第55話 デューの娯楽
「おらチンタラ走ってんじゃないよっ! 周回遅れになった奴から飯抜きにするよっ!」
「っがああああっ! デューさん洒落になってないっすよおおおおっ!」
「はっ! 本気に決まってるだろぉが! おらぐちゃぐちゃ言ってる間に足動かせトロスケ共がっ」
「鬼ぃいいいいいいい!」
あたい等の集落で必死に走ってるのは総勢五十人の戦士団さ。
まぁ人間にしちゃあ大分マシになってきた連中なんだが、まだまだ基礎がなっちゃいないんだよな。
大森林の治安って奴はどうやら巨神と巨人族が担う様になったらしい。
おかげであたい等アマゾネスやオーガの遊びも減っちまったんだけどね。まぁ、ちっとばかり役回りが変わったって感じだろうさ。
シェーラの姉御が帰ってきて、その晩にダーウェスにしこたまどつき回されたあたい等も、今じゃあ大森林のダーウェス一家の一員て訳だ。
まぁ悪い話でも無いし、悪い気もしちゃいないんだがね……退屈になったのは事実か。
あたい等と一緒で、人間の戦士団も今じゃあ暇になっちまったんだが、どうやらこれから先はまたキナ臭い話もあるらしい。
希望者に限定してるらしいが戦士団の人員は逆に増えてるって話だ。戦士を辞めて田畑や漁に行った連中も大分居たみたいだが、あちこちから合流しだした人間の中からも戦士希望の奴等が合流した。結果的には増えたって話。
で、ラクエルの里や他の集落で基礎を終えて使い物になりそうになった連中は、あたい等の集落に来て徹底的にシゴかれるって寸法さ。
あたい等の暇潰しにもなるし、こいつ等にも良い修行になる。
フルアーマー着て走ってるだけで音を上げてる様じゃまだまだだけどね。
此処から戻る頃にゃあオーガ位には使える様になってるだろうさ。
でも、中には面白い奴も居る。
「おおおおっ!」
「アマイ」
ガランの剣を簡単に受けるドルトは、そのまま無造作に蹴り飛ばした。
「シェーラニ何ヲ習ッタ……貴様ノ魔晄ハ遅イ。モット意識ヲ全体ニ広ゲロ」
「分かってるよっ!」
「ナラ――」
ガランの剣が当たる前に、ドルトは柄で叩き飛ばす。
「――ヤレ」
やれやれ。
ガランの奴は他の連中からは頭一つは抜けてるんだが、まだこっち側に来るには一皮二皮剥ける必要があるねぇ。
走ってるこいつ等も魔晄を纏うところ迄は来てる。
ガランはその先の魔晄を動かすとこ迄来てる。今も剣に集約して戦おうとしてるんだが、それじゃあ駄目だ。
姉御にも諭されてはいるらしいが、あれはもうガランの性格だね。徹底的に矯正しなきゃ使えない。
「このっ!」
今度は全身に纏ったまま一気に詰め、迎え撃ったドルトの柄をかわし剣で突きを繰り出した。
「なっ!」
剣先はドルトの腹筋に刺さりもしない。
あの程度では奴の腹は貫けねぇよ。
「マダ遅イ」
「ぐあっ」
そのまま剣を握られて飛ばされる。
あの馬鹿は格下相手だと良い動きをするんだが、強者と当たると途端に危なっかしい動きを見せ出す。
ギリギリを狙う。
狙い過ぎる。
守りより攻めの意識が強く出る。
あたい等やオーガにもその傾向はあるんだけどねぇ、だからと言ってガランの奴がソレをして良いって話じゃない。
奴にはまだ土台が無い。
剣に集約しなければ斬れない相手も居るだろう。
だったらそれは刃が相手に届く、その刹那だけで良い。
多少身が削られても構わない? それは多少の削りが致命傷にならない程度の相手であればの話さ。
肉を斬らせて骨を断つ――なんてのはガラン程度のレベルの話だぜ?
肉を斬らせりゃ骨までイッちまうのがあたい等の場所だ。
だからこそ、魔晄を纏ってダメージを防げるのならばそうするべきさ。
武器に、身体に、部位に、防具に、どこでもいつでも瞬時に発し動かし集約出来なければ、魔晄を使いこなしているとは言えない。
「俺ノ肉ヲ断チタケレバ剣ニ集約シロ。止メラレナケレバ魔晄デ受ケロ」
「そんな簡単に」
「簡単デハ無イ。ダガヤレ。デナケレバ死ダ」
「っのおっ!」
「ソノ意気ダ」
剣を構えるガランにドルトも満足気だ。
いいじゃないか。今度はあたいが稽古を付けたいねぇ……まぁドルトに順番だとか言われたから待ってるけどさ。
早いとこドルトのお墨付きを貰って欲しいもんさ。
「ん?」
風の精霊が近くで動いてる。
「なんだい?」
――――『南から約一万が侵攻。グレイスの騎士団五十も確認。到着は明日』――――
来たねぇ。
ははっ!
「くっははははっ」
「デューさん?」
「お前らちょっと休憩だよ」
「へ?」
どうやら訓練は此処までらしいねぇ。
戦士団の連中に休憩を言い渡し、精霊に意識を戻す。
「骨の旦那には伝えてんだろ?」
――――『既に』――――
「なら待つよ」
精霊の気配が消えた。
さぁて、グレイス帝国か…………
「精々楽しませてくれよなぁ」
本当に頼むよ?
◇ ◇ ◇
「見えたよデュー姉っ!」
「あぁ!」
昨日の報告通りと言えばそれまでなんだが、しかしこのルートを直撃かい。
この場所に集落を構えたラルトスの読みも大したもんさ。
さて、時期に連中も視界に入ってくるんだろうけど、一万に対してこっちは精々千ってとこかい。なかなか骨が折れるねぇ。
「デューさんっ!」
「ん? お前が来たのかい、ラッツ」
「はい! リーヴァス様から」
戦士団の副長であるラッツは、実質は指揮を執ってる奴だからね。
「で? 骨の大将はどうするって?」
「はい」
ラッツはあたいに並んで敵が来る方角を見詰める。
「此方に向かってる一万の他に南西ルートで三百が侵攻中です」
「シャルの方か」
「ラルトスも大概使える奴ですよ。予想の範疇らしいですね」
「うちのシャルが熱を上げる訳だねぇ」
「はい…………っ! はい?」
知らなかったか?
まぁあの朴念仁には手古摺りそうだけどねぇ。
「ま、まぁそれは置いておいて……連中も別働隊を動かしてる位だから始めから穏便に済ませようって積もりでも無いんでしょう」
「じゃやるかい」
良いねぇ良いねぇ。
一人頭十人も殺れば良いんだろ? 滾るじゃないか。
「いや、多分騎士団ってのが先に交渉位は持ちかけて来るだろうとリーヴァス様が」
「乗るのかい?」
「話位は聞きますよ。ダーウェス様がお会いになるそうです」
「へぇ? ダーウェスが」
あいつは基本平和主義だ。
話し合いからってのは好きなんだろうが――
「里でかい?」
「いえ、城でだそうです。俺が戦士団と共に随伴を。あ、ガランは置いてきますんで」
「なんでだよラッツっ!」
うるさいねぇガラン。
「お前はこっちで良いんだよ! 荒れるのはこっちなんだから」
「はぁ?」
それじゃあ話し合いで済ます積りも無いって事かい。
あたいの視線に笑みを浮かべてラッツが口を開く。
「南西は黙って殲滅するよう指示が飛んでます。こちらは……防衛戦でお願いします」
「ほう」
防衛ねぇ。
まぁいいさ。せっかくのお客様だ。
精々歓待してやろうじゃないか――――なんて言ってる間に。
「来たよ」
「ですね」
「なんだよスゲェ数だなあ」
地平線を黒く染めたオーク共の真ん中に、綺麗な旗が棚引いてやがる。
「お客様の御登場だ」




