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『あの、紫音。少しいいですか。氷雅さんに、お話が』


「……ん、了解。じゃあ私は席外すから、終わったら声掛けて」


 そう言って立ち去る彼女と、残された俺。部屋の隅のスピーカーから、電子音が響く。


『「彼女」から、氷雅さんの携帯にメッセージが届いてます』


 その一言で、俺は気づいた。さっき俺が感じた引っかかりは、それだ。さっき、最低なことを言ってしまった彼女に対しての負い目だ。


「……怜は、何て?」


 俺のことを心配してくれていたはずの彼女に、あんな酷い対応をしたのだ。罵詈雑言でも、恨みつらみでも受け止めよう。


 そしたら……きっと。紫音さんは、俺が勝つのが当然のことだと思っているみたいだけど。そうは思わない俺でも、後悔なく戦場に踏み出せる。


『勝手に見たらいけないかと思って内容は見てません。どうぞ、その目で確かめてください』


 俺は思わず顔を上げてスピーカーの方を見た。彼女は本当に、AIとは思えないほど――もしかしたら俺よりも余程、他人の感情の機微を読み取ることに長けている。


 ジュリーの気遣いに礼を言って、携帯を立ち上げる。大きく深呼吸して、アプリを開く。


 トーク画面を開いた途端に、手が止まった。覚悟はしていたつもりだったが……俺のそれは、全くの見当違いだった。


〈無理に引き留めたりして、ごめんなさい〉


 画面をスクロールする指が震える。


〈氷雅にも何か人に言えない事情があるんだよね? 私だってそれはわかってたのに〉


 わからない。怜はどうして、こんなことが言えるんだ。


〈行かないでとか、危険なことはしないでとか〉


 俺は、あんなに酷いことをしたのに。酷いことを、言ったのに。


〈そういうことを言うのはわがままだと思うけど〉


 どんな罵詈雑言が書いてあるかと、恨みつらみが並んでいるかと、そう思っていた自分が恥ずかしい。


〈せめて、無事に帰ってきてほしい〉


 ずるい。ずるいじゃないか。


〈それで、直接謝りたいから〉


 そんなことを言われたら、


〈ごめんね〉


「……絶対に生きて帰るしか、ねぇじゃねえか」


 噛みしめるように呟いた。


 自分の問題に決着を付けられるなら、その後はどうなっても――最悪、刺し違えたって構わないと思っていた。けどきっと、そんな考えでいては甘いのだ。


 俺には、待っていてくれる人がいる。それを、怜が思い出させてくれた。だったら俺は、何が何でも彼女の元に帰らなくてはならない。


 ありがとう、と心の中で呟く。その思いを飲み下すように深く息を吸った。


 俺は、今から死地に赴く。生きて、帰るために。

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