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「お疲れ! 氷雅の班上手く行ったか?」


「微妙。っていうか、計算するところほぼ他の奴に任せっぱなしだったから俺はよくわからねぇや」


 授業が終わって、悠一と2人廊下を歩く。


「あは、俺もー。後で恭介に見せてもらおーな」


 だな、と返答するが、頭の中では全く別のことを考えていた。


 昼休みの出来事を思い出してしまって、どうにも気分が沈んでいる。悪いのは自分だとわかっているのだが、早く怜に謝らないとなと思うと憂鬱だった。


「……ところで」


 急に悠一の声が低くなる。思わず足を止めると、彼は感情の読めない瞳をこちらに向けて言った。


「氷雅さ、水曜日から昨日まで何してた?」


「……え?」


 答える声が思わず上ずる。何と続けたらいいかわからず黙ったままでいると、悠一は始まったときと同じように唐突にその表情を緩めた。


「いや、何でもない」


困惑した俺はただ瞬きを繰り返す。どこか読めないところがある俺の友人は、「悪ぃ」と首の後ろを掻いた。


「昨日さ、氷雅んちのすぐ近くでお前によく似た奴を見たんだ。けど氷雅とは雰囲気が全然違って……何だろう、目が合っただけでひやっとするような感じ。だから違うな、と思ったんだけど――どうしても気になって。何か知ってねーかなってカマかけちまった」


「俺に、よく似た奴……?」


 何かが引っかかる。大事なことを忘れているような気がする。


 何だろう。つい最近、同じようなことが――。


「氷雅ー!」


 しかしもう少しで〝それ〟が出てくる、というタイミングで背後から掛けられた声に、俺の思考は現実へと引き戻された。


 恭介の声に振り返ると、彼の隣には怜の姿。


「あ……」


 どうすればいいかわからなくて一瞬足が止まる。俺がぼーっとしていたからとはいえ不意打ちのような形で、こんなにも早く彼女とまともに顔を合わせることになるとは思っていなかったのだ。


「(落ち着いて。大丈夫だから)」


「――え」


 素早く駆け寄ってきた彼は、囁くと悪戯っぽく片目をつぶった。話をしておく、とは言っていたが……いつの間に。仕事が早いにも程がある。


「どうしたの、恭介。氷雅と内緒の話?」


「ボーイズトークだよ!」


 また誤解を招くような言い方を。複雑な表情をしていると、怜ははにかむように笑った。


「あの……氷雅。さっきは、ごめんね。あんな無理矢理な感じで。私の悪い癖だって、わかってるつもりなんだけど」


 そのとき俺は、きっとすごく馬鹿っぽい顔をしていたに違いない。彼女に言葉を返さなくてはとぼんやり考えたものの、何と返したらいいのかもわからない。


「怜さんが氷雅に無理矢理迫ったって……? キャー、ダイターン!」


「ダメだよ悠一、今は黙ってて!」


 悠一と恭介が小声でやり取りしているのを聞いて、やっと思考回路が再起動した。そう、まず謝らないと。


「いや……俺の方こそ、悪かったな」


 上手く笑えているだろうか。怜の瞳を真っ直ぐ見られないのは、先ほどとは違って恥ずかしいから、だと思う。


 サムズアップする恭介が視界の端に映ったので、「ありがとう」と視線で伝える。ちゃっかり悠一まで便乗して得意げな顔をしていて、思わず吹き出しそうになってしまった。


 俺が悩んでいても、変な失敗をしても、慰めてくれたり笑って許してくれたりする3人。ここにいていいんだろうか、と考えることすらもう馬鹿らしくなってきて、俺はふっと息を吐いた。


「氷雅? どうしたの?」


「……いや、何でもないよ」


 怜の問いかけを適当に誤魔化して今度こそ……自然に、笑う。


「そっか。――うん。やっぱり私、氷雅は笑ってる方がカッコいいと思うな」


 こうやって今笑えるのもお前らのおかげなんだけどな。その言葉は、気恥ずかしくて言えなかった。

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