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第57話 帝国との会談


「私はグレイス帝国軍第三軍指令、第五騎士団団長アシュトナーレ・フォン・ヴァーミオン侯爵。我がグレイス帝国皇帝、ガーベル・ザーシルト・エル・グレイス様よりの遣いで参りました」

「遠路ようこそおいで下さいました、アシュトナーレ侯爵」

 

 謁見の間とした部屋にグレイス帝国の騎士が五十人ばかり並んで立っている。

 なるほど、情報通りか。

 (きら)びやかに光沢眩しい鎧一式に身を包んでいるのが四十人程。これがおそらく正騎士って連中だろう。

 その背後に控える様に続いている十一人の騎士が居るのだが、こちらの装備は傷も多く使い込まれている感が凄いんだが、気配の配り方には目を見張るモノがある。

 彼等が準騎士と云う者か。

 戦う積り……じゃないか。あれは逃げる時の為だけに気を巡らせている感じかな。

 つまりは此方(こちら)の戦力を、完全にでは無いだろうが漠然とは感じている訳だ。最も分かり易いのはラビエラとビルスの二人か。


 ビルスはオーガ族の族長補佐に位置する男だ。

 強さではドルトの後塵を拝するだろうが、その理知は群を抜いているし何より珍しい事にオーガにあって穏健派でもある。

 必然、僕の傍にあり多種族との連携や交渉事は彼に一任されている男。

 ラビエラが魔力を抑えようともしないのは、僕に対して膝を折らない騎士団に対しての怒勢なのだろうが、彼が気勢を態々(わざわざ)発しているのは騎士団の為だろう。

 互いの戦力差を理解させ相手の無謀な行為を……軽々に武力行使をさせない為に威嚇牽制し抑止しようとしているんだけど、駄目かな。

 正騎士団の方がまったく理解していない。決定権を持っているのは彼だろうに。


「それで? ガーベル皇帝は私になんと?」

「くく。皇帝陛下はお前達に温情を賜るそうだ。この大森林に住まう者達全てをグレイス帝国に迎えると仰られている」

「我々を帝国民に?」

「そうだ。我が領内に村でも町でも作って暮らすが良い(よい)。この大森林の管理は私が担っていくとしよう」

「……この森は魔獣の森ですよ? 貴方の手に負えますか?」

 その綺麗な鎧はこの大森林には似合いませんよ?

「ふむ。なるほど一理あるか……うむ。ではこうしよう」

 なにを思いついたかと思えば――


「君には私の補佐としてこの大森林の管理に手を貸して貰おうではないか。対価と言ってはなんだが私が皇帝陛下に進言し君を男爵に推そう。いかに領地を手土産にしたとはいえ蛮族からの叙爵(じょしゃく)としては異例であろう?」

「男爵に、ですか」

 光栄だなぁ……あ、ラビエラがいかん。

 左手で軽く制したけど、これは長く持たないなぁ。

「そうよな。この城を拠点としても良いだろう。どの様な魔法を組み込んでいるのかは知らぬが、この浮遊城は見事の一言に尽きよう。この城に在するメイド共々私が貰い受けるのも悪くない。無論、それなりの配慮はしよう」

「おぉ! それは名案ですな。これほどの居城は帝国内においても類を見ますまい。侯爵が所有するにこれ程適した城も御座いますせん」

「あまり持ち上げるものではないぞナイゼル伯爵。陛下の王城には比べるべくも無く、また大公閣下、公爵閣下の居城にも並ぶべくは無いのだからな。まぁ(おおやけ)に語るならばの話だが」

「無論承知しておりますよ、侯爵」

 突然割って入ったのに随分と呑気に話を進めるものだねぇ。

 さて……それじゃあ。


「私が断る、と言えば?…………どうしますか?」

「……私がそんな言葉を聞く事は無いと思いますが……」

 おや? そんな剣呑な空気も出せるのか。てっきりただの間抜けかと思ったが。

「私が断らないと何故確信しているのか疑問なのですが?」

「これはこれは。私としても親切で言っているのですよ? 皇帝陛下の温情を拒絶する事がありえないと思っている訳では無いのです。ただ拒絶しない方が賢明だと知るからこその、これは親切ですよ。寧ろ感謝されるかと」

 きっと本気で思ってるんだろうなぁ。

 しかし正騎士の皆さんはニヤニヤと笑みを受かべているのに対して準騎士の皆さんは冷汗が止まらない様子だ。不憫だなぁ。

「賢明、ですか」

「ダーウェス殿、拒もうが受け入れようが結果は同じなのですよ? あとは過程の違い。どのみちこの大森林は帝国領となる。進んで取り入り平民となるか、奪われ奴隷となるか、その二択なのですよ? 考えるまでも無いでしょう」

「つまり断れば敵対と見なすと」

「皇帝陛下の温情を無下にするのですから当然でしょうな。ん? まさかダーウェス殿は……妙なお考えをお持ちなのではないでしょうな」

 一斉に正騎士団から殺気が放たれたけど、この程度の殺気は可愛いものだ。

「ではガーベル皇帝にお伝えください」

「承りましょう」

 嬉しそうにしているところ申し訳ないが期待には応えられない。


「この大森林は我らが安住の地でありグレイス帝国からの庇護も干渉もその一切を受ける必要無し」

「貴様っ!」

 ナイゼル伯爵とやらが柄に手を掛け一歩前に出れば他の正騎士もそれに習った。

 それは不味いなぁ。

 彼等に呼応する様に、シェーラとビルスの二人が僕等と彼等の間に並び立つ。

「おっと、剣呑だねぇ」

「……止セ」

 シェーラはロングソードの柄に手を掛けたまま、ビルスは三日月刀(シミター)に手を掛け立ちはだかる。

「……つまりダーウェス殿は我が帝国と事を構えると。そういう事ですか」

「戦いは望む所ではないのですがね。其方から火の粉が飛んで来るようでしたら此方としても掃う(はらう)しかありません、という事ですよ」

「なるほど。しかしそれはどうでしょうねぇ」

 うん? 侯爵も気配を尖らせるじゃないか。

「結論は後日改めて、とするのが利口というものでしょうに。我等を喉元まで招き入れておいてその言葉、些か不用心に過ぎるのではありませんか?」

「と言うと?」

 

――――嘘……

 何を血迷ったかアシュトナーレ侯爵は剣を抜いてしまった。

「交渉決裂と同時に刃を交える可能性もあるという事だっ! 我が騎士団五十人を前にたかだか数人の護衛とメイドで何が出来る。蛮族の無知無能此処に極まれりよっ!」

「大将首は侯爵に譲りましょう! 雑魚は我等にお任せをっ!」

 おおっ! と一斉に抜刀したんだが…………正気かこいつ等。

 皇帝の伝言を伝えに来たのなら、返答も持って帰らねばならないだろうに。

 開戦の権限までこの侯爵にあるとは思えないのだけどなぁ。

 おそらく開戦との認識もないのだろう。精々が森に住む原住民の反乱討伐程度の認識なんだろうが、せめて彼我(ひが)の戦力差位は感じ取れる程度の腕前は欲しいものだよ。

 

「抜いちまったねぇ」

「愚カナ……何故引ケヌノカ」

 シェーラとビルスも共に抜刀した。

 このままだと騎士団五十が血肉に変わるな。

 しかしそれでは誰が僕の意を皇帝に伝えてくれるんだ? 

 短気は損気というだろうに……ん?


「お待ち下さいっ!」


 騎士団と二人の間が僅かに詰まろうとした時、一人の準騎士が間に割って入ったのだった。


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