第53話 大森林の事情
リーヴァスの部屋へと着けば数人の者が色々な指示を仰いで居た様だ。
ほとんど彼任せの部分が多いからなぁ。苦労を掛けるよ、ほんと。
「やぁ、リーヴァス殿。少しは休んでいるのかい?」
「カカ。残念ながら休息や睡眠を必要としない身体なのでの。まぁ、ぼちぼちと言った所よ」
「無理をしてないのであれば構わないさ。そのうち何かしらで報いさせて貰うよ」
「期待しておこう」
部屋の者達とも口々に朝の挨拶をかわし、用の済んだ者が退室していくのと引き換えに、子供が二人入って来たのだが、きょろきょろと部屋を見渡している。
「どうしたんだい?」
「う~んとね~~~~……」
なんだろう? と僕や僕に乗ってる三人が不思議に思うと――「あっ!!」と二人がリーヴァスを指差す。
「「ミーナ見っけ――っ!!!」」
ん? いつからリーヴァスはミーナと呼ばれるようになったんだ?
「ちぇー、見っかっちゃった」
「へっ!?」
リーヴァスの纏うローブが動いたかと思ったら、中から女の子が出てくる……っていうか……リーヴァスの肋骨と腰の骨の隙間から這い出てくるんだけど、その中に納まっていたのかい
?
「あとだ~れ?」
「「ヨシュだけぇ」」
「じゃ行こうっ!」
「「うん!!」」
「「僕もやるーっ!」」
「あたしもーーっ! お父さん降りるーーっ!」
僕から降りた三人と鬼の二人、で、なぜかリーヴァスの中から現れた一人の合計六人の子供達は、嵐の様に部屋を飛び出していったのだが……
「……あの……リーヴァス殿?」
「…………まぁ……良いさ……」
忘れよう。
「それで、リーヴァス殿。僕に話というのは?」
切り替えて話を促すと、彼も応じてくれた。
「うむ。またじゃよ。今度は二十人程か」
「そうか……南からかい?」
「いや、北よ。巨人族が見付けた様でな」
「う~ん。それにしても止まらないなぁ」
最近、この大森林の人口増加は、新たな集落の合流の他にもう一つの要因がある。
難民の流入だ。
遠目で見てもリュクトスが居なくなったのは分かってしまう。それ故に南から難民が入り込み、イチかバチかで北から踏み入って来た者達も、ヒュドラではなくリュクトスを見て、藁にも縋る思いで入ってくる。
かつてとは違い、リュクトスから僕等との共存を伝達されている巨人族は、今では人間を追い返そうともしていない。
見付ければ僕等の下迄、連れてくるなり報せるなりをしてくれるのだけれど、此処までひっきりなしだと流石に問題にもなってくる。
全ては、グレイス帝国の圧政から逃れて来た人々。
「流石に追い返すという選択肢は考えてないけど、グレイス帝国……そろそろ考えなければならない時期かな」
「カカカ。あちらも同様だろうて。もっとも、興味があるのは民ではなくこの地だろうがの」
「やっぱり南から?」
「受けに回るのであればそうなるが」
「僕から喧嘩を売る気は無いんだけどね」
「笑顔で手を握れる相手でも無かろうさ」
いやいや、困った話だ。
キーサス山脈の向こうにあるたった一つの国家、グレイス帝国。
どうやら可也の圧政を強いている暴君が治めている様だ。
この大森林の異変を感じ、このまま帝国で生きるよりは大森林に逃げた方がマシだと思えるほどという事。
僕等の体制の事は伝わっては居ない筈だからなぁ。魔窟たる大森林に飛び込んでくるのだから余程な覚悟だろう。
「聞いた限りじゃ酷くなったのはここ二十年位の話みたいだけど、リーヴァス殿が知るところはどうなんだい」
「そうさな」
少し、思案を見せた。
「どのみち真っ当な王侯貴族ではなかったのだがの。かつては民には重税を課し己等は享楽に浸ると言った者共だったが、現王になってからは変わった」
「悪い方に?」
「民には地獄を与え己は嗜虐に酔う。ただ怠惰や享楽に浸る貴族共などあっという間に血肉と化したそうな」
民の悪夢の方向性が変わった形だ。
金を奪われ、家族を奪われる毎日から、全ての者の命そのものを奪われる毎日に変わった。
徐々に、だが確実に、グレイス帝国は狂気に呑み込まれて行っている。
「やっぱりオークが問題になるか。よくもあんな邪法に手を染める」
「カカカ。効率は良いぞ? 戦うのならば我が同数のオークを用意しても良いが」
「止めてくれ。僕の趣味じゃないよ」
「カカカ」
オークは獰猛で残忍な、魔導生命体だ。
僕の知識じゃブタの化け物かとも思っていたが、なんだが毛色が違う。まぁ、ゴブリンとオーガの真ん中と言った感じだけど、その存在が特殊だった。
オークは母体からは生まれない。
血肉を使って作った魔導の泥闇から生まれだす魔物だ。
その性格は暴虐的で、分かり易い位の肉食。
獣や魔獣はもちろんの事、人間、エルフはバリバリ食べる。傷を負って動けなくなったオークや非力なオークなども平気で襲って喰らい尽くす程。
そして現王は、二十年前からそのオークの兵団を増やし続け、グレイス帝国はおよそ人間の国家とは思えぬ程の……魔島と呼ばれるワグナスにはある意味最も相応しいと言えるだろう国家へと変貌している。
「今、風の矢筒が情報を集めておる。それなりの収穫もあろうさ」
「そうだね」
まずは情報だ。
グレイス帝国の王侯貴族を滅するのは構わないし、僕としては率先して討ち取る積りだけれど、それで全てが万々歳という訳でもない。
あまり急いても上手く行くとは限らないからね。
「それで」
話を戻す。
「新しく来た人達はどうする? 北側でその人数を受け入れるとなると……アルハリの里に頼む事になるかな」
今は何処も大変だし、なにより一度に二十人ともなると、受け入れる場所も何処でもいいという訳にはいかないしな。
「いや、それは既に決めておる」
「ん? 他に?」
まぁ、他にも場所は在るのかも知れないな。僕よりは彼が詳しいし。
「北の集落にサリウ殿から話を通して貰った故な。問題はなかろう」
「ん? しかしそれは」
サリウが話を通せる北の集落といえばエルフの里の話なのだが。
「今度の連中はエルフとハーフエルフよ。集落丸ごと焼き討ちされたらしい。この森の事は精霊に聞いたとの事よ」
「そうか……サリウなら上手く取り計らってくれるさ」
「カカカ。まぁ神話のエルフだからの。問題も起こらんからいつもより楽で良い。本人達や周辺のエルフ、人間や巨人族に関してはラルトスが上手くやろう。陽が登る前には走らせたからの。そろそろ到着する頃だろうて」
「そうか。ラルトスなら安心だね」
彼は優秀だからね。
いつも助けて貰って…………ん?
あれ?
「なぁリーヴァス殿」
「うむ? なにか?」
「いや、僕の記憶だと昨日の夕食時に、確かラルトスはオーガと一緒に南境の警備の話を終えて帰って来たと思うんだけど」
「うむ。アマゾネスとオーガはどちらも大雑把だからの。効率的な場所に集落を設置させたぞ」
「確かそれって漁場拡張の段取り終えて直接向かったと」
「漁場の話が急だったからの。いやはや、人が増えると手間も増えるわ」
「………………」
「それがどうかしたかの?」
あかん。僕の大森林がブラック企業となってます。
「いやいやいやっ! ラルトス働かせ過ぎだからっ!!」
「心配いらんぞ? 会う度に魔力を注ぎ込んでやっておる」
「休ませなきゃ駄目だってばっ! てかっ、彼に負担行き過ぎだしっ!」
「なぁに、いざとなれば我が作った薬を与えるさ。これさえ飲めば食事も睡眠も必要無く、気分は高揚感に包まれよう! カカカ、何をしても愉快な気分になる事請負じゃっ!」
「それ駄目な奴っ! 絶対駄目なヤツだからなーーーっ!」




