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第56話 グレイス準騎士ダレスの見た大森林


 グレイス帝国 第三軍第六準騎士団。

 それが俺が団長を務める騎士団の名称だ。

 取って付けたような「準」なんて名称は単なる貴族の嫌がらせに過ぎない。もう気にする事も無い。

 帝国軍は六つの軍から成り、一つの軍は二つの騎士団と二つの準騎士団を含み、更にそれぞれ一軍に五万のオークを従えていた。

 騎士団は王侯貴族が率い、その構成も殆どが貴族共で構成され殆どその剣を血で汚す事は無く、前線に立つのは平民や没落貴族で構成された我等準騎士団であり、ただ蹂躙するのはオーク共。

 誇りも敬意も無く、ただ暴力の波となってあらゆるものを蹂躙するだけのケダモノ共だ。


 陛下がお変わりになられてからのグレイス帝国は……もう(いにしえ)の栄光など見る影もない。

 もっとも、今程では無いにせよ、どのみち真っ当な国じゃなかった。

 平民や農民は搾取され虐げられ、苦しみ続けた歴史が続いたのだから、程度の差こそあれ誇れる国なんてものは無い。

 

 だが――――光は在ったのだ。

 

 漸く見えた僅かな光が……手の届かない場所に置かれてしまった時、本当の地獄がこの国を支配した。


「ははは。あれが大森林に住む蛮族共か」

「アシュトナーレ侯爵。あの程度の数しか持たぬ蛮族など、侯爵自ら出陣する必要など有りますまいに」

「ふふ。いやナイゼル伯爵よ。ここ三度の反乱制圧も(けい)に任せきりだったからな。あまり怠けてばかりも居られまいよ」

「そう申されますとむず痒いものもありますな。ま、此度は帝国にとっては前人未到の大森林。わが帝国の歴史に足跡を残す事にもなるのであれば、確かに侯爵に出陣いただくのが重畳かと」

「うむ」

 馬鹿共が馬鹿な事をペラペラと。

 何が反乱制圧か!

 重税を納めきれず滞納し逃げ出した小さな町を蹂躙しただけではないか。

 武器を持たず逃げ惑い、慈悲乞う平民・農民からあらゆる物を略奪し、女子供に凌辱の限りを尽くし、飽きた頃にはオークによって全てを、文字通り呑み込んだだけだろうが。

 貴族のただの憂さ晴らし。ただ目を付けられただけの民草の悲劇。

 そんな地獄をひけらかして悦に浸る馬鹿共が、新たな贄を求めてこの東の大森林にやって来た。


 見れば少し大きめの村とも言えない集落が見えるだけ。

 情報によればアマゾネスが集落を形成していると聞いた。

 それを聞いて、何を血迷ったか侯爵自ら軍を動かし、俺達の隊も出兵を言い渡されたのだが……正気じゃない。

 確かにアマゾネスは女だけの種族で皆美しいと言われているのだが、それだけを信じて侯爵は血迷った様だが、肝心なのは別の件。

 アマゾネスは類稀な(たぐいまれな)戦闘能力を有した戦闘種族だという話だ。

 その武は単騎で大型魔獣を屠るというが、そんな化け物みたいな女が百や二百でもいればこちらの損害は洒落にもならないだろう。


「まずは手筈通り挨拶と行こうかナイゼル(きょう)。ダレス、貴様も十騎程連れ続け」

「ハッ!」

 十騎か…………馬鹿共のお守にはキツイが止むを得まい。


 第五、第六騎士団が進む後ろを、俺は自分の団から十名を連れて続いた。

 近付き見えてくる相手には、確かに大柄な女性が多く見受けられた。

「あれがアマゾネス、か」

 確かに、遠目に見ても目を引く美女達ではあるが、他に目が行くと。

 人間? まさか……オーガも居るのか?

 驚いた。

 アマゾネスとオーガは不倶戴天の敵同士と聞いていたのだが、まさか我々の来訪を以って大同団結でもした言うのか?……厄介な。

「侯爵閣下。敵にオーガが居ます。ご注意を」

「黙れダレス。侯爵に対して貴様」

「良いでは無いですかナイゼル卿」

 ナイゼルを止めたアシュトナーレは俺を見る、が……嘲り(あざけり)を含んだ目だ。

「ダレス。我々はなにも侵略に来た訳ではない。行き成り戦うを前提とした見方は感心しないよ。君はもう少し余裕を持つが良い。視界が狭い人物は大成しない」

「さすがアシュトナーレ伯爵。常に大局を見詰めるその視野の広さ。このナイゼル、深く感動致しました」

「いや、常に戦いを想定する彼も騎士としては間違いではあるまいよ。平民にしては上々という事だ」

「まさしく。ははは」

 どの口が言うか。

 指揮権を持ったアシュトナーレとナイゼルが居なくなったのだ。

 あのオーク共が黙ってあの場に留まっている事など不可能。以って一時間。

 俺達の姿が見えなくなって一時間もすれば、あのケダモノ共は目の前の得物に一斉に襲い掛かるに違いないだろうに。


 

 集落に近付いた我々の前に一人の人間の若者が歩み出てきた。

「自分は大森林、戦士団副団長ラッツと申します。その御旗、グレイス帝国の方々とお見受けするが、此度の来訪の意は如何に(いかに)ありますや」

 ほう、なかなか行儀が正しいが、少しばかり付け焼刃かな。

「我はグレイス帝国、第三軍司令官アシュトナーレ・フォン・ヴァーミオン侯爵である。グレイス帝国皇帝ガーベル様より貴殿らへの言伝を持参した。(けい)らの纏め役へと取り次いで貰いたいのだが?」

「了解致しました。我等が盟主、ダーウェス様のもと迄我等がご案内致します。ですが」

 視線が背後の黒波に移ったのを見て侯爵が薄ら笑う。

「案ずる事はありません。オーク共はあの場より動きません。一応、此処にいる騎士達の同行はお許し願いたいのだが?」

「配慮痛み入ります。それでは皆様をご案内させていただきます。馬の歩みで一時間程掛かりますが宜しいか」

「くくく。田舎とはそういうモノでしょう。気にはしないさ」

「……では、どうぞ」

 余計な挑発を。

 周囲の怒気が上がったのが分かるが当の貴族は涼しい顔で嘲笑ってるときた。鈍感な彼等が羨ましいぞ。

 


 俺の部下十騎を含めたグレイス騎士五十騎を引き連れて、戦士団を名乗った彼等は森の中を進んでいる。

 それにしても、と思う。

 馬に乗っているのは先頭のラッツと名乗った彼だけだ。

 残りの五十人程の若者達は、剣一本を腰に下げてゆっくり走っているのだが。

「……よく鍛えられてる」

 彼等は息一つ乱さずに我々を挟む様に小走りに走り続けるのだが、これを一時間、この森の中で?

 生半可な体力ではないぞ。

 

「もう見えます」

「ご苦労な事だな」

「私の目には藁葺屋根(わらぶきやね)が見えてきませんがな」

 呑気な言葉を聞き流して進んでいくと、森が開けた。



「……これは」

「なんと……」

 呆然とするアシュトナーレとナイゼルの後ろで、俺は言葉を失う。



――――荘厳――――


 

 深緑の森を映す透き通った湖。

 そしてその湖に浮かぶ白亜の城。

 そう……湖の上の()()()()()()()()、浮遊城だ。

 およそ五メートル程の高さに浮かぶ城迄伸びた橋。

 そして其の橋の両側で、まるで城門を守護するかの様に湖で屹立するのは二人の巨人。

「……巨人族」

 どれほどの深度かは知らぬが、膝上あたりまでを湖に浸からせたまま、長大な槍を構えた二人は無言で立つ。

 俺達は馬を降り、巨人の胸元辺りを通り過ぎて静かに開いた城門の中へと入る。

「ほう」

「これはこれは」

 そこには美しいメイドがずらりと並び頭を垂れている。

 エントランスの中央に立つメイドが優雅にスカートを摘まみ挨拶を送り、「こちらへ」とラッツの前を進み奥へと誘う。

 一際大きな扉の前で止まると、扉の脇へとずれた。

「ダーウェス様がお待ちに御座います」

 そう言えば、静かに扉が開き出す。


 ラッツが進み我々も続いて入室すれば、そこはまるで王城の謁見の間の様だった。

 高い天井と五十人からの騎士を迎え入れても一向に埋まらない広い床。

 光差し込む窓は存在を忘れる程に透き通り、上部のステンドグラスは王都の職人ですら凌ぐ技量を伺わせるに充分だ。


「グレイス帝国の騎士の方々を御連れ致しました」

「ご苦労さま、ラッツ」

「いえ」

 彼は礼を見せた後、彼は退室した。


 玉座にあたるであろう三段程高い椅子に座っているのが、盟主と呼ばれている男だろう。

 そして彼の左右に並ぶ六人。

 この七人だけが大森林側の人数だ。

 五十人からの、物騒極まりない騎士団を迎えるには、些か不用心に過ぎるのだが……そんな常識は俺の中で粉微塵に吹き飛んだ。

 

 我々に一番近い向かって右列の此方端に立っているのは子供だ。

 確かに子供なのに、なぜか気配が掴めない。

 いや、気配が無い。しかしゴーレムという訳でもない……精霊の力を僅かに感じるが一体何者なのか。

 

 そして左の此方端だ。こいつは……オーガじゃないかっ。

 感じる気勢がとんでも無い。

 これは駄目だ。俺どころか俺達十騎纏めて掛かろうとも貫ける気がしない。


 子供の隣に居るのはアマゾネスだろうが、美しい。ただただ美しい。

 布帯を纏った美麗な肢体は我々の視線をその褐色の肌に縫い付けて放さないだろうが、すぐにそれは勘違いと悟る。

 あの金色の瞳は魔獣のそれを彷彿とさせる。あれは獣だ。美しくも獰猛な一匹の獣。


 オーガの横に居るのは、何の冗談だ? エルフじゃないか。

 グレイス帝国にもエルフは居るが、あれほど美しいエルフは見た事が無い。

 そしてあれほど精霊に愛されているエルフもだ。呼びも頼みもしていないだろうに、あらゆる精霊が彼女の周りを漂っている。


 右列最奥、王の左手に控えているのは深蒼の右目と真紅の左目を持つ巫女。

 まさに神に愛でられし乙女とは彼女の為に在る言葉だろう。

 だがこの魔力はなんだ? まさか神をその身に降ろしたとでも云うのか。


 左列最奥、王の右手に控えているのは……化け物だった。

 髑髏の中に光る赤い瞳と骨の腕、いや、骨そのもののアンデッド。

 東の隠者たる伝説のリッチが、主を持ったとでもいうのか!


 

 そして――――王座。

 


 あれは……これは……駄目だ。 

 なんだ? なんだ? なんなんだ!


 他の六人が霞んで見える。

 魔力が高いとか、武力が高いとか、気とか隙とか精霊とか闇とか、そんな話じゃない。

 計れない。

 感じ取れない。

 おぼろげにも見上げれない。

 俺程度の力では、この王座に相対(あいたい)する事など空想の中でも御免だ。考えられない。


 俺の前には、一つの――――現象が存在していた。

 

 これは魔力という現象そのものだ。



「初めまして、グレイス帝国の皆さん」

 現象は、我らに笑みを浮かべて言葉を放った。


「僕はダーウェス。この大森林を統括させて貰っている者です……よろしく」




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