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「ゼロ? おい、ぼーっとするなよ」
濃い目の金髪の向こうから、見慣れた琥珀色の瞳が俺の顔を覗き込んでいた。
「……ああ、悪い」
知らず知らずのうちにぼんやりしていたらしい。大事な作戦前にこれではダメだと、頬をぱしりと叩く。
「まだ気にしてるのか、あの2人のこと」
「別に」
今回に限らず何かと話しかけてくる彼は、ただうっとうしいとしか感じない。彼だって、俺みたいな奴と生産性の全くない会話をするくらいだったら、他の奴と世間話でもした方がまだマシだろうに。
にへらっとした笑みが視界に入らないように、ついと目をそらす。別に図星だったからではない。気にしているのではなく、ただ考えていただけだ。
俺のことが気に入らないのか、何かと突っかかってくる赤いの。同類だと思われているらしく、気付けば寄ってくる緑の。他の色の奴らは俺を避けているようだったが、何度か任務を共にしている関係上あいつらと個人的な親交がある隊員も多い。
外見や態度からは到底そんな風に見えないが、光学兵器持ちの奴らは恐ろしく強い。まともに刃を――弾丸を交えることになったら、集団でかかっても勝率は一割を切るだろう。連携に関しては合衆国一と称される、俺たちの部隊ですら。
しかし、やらなくてはならない。任務だから。そこには、疑問も躊躇いもなかった。
「10分前。最終確認しよう」
金髪の彼――ヴィスタが静かな口調で告げた。
各々武器の手入れなどをしていた部隊のメンバーが、その一言で俺たちの傍に集まってくる。
もう使われていないらしく日中でも薄暗い倉庫の中に、彼の声だけが響いていた。
「目標、光学兵器技術の奪取。次善でデータの破棄。――それと、上からは何も言われてないが敢えて加える。全員の生還」
ヴィスタがそこで一旦言葉を切ると、倉庫の中はしんと静まり返った。
上部から何もなかったということはつまり、今から遂行するのは誰かが死んでも仕方がないような任務であり、そうなっても構わないと思われているということだ。
それがわからないようなものは、ここにはいない。しかし今さらそれについてどうこう言うような者もいない。
今回の任務は変だ。ハイリスクハイリターン――と言っても、リスクが圧倒的に高すぎてリターンと釣り合わない。普段の任務に比べると、明らかに異常だった。きっと上の方で何か起こっているのだろうが、いくら精鋭とはいえ俺たちは末端である。知る術もなければ、知ったところで関わることもできない。
「この任務について……色々と思うところがある奴も、いるだろう。確かに俺も、変だとは思う」
そのことをはっきりと理解してなお、青年は不敵な笑みを浮かべていた。
「でも、それは俺たちが生きて帰るのを諦める理由にはならない。――だろ?」
そんなのは希望的観測だ。彼自身だってわかっているだろう。それでもメンバーは全員、無言の肯定を返した。
「俺――ヴィスタの班が5人で陽動。ゼロ――ゼレイドとあと2人が実働。細かい動きは、それぞれ確認できてるよな」
「問題ない」
全員が頷く中、素気なく返事をする。俺に関して言えば、この質問は全く意味がなかった。
他の奴はそこまでしないのだろうが、俺は全員分の詳細な動きを作戦毎に全て頭に叩き込む。いつ、どこで欠員が出てもいいように。俺が、その穴を埋められるように。
それをあまりよく思っていないらしいヴィスタは、いつものように俺に苦笑を向けた。
俺は、今年で16歳になる。一般人であればほとんどが勉学に励む歳だが、学校には通っていない。ならば余った頭の容量を好きなように使うことの何が悪いのか、と思うが、ヴィスタ曰く『そういうことじゃない』らしい。
彼の考え方は、この部隊のみならず軍の中で見ても風変わりだ。理解できないな、と視線だけで返せば、ため息交じりに笑われた。
「今回出てくる可能性がある光学兵器持ちは、〝赤〟と〝緑〟」
仏頂面で知らん振りを決め込むと、彼は仕方ないといった風にまた話し始めた。
「〝藍〟と〝黒〟は今この街にはいなくて、〝紫〟と〝白〟はハッカーの方の対処に追われるだろうからおそらく戦闘には出てこない。2人なら短時間引き付ける程度は何とかなると思う」
そこに悲壮な覚悟など少しもない。まるで明日の夕飯についてでも話すような口調で、そっちも頼んだ、とヴィスタは笑った。
「任せとけ」
場の雰囲気を和らげるという彼の意を汲んで、俺も軽くそう返した。




