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 がりっ、と、嫌な音がした。



「――っ」


 馬鹿、と叫ぶ暇を奪うように銃声が響いた。


 紙一重で避けた直後には、目の前に迫る彼の姿。


 足払い――回避。


 続く銃弾――回避。


 全てがスローモーションに見えるのに、自分からアクションを起こすことができなかった。後手に回ってしまって、という言い訳はできない。やろうと思えばいつだって反撃できるような状況なのだから。むしろ、ヴィスタはわざとそんな状況を作り出しているように思えた。


 飛んでくる弾丸を、そして蹴りを中心とした彼自身の体術を、ただひたすらに回避する。


 驚きと困惑と、その他の――これは、なんだろう。


 心の中で複雑な色が渦巻いて、脳内はぐちゃぐちゃで、胸が痛い。まさか彼がそんな――自分の命を投げ捨てるような覚悟で俺を殺そうとするなんて、思っていなかった。


 自分の中に何があるのかがわからなくて、ただそれだけで精一杯で、彼の攻撃をギリギリで避ける以外に何もできなかった。


 どうして、と目の前の青年に問いかけたくても、彼はそんな暇を与えてくれない。見えない包囲網はじわじわと狭められて……そしてついに、弾丸が俺を捉えた。


 皮一枚。数ミリずれていたら当たっていなかったであろうその弾は、しかし確かに俺の頬に傷を刻んでいた。


 俺たちは示し合わせたように足を止める。くつくつと押し殺した笑い声が聞こえてきた。


「あんたはいつだって冷静な奴だったのに。……なんてザマだ」


「冷静でなんて、いられねぇよ」


 乱れた呼吸を整えながら、絞り出すように答える。


「そうだよな、お前は変わった。血眼で探されてるとも知らないで」


 嘲笑するように言葉を紡ぐ彼の顔に、あの寂しげな影はもうない。薬の影響か、彼自身の心境の変化か。それが何故か無性に悔しかった。


「呑気に普通の高校生なんかやってさ。俺がどれだけ悩んだと思ってる? 『親友が裏切った』って。俺が信じた彼はそんな奴だったのかって。お前もじゃないかって、疑われさえした。俺の傍には話を聞いてくれる奴なんて誰もいなくて、疑心暗鬼になって、視界に入る奴全員が――いや、自分のことだって、信じられなくなって。けど、任務はいつまでも、今までと同じように湧いてくるんだ。殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して……気が狂うかと思った。血反吐吐くような思いしてやってたんだよ。なのにあんたはさ……随分、楽しそうだったよな。仲間のこともすっかり忘れて、人並みに友達作って、青春して。本当に羨ましい限りだよ、可愛い女の子もいてさ――怜ちゃん、って言うんだっけ。いいよなあ、妬けちまう。どんな気分だったのか教えてくれよ、なあ? 楽しかったんだろ? 楽だったんだろ? 俺らが今もずっと足掻いてるこの地獄みたいな場所から抜け出して、ぬるま湯みたいな環境で過ごすのは。お前も周りの奴らと同じように、弱くて、ぬるくて、平和ボケした矮小な人間になって――」


「違う」


 ヴィスタの半ば八つ当たりとも言えるような言葉をただ黙って聞いていた俺は、しかし途中で彼を遮った。


「俺が変わったことも、弱くなったことも、お前の言う通りだろう。けど――」


 真正面に立つ彼を睨みつける。


 そうだ、忘れたのか。俺は〝その〟ためにここに来たんじゃないか。そのために、覚悟を決めたんじゃないか。


 俺は今、――もしかしたら、人生で初めてかもしれない――本気で怒っていた。


「あいつらが……弱いなんて、言わせるかよッ――!!」


 俺を変えた人たちが、変わった俺が、確かに正しいのだと証明するために、俺は。


 沸き上がる怒りという感情に任せて、拳銃を抜いた。間髪入れずに屋上を踏み砕くかという勢いで床を蹴る。


 一発目、避けられた――想定の範囲内。


 彼の返す一撃が、奇しくも先ほどの傷の上をなぞった。しかし、俺はもうそんなものでは止まらない。彼も、止まらない。


 弾丸をかいくぐってヴィスタの懐に飛び込む。撃つ、避ける、避けられる。


 一瞬にして、屋上は銃弾と光線の嵐が吹き荒ぶ〝戦場〟と化した。


 相手の銃身を払って、俺の銃口を向けて、払われて。引き金を引く毎に、細かな傷が増える。

 お互いにお互いの癖を、性格を知り尽くしているから、その動きは傍から見ればさながら踊っているように見えただろう。全てが完璧に調和しているようでいて、しかしその均衡はギリギリのラインで保たれている。


 なら、それを壊してしまったら?


 射線上から手を弾かれるのはもう何度目だろう。が、その手を先ほどまでのように引き戻すのではなく、くるりと返してグリップで薙ぐように彼の後頭部を狙う。


 以前なら絶対にやらなかったであろうその行動は、俺が思った通りの効果をもたらした。


「――は!?」


 ヴィスタが、大袈裟にも見える回避行動を取る。そこに生まれるのは、致命的な隙。


 狙いは心臓。その胸に銃口をぴたりと当てて――。

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