ていないな。
面白いのあったら見たいな。
「……の君、びの君」
「え? あ? 何?」
「どーしたの、ぼーっとして」
「あ、いや、何でもないよ」
「よし、じゃあ、店内に入ろう。びの君は基本黙ってればいいから」
黙ってればいいなら、たとえ店主が恐竜だったとしても、らくちんだ。
もし、恐竜だったら、逃げればいいだけだし。
チリンチリン
ドアを開けると同時に、ドアに取り付けられた鈴がなった。
「いらっしゃい」
中には、ムスッとして目つきの悪い女性が椅子に腰かけていた。
眉間にしわを寄せ、こちらを睨んでいるようにしか見えない。
「子どもが何の用だ?」
目つきの悪い女性は、子どもが店を冷やかしに来たとでも思っているのだろうか?
「珍しい硬貨を売りに来たんですけど、ここなら、高額で引き取ってくれると小耳にはさんだので、やってきました」
「ほう」
「最初に言っておきますが、子どもだと思って値踏みしない方がいいですよ?」
「私を脅そうというのかね?」
「これが、脅しになるほど、場数を踏んでないんですか? 店主のコムスさん」
じっと覧をみつめるコムスさん。
「ははは……これは、参った。確かに、百戦錬磨の商人が来たようだ」
大笑いをするコムスさん。
「で、どんな物を持って来たんだい?」
その言葉の瞬間、コムスさんは、商人の眼付にかわった。
「この硬貨です」
「ほう、これは……」
「博識なコムスさんなら、ご存知かもしれません」
「いや、これは、見たことのないものだ。これは何でできているんだ? 金にしては軽すぎるし……」
「それは、黄銅と言って、銅と亜鉛でできています」
「ほう……」
「この硬貨には、稲が描かれていて、中心には、丸い穴があります」
「この技術はすごいな……」
「この硬貨は、とても希少で、ボクは1枚しか持ってません」
「この1枚だけか」
「はい。そして、ここだけの話ですが、今、噂になっている勇者の故郷の硬貨です」
「本当か?」
「ええ、間違いないです」
「よし、300ゴールドでどうだ?」
え? 300ゴールド……って300万円? それ、五円玉だよ?
「足元を見られたものです。びの君、帰りましょう」
帰る準備をする覧。
え? 帰るの? 300ゴールドと替えるんじゃなくて?
「わかった。500ゴールドでどうだ?」
なんか分からないけど、値段が吊り上がった……
お姉さん、それ、五円玉だよ?
「500ゴールド? 本気で言ってます? 勇者びの、生徒手帳を」
ん? 僕の生徒手帳?
「あ、はい」
僕は、生徒手帳を見せる。
「まさか、あんたら、本物か?」
「勇者びの、これは、勇者びのの故郷のお金ですよね?」
「うん、そうだね」
「王宮にも貴族にも売り渡してないですよね」
「当然だよ」
だって、五円玉なんか売れるはずないもん。
「ここの噂を聞いてここまで足を運んだんですよね?」
「うーん」
それは、知らない……腕を組み、考え込む。
「ほら、腕を組んで、頷いてるじゃないですか」
いや、ただ、考えるポーズをとっただけだからね。
「嘘ではなさそうだな……」
「それなら、1000ゴールド……と言いたいところなんだが、今、うちには、現金600ゴールドしかない。400は為替手形でどうだ?」
「200ゴールドの為替手形を2枚で、数日中にお金と交換できる契約でいいなら」
「成立だな」
1000万円? それ、五円玉だよ?
五円玉が1000万円になるものなの?
「契約書はこの紙でもいいかい?」
紙の確認をする店主。
「羊皮紙ですか?」
「ああ、そうだ。魔物に大敗した今、お金はあっても魔法の契約書は手に入らないからな……」
「まあ、仕方ないですね。でも、分かっていると思いますが、もし、約束を反故にしたら、勇者びのの鉄槌がくだりますよ」
「勇者様を目の前に、反古なんかにしないよ」
「念のため」
ん? 待てよ。五円玉一枚で1000ゴールドなら、僕の持っているもう一枚の五円玉を出せば、もう1000ゴールド儲かるんじゃないの?
「それなら、僕、五円玉もう一枚……」
僕が五円玉を出そうとすると、覧が首チョップをしてきた。
「うっ」
嗚咽を漏らして、うずくまる僕。
「どうかされましたか、勇者様?」
「ああ、いえ、勇者びのは、時々、あの体勢で神の啓示を聞くんです。気にしないでください」
「勇者とはそんなもんなのかね」
言いながら、店主は、覧に100ゴールドの入った袋を6つ差し出した。




