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「……その体勢でバックステップとか、マジかよ」
俺は顔をしかめて吐き捨てる。二の腕から血を流しながら、しかし彼の目は光を失っていなかった。
「マジかよ、はこっちのセリフだよ。あんた、馬鹿か……そんなことしたら、銃がダメになる」
そう、青年が過剰とも言える回避行動を取った理由。それは、普通の銃をあんな風に乱暴に扱えばよくて弾詰まり、悪ければその場で暴発したり、銃身が歪んで使い物にならなくなったりする可能性があるからだ。
別に俺の銃がダメになったところで彼は一向に構わないはずだが、予想外のアクションに思わず動きが大きくなり体勢が崩れたのだろう。その状態でさらに跳ばれるとは思わなかったが、均衡を崩すには十分だ。
「これさ、多少乱暴に扱ったくらいじゃ動作不良起こさないんだぜ」
琥珀の瞳を鋭く見据えながら、にやりと笑う。気を抜かなければ、余程のことがない限りこの状態からひっくり返されることはないはず。
そう思っていた。そのはずだった。次の瞬間、彼が捨て身で突っ込んでくるまで。
俺は、彼が刺し違えてでも俺を殺す気だということを――忘れていたのだ。
瞬きをする時間にも満たないような遅れは、しかし取り返しがつかないものだった。
「――油断しただろ」
彼の囁きが耳元で聞こえる。傷を負っているはずのその肩で体勢を崩されて、銃口が迫る。
あ。これは、まずい。
そう思った途端、本能的に身体が動いた。
指先から広がる蒼い光が、瞬時に実体化して氷の薄板と化す。失った一瞬を、無理やり作り出す。
「……そんな器用な真似ができるなんて、聞いてない」
ちかちかと明滅する視界に、ヴィスタの不機嫌そうな顔が映る。しかしその言葉に答えるような余裕は、今の俺にはなかった。
全身を突き抜ける燃えるような痛み。食いしばった歯の隙間から、苦痛の声が零れる。
俺が咄嗟に作り出した氷板は確かにその役目を果たしたが、十全にとはいかなかったらしい。避けきれなかった弾丸は、俺の左脇腹に食らいついていた。
指先を軽く触れると、とめどなく血が溢れ出しているのがわかる。が――すぐに命に関わるような傷ではない。弾丸も貫通している。激痛を度外視すれば、まだ動ける。いずれ血が足りなくなって動けなくなるだろうが、元々ヴィスタだけにあった時間制限が俺にも付いたというだけのこと。
つまり、
「まだ、五分五分」
俺の呟きを聞いた彼は、歯を剥き出しにして凶悪に笑った。
「そう来なくちゃ。始めようぜ、ラウンド2」
弾丸と光線が、再び交差する。
そこに、先ほどまであったような優美さはない。なりふり構わず、死に物狂いで、ただ相手を殺すためだけに。
もうどちらのものだかもわからない血で、足を滑らせる。直前まで俺の頭があった場所を、弾丸が通り過ぎた。
滑ったことすら利用して常人には到底できないような体勢で踏み込み、崩れた姿勢のまま無理矢理銃口を彼に向ける。しかし青年は身体の中心線を射線からそらすのみ、むしろそのまま前へ。
が、それは折り込み済み。光線がその身体を穿つとほぼ同時に、俺は肩でその顎をかち上げた。
ヴィスタがぐらりと上体を揺らす。が、その直前に放たれた弾丸は俺の腕を抉った。
お互いに決定的な追撃を放てないまま、たたらを踏むように距離を取る。
霞む視界。あちこちに増えた傷口から広がる熱と、鈍い痛み。
ぜえぜえと荒い息に、鉄の味が混ざっていた。
頬に跳ねた血を拭って、青年を睨みつける。琥珀色の瞳は、こちらに鋭い眼光を投げ返した。
その顎を伝って、赤い液体がぽたりと落ちた。時間切れが、近いらしい。
と同時に、唐突に眩暈がして俺はくらりと上体を揺らした。ああ……これは、あれだ。星彩の使いすぎによる弊害。
顔を上げると、ヴィスタと目が合った。
直感する。次の一撃で、全てが決まる。
2人とも、しばらくそのまま動かなかった。足元の血だまりにぽたぽたと血が落ちる音が、やけに大きく聞こえる――いや、違う。
雨が、降ってきていた。始めはぱらぱらとまばらだった雨脚は次第にその勢いを強め、あっという間に土砂降りに変わった。
火照った頬を、冷たい雨が流れていく。
熱くなった思考が冷えていくと同時に、逆に高まる緊張。
その高まりが最高潮に達したとき、俺たちは同時に床を蹴った。
2つの銃口が、光る。




