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第51話 空を堕とし魔王VS北の厄災



「さて、と」

 崖の先端に立ち見下ろすのは綺麗な湖。

 深緑の森に囲まれた美しい湖を眺め、一つ、意気を吐く。

「なにもダーウェス様自らが出向かずとも、わたくしに討てと御命じ下されば即座に(くだん)の蛇めを討伐致しますのに」

「カカカ。良い(よい)ではないか巫女よ。ダーウェス殿も偶には身体を動かしたかろうよ」

 リュクトスとの会談から僕等は真っ直ぐに北に足を運んで来た。

 どうせ討つのならば早い方が良いだろう。

 森の生態系に良好な存在とも思えないからね。

 そして戦いは僕一人で行うと告げたのが先ほどだ。

 一度は了承してくれたラビエラなんだけど、やっぱり心配らしい。いや、嬉しいんだけどね。

「僕の心配は必要ないよ、ラビエラ。アレの毒の問題があるからね。僕としては僕単独であれば手なんか幾らでもあるさ」

「それはそうでしょうが」

「無事に帰ってくるよ。待っていてくれるね?」

「ダーウェス様……畏まりました。御武運、お祈り申し上げます」

「ありがとう」

 つい、とリーヴァスに視線を向ける。

「後の手筈は?」

「カカ。調って(ととのって)おるよ。北も南も案ずる必要は無い」

「助かりますよ」

「カカカ」

 蛇を倒した後の事は、リーヴァスに任せておけば安心だ。

 それじゃあ僕は――


「行ってくる」

「はい」

「うむ」

 

 軽く一歩。という感じで踏み出し、僕はそのまま湖の縁まで飛び降りた。

 落下中に魔力を構築する。

 

 ドンッ! と言う轟音と バシャンッ! と言う飛沫の音が響く中、僕は足首ほどの水辺に着地すると同時に僕を中心に数キロに亘り(わたり)魔力を張り巡らせた。

「…………うん。良いね」

 地も水も、草木も動物も、干渉する全てのモノを僕の魔力で表面加工(コート)した。

 耐圧でも耐魔力でもなんでもない。でも対毒性に特化した完全な防御膜。

 もっとも、余りに細部に亘るので膨大な魔力を必要とするが、まぁ問題ないだろう。

 これでヒュドラが何をしようとこの地も湖も毒を帯びる事は無い。

 僕がこの場に立ち、魔力を供給し続ける限り()()()()()()()()

「さぁて…………どうやらノックは聞こえた様だね」

 前方の水面が隆起したかと思えばヒュドラがその姿を現した。


【シャァアアアアアアアアアア!】

「……うん。やっぱり分かんないな」

 もしかしたら強い力と共に知性くらいは芽生えているかとも期待したけど、どうやら無駄だった様だ。

 コレに知は無い。

 ただ自分の縄張りに立ち入って来た侵入者を殺す。そんな獣の本能のみだ。

 だったら――


「君には死んで貰うよ。情も理もなく、まぁ罪も無いのだけれど、それでも僕等の森に君の居場所は無いし、僕はソレを作ろうとは思わない。君には……申し訳無いのだけれどね」


 僕には、守りたい者達が居るんだ。

 そして君はそこに含まれていない。


「ごめんよ」

 右手を動かし魔力を飛ばす。

 ヒュドラの首の一つが不可視の魔力にぶち当たり大きく爆ぜた。

「……再生能力はまぁまぁか」

【グルゥウウウウ】

 爆ぜた首が根元から再生した。

 うん。まぁまぁしぶといかな。でも生えた首は脆そうで動きも緩慢。死なないという程度の再生か。

【キュオオッ!】

「うん?」

 二つの首が青黒い息吹を吐き出し僕に当てる。

 なるほど。これはそこそこに強い毒がある。だが――

【キュッ!】

「君の毒は周囲には危険なのでね。予め保護しておいたよ」

 草葉の一枚すら枯れる事のない状況に驚いた様子だ。

 もっとも、それも一瞬。どうやらハンターとしては申し分無い。

 毒が効かないと知るや即座に首が伸び、その牙が僕に襲い掛かる。

「良い判断だ」

 瞬時に移動してやり過ごすが、すぐに背面から牙が迫る。

 何度かわしても僕を追う牙は流石に面倒か。

 左側面から迫る顔目掛けて拳を握り鼻っ柱をぶん殴る。

「逃げなければならない、と思われているのなら心外だよ?」

【ギュオオオオオオオオオ!!】

 なんだ?

【ゴォガアア!】

「へぇ」

 毒だけかと思ったら多数の(あぎと)から魔力の砲波が飛び出してくる。

 もちろん当たったところで問題は無いのだけれど、なかなかに多種多芸でびっくりだ。

 ギガスのリュクトスとタメを張れる巨躯に高速再生能力。それに猛毒に砲声ときたか。確かに四恐の一角に数えられるだけの事はある。

「ん?」

 何か僕の知覚に飛び込んでくる。

 なるほど、先の咆哮はこれも含むのか。



 森の中から十匹程の巨大な毒蛇が飛び出してきた。

 その大きさは十メートル程だろうか。

 偶にオーガが獲ってきてた、マンモスバジークとかいう大蛇。

 その鱗は可也硬く人間族ではおよそ手に負えず、稀に人里や道の知覚に巣穴を発見した場合にはオーガやアマゾネスが討伐していたが。

「なるほど、お前の眷属という訳か」

【シャアアア!】

 襲ってきた一匹をかわし、収納魔法から抜き出した剣で斬り付けてみたが、刃が止まった。

「うん? 少し硬いか?」

 次の一匹はそのまま力押して押し切ってみると何とか切断する。でもすぐ次が来る。

【ッシャ】

「流石に喰ってる暇はないなぁ」

 この蛇の肉は美味かった。

 これだけあれば皆に食べさせてあげれるのだが……ん? それじゃあヒュドラの肉はどうなんだろう? 美味いのかな……っと。

 もう一匹が真正面から飛び込んで来たので、これは魔力を線状に引き飛ばして断裁する。

【シャッ!】

「っとは!」

 雑魚に構っている間にヒュドラが首を伸ばしてくるから意外と忙しい。

 ……なんか。手間だな。

 左手を伸ばして炎を浮かべる。

「……」

 やがて炎は大きく揺らぎ、中から巨大な炎の大鷲が飛び出した。

 その体躯は二十メートル程かな。

 数は十五羽。


「……行け」

【ピィヤアアアーッ!】


 大蛇に群がる大鷲の群れ。

 それが十から二十メートル大のスケールなんだから、とんだ怪獣大決戦だね。

 まぁ蛇の敵には鷲で良いさ。

 そろそろ僕は――


「仕上げといこうか」

【シャァアアアアアアアアアア!!】


 僕が湖の()()()()()静かに見据えると、ヒュドラは突然全ての首が絡まり――


「へぇ?」

【ジャアアアアアアアアアッル!!】


 巨大な一つ首の巨大蛇となり、僕諸共に湖面と湖底を抉り喰らった。いやはや、本当に芸達者だこと。

 それを――上空より、眺める。


「……北の厄災よ……安らかに眠れ」



 右手の傍でパリパリと音を立て出した雷電が、すぐに金色の雷槍と化して右手の傍で顕現し――振り抜いた右腕に呼応して直下の巨大蛇へと迅雷疾走した。



【ッッッシャアアアアアアアアアアアアアアアアアァ――――】



 断末魔と共に、巨大な蛇はその姿を跡形も無く消し去られ、大量の蒸気の煙だけがその場を支配していた。

 湖面に降り立った頃には、頭上を炎の大鷲が誇らしげに旋回し凱旋の声を上げている。

「……」

 全ての終わりを確認し、僕は周囲に展開していた防御膜を一気に集約し、自分の両手の間に凝縮する。

 結構な毒素が凝縮されている。これだけあれば確かにこの地を毒の呪いで覆い尽くせもするだろう。傍迷惑(はためいわく)な話だ。

 取り合えず……危ないから飲んでおこう。とゴックンしとく。

 僕にはこの程度は毒にも薬にもならないしね。美味しくは無いけれど。


 気付けばラビエラとリーヴァスの二人が僕の傍に降り立った。



「お見事でした。ダーウェス様」

「カカ、流石の一言よ」

「ありがとう、二人共」


 取り合えず、また一つ、事が進んだという事か。


「さぁ、リュクトスに報せよう。これからは少し忙しくなるかもね」


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