第60話 大森林の方針
レジスタンス。反政府組織が存在するという訳か。
「ではレジスタンスと準騎士団が歩調を合わせているという事かい?」
「その様です。共にミリウド皇太子を帝位にとの目標を掲げている様子」
「なるほど」
皇太子に追随する準騎士としても、勢力の拡大は望んだ話ではあるのだろうけれど、結果が皇太子の幽閉では些か慎重に欠けたか、あるいはそれだけ余裕が無かったのか。
「それでレジスタンスとは接触は出来たのですか?」
「いえ、結局は接触する事は出来ませんでした」
サリウの問いに申し訳なさ気に返答するエストリアだが、今回は最初の偵察だ。成果としては充分さ。
「勢力としての規模は掴めたかい?」
「はい、おおよそ、ではありますが」
エストリアの話ではレジスタンスは大まかに分けて二種類の勢力によって成り立っているとの事だ。
一つは商人や工夫、農民といった、所謂普通に暮らす国民。
彼等は圧政や弾圧への反発から立ち上がろうとしている者達。
そしてもう一つは元兵士達だ。
オークが登場するまでは騎士の下には一般の兵士が居た。だが現在ではその立場はオークに代わり、兵士だった者達はなんの保証もないままに放り出されたという。
兵士の中で素行の良くない者達は野党や山賊と成り果てた様だが、そうでない者達は一国民として働き生計を立てた。
そんな中でレジスタンスが組織され、必然の流れとして元兵士だった者達はその組織の実質的な戦力として陰で動いているという事だ。
「現在ではまだ主要な都市でしか勢力を構築出来てはいませんが、潜在的な兵力はグレイス帝国全土で数千には登ろうかと」
「数千、か……準騎士団の数は?」
「一団三~五十騎程が十二団。どれほど多めに見積もったとしても千騎には届かないでしょう。レジスタンスと合わせても一万に届くか届かないかと言ったところかと」
「対して帝国には、騎士団はともかくとしても三十万のオーク、か。現状で彼等が決起したところで変わるものは無いかな」
「ガーベルとしてもそれは承知の様です。ここで皇太子を処刑して無暗に相手を暴発に追い込むまでも無いとしての幽閉かと」
「まぁ、暗き小さな小山の大将からしてみれば、自らの配下の騎士団ですら信用はしとらんのじゃろう。どさくさ紛れの謀反もあろうかと派手にも動けんだろうさ。カカカ、小物らしいことよ」
「う~ん……そうなりますか」
しばらくはこの状態が続くという事か。
でもいつまでも続く訳じゃない。どうやらじっくりと機を待つ余裕は国民には無いだろう。尻尾を掴まれる程に動きを見せている以上、そう遠くない内に彼等は立ち上がざるを得ない。
例え失敗に終わると分かっていたとしても、だ。
一万対三十万、か……
どうなんだろう。正直、僕には三十万のオークと聞かされてもピンと来ないものがある。想像が出来ないとかそういうのではない。何というか……
負ける気がしない。
多分、リーヴァスやリュクトスにしても同様だろうと思うんだけど、三十万が五十万になろうが百万になろうが負ける自分が想像出来ないんだよなぁ。
単純に、グレイス帝国を滅ぼせ! と言われれば半日も掛からないのだろうけれど、無論それは僕の望む所ではないし、住まう人々が皆ガーベルやアシュトナーレの様な人間だけじゃない。
救うべき民も、救われて然るべき人々も大勢いる。
戦う騎士にだって皆が皆ガーベルの体制を支持して剣を握っている訳でもないだろう。そんな人間を諸共に一緒くたに薙ぎ払ってしまうのは、僕には受け入れがたい。
更に問題となるのが戦後処理だ。
向こうが僕等と戦いたいと言うのであれば受けて立つのはやぶさかではない。寧ろ、何とか上手に手加減して上手く勝利を掴もうとは思うのだけれど、だからと言って帝国が欲しい訳では無い。
確かにワグナスを平定するとは言った。
だけど僕には国を動かした経験も無ければ、都市すら上手く回せる自信が無い。
この大森林みたく物々交換の原始的な生活環境であれば、それを維持していく位は可能だし、リーヴァスやラビエラ達が居れば大した問題も無く暮らしていけるだろうけれど、流石に万単位の人々の暮らしを仕切っていかなければならないと思うと刹那に途方に暮れる。
「僕としてはグレイス帝国の反乱が成功の内に終わってミリウド皇太子が帝位に就くのが望ましい、かな。エストリアの話を聞く限り、僕と彼との間では話も通じそうだしね」
「ダーウェス様としてはグレイス帝国の覇権はお望みでは無い、と言う事ですね」
「そうだね」
僕に向かうラビエラに視線を送る。
「僕にはこの大森林で共に暮らす皆が居る。それだけで、僕は満ち足りているよ」
「ダーウェス様……」
「カカ。では反乱分子共には精々頑張って貰うとして、成功させるには我等もそれなりに動かねば成らんという事かの」
「風の矢筒には引き続きグレイス帝国の内偵を進めて行く様に指示を出しましょう。頼みましたよ、エストリア」
「はっ!」
どうやら僕等の方針は決まった。
「では僕等は反乱勢力に協力する形でミリウド皇太子を帝位に据える。彼等の手に負えないオークなどの敵戦力は僕等が薙ぎ払う。まぁ方向性としてはこんなところかな」
「「「「御意!」」」」
さて、目的は決まった。あとはそれに向けて段取りを踏んでいく訳だが。
「まずはなんとかレジスタンスと接触を持ちたいね。こちらの意だけではどうにもならない話だからね」
「ふむ。帝国ではエルフは目立つだろうからの。ここはひとつ違う方向からもアプローチを仕掛けるとしようか」
「リーヴァス殿には何か案がお有りか?」
彼にはなにか心当たりがある様だけれど……なんか不安も……
「なぁに、適材適所と言う奴よ。カカカ」
「適材適所?」
そして――――
「では、頼んだぞ。なに、お主なら容易い事よ。カカカ」
「あぁぁ…………頑張ってね」
僕とリーヴァスに見送られて、翌朝彼は城を跡にした。
「……え?」
「さぁ~、行きましょう~」
僕等を見詰めたまま、後ろ剥きにズルズルとシャルに引き摺られて…………
「…………あの」
「出発には最高の天気っすねぇ」
シャルが手を絡めた右腕とは逆の左腕に腕を絡めたミーナにぐいぐいと引っ張られて…………
「な! なんで僕なんですか~~~~っ!」
「あはは~。照れなくても良いんだよ~」
「大丈夫だって! 何かあってもうちが守ってあげるっす」
シャルとミーナに挟まれて、というか連行されて、ラルトスが連れ去られていく。
しばらく休みをやるから来い。とリーヴァスに呼び出されたラルトス君だったけど……いや、確かに此方の仕事からは解放されるんだろうけどさ。
「…………泣いてたね、ラルトス」
「敵地に乗り込む位でだらしがないのう」
とにかく…………………………………………がんばれ……




