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第50話 巨神との会談


 岩から下半身も浮かび上がり、完全な人の子供と同じ体躯のリュクトスが岩に腰掛ける。

 いや、それは良いんだが……これは、どうなんだろう?

「え、っと……」

「ん? ……あぁ!」

 ポン! と手を打ったリュクトスには、僕の戸惑いが伝わってくれたらいい。

 僕は一体、誰と話をすれば良いのかとね。

「この身体は地の精霊にお願いして依り代(よりしろ)を創って貰ったんだよ。君達と会話をするには僕は些か(いささか)不便な身体の造りをしているからね」

「発声器官が?」

「細かい発声はね。行き成り思念を飛ばすのは不躾だろう?」

「なるほど」

 随分と気を使って頂いた様だ。

 見れば腰掛けるに手頃な岩が周囲に配置されている。

 どうやら、此処が会談の場という事か。

 皆に促し、全員が岩に腰掛けた。


「さて、お互い一方的にでは有るんだろうけど、僕等は互いを知っている。詳細な自己紹介は省かせて貰っても構わないかい?」

「少し味気ないと思わないでもないけど、ゆっくり語るのはいつでも出来るからね。重要な案件から片付けて行こうというに異論はないさ」

「良かった」

 本当に、ほっとしている様子に和む。


「僕はダーウェスにお願いしたい事が有るんだよ」

「ん? 君が僕に?」

 行き成り願いから入るとは珍しいんだが。

「君がこの大森林を、ひいてはこの島を統一しようとしているのは知ってる。僕としては君が僕の望みを叶えてくれるのならば、君の下に付き君を支えるに異論は無い」

 っと! 驚くなぁ。

「神の一柱(ひとはしら)たる君が魔王と呼ばれる僕の下に付くと? それは何かの冗談かな?」

 だとすればデキが悪過ぎる。

 彼等タイタンはかつての大戦のおり、僕と敵対していた筈だ。

 もっとも、僕と直接戦った訳では無いのだけれどね。彼等は神の世界の門番だった筈。

 間違っても僕に与して良い道理は無いと思うのだけれど。

「僕はもう神ではないよ。この現身(うつしみ)の子供を、()()()()()()()()()()()()からね」

「人間を、取り込んだ? それでは神意を失ったのかい?」

「あぁ……あ! 無理矢理じゃないよ? この子が願ったんだ、神にね。そして数多ある神の中でたった一柱、僕だけがその願いを聞いた」

「そして君は天から地へと堕ちたのか」

「そうだよ。ダーウェス、君が……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ね」

「…………」

 そんな記憶も、有ったねぇ。


 空堕とす魔王は、神を喰らって力を付けた。

 生きたまま、嘆き悲しむ神を、噛み喰らった。


 酷い話だ。

 おぞましい話だ。

 だが、僕にとっては他人の記憶でありまるで映画のワンシーンの様でもあるのだ。

 そんな僕を見て――


「…………君は本当に空堕とす魔王なのかい?」

「…………君の目には違うと?」

「どうかな。僕は君を直接は知らないからね。でも……まぁいいか」

 若干の疑問は呑み込んだらしい。

「ま、そういう事だから僕がダーウェスの下に付くのに不都合はないんだ」

「その件は理解したよ。で?」


 僕は話を進めたいんだ。


「君は僕に何を望むんだい? リュクトス」


 僕の問いに、彼は笑みを消し真摯な視線をぶつけて来た。


「北の蛇を…………討って欲しい」


――と。




 聞けば、古来よりあの北の湖周辺はリュクトスが住んで居たらしい。

 彼を慕う巨人族と共に。

「西には既に彼女が居たからね。それに東は魔素が濃過ぎて巨人族(かれら)の身体にはあまり良くはなかった。今は、どうやら大分マシになっているみたいだけどね」

 大森林の北は巨大な湖に居る魚も食えるし、なにより獣、魔獣の発生率が高かった。

 食料に不自由はなかったのだが。

「北は住み心地が良かったのだけど……奴が来た」

「北の厄災」

 ヒュドラを思ってかリュクトスの顔に怒りが浮かぶ。

「何処から来たのかは知らないけどね。奴は突然湖に現れて……僕等を襲ったのさ」

「ふむ」

「撃退は出来なかったのですか?」

「カカカ。巨大なヒュドラと巨神の一戦。いやいや、心躍るではないか」

「あはは。それほど楽しみにされても困るけどね」

 ラビエラとリーヴァスの言葉に笑いながら、それでもリュクトスの表情は冴えなかった。

「僕一人なら……戦えたよ? 負けるとも思えないんだけどね」

「では……巨人族、かい?」

「あぁ」

 リュクトスが巨人族に移した視線は優しい。

「僕とヒュドラが戦えばその暴威は小さくは無いだろうね。そして最悪の事に、あのクソ蛇の体液は猛毒で、毒息も吐けば毒の牙も持っている。ヒュドラを倒したとしてもその地は……毒に呪われる」

「なるほどね。それを知っても尚、彼等は君に付いていくんだね」

「……説得はしたんだけどね」


 だから彼には戦うという選択肢が無かった。

 そしてこの南の地に来たのだろう。けれどこの地は獣も少なく、巨人族は生産には向かない。というより、生産される農作物ではあの巨体を維持できないだろう。

 魔の巣食うワグナスでなければとうの昔に生活は破綻していたのだろうね。


 視線を合わせたリュクトスは真剣だった。


「君ならば出来るんじゃないかい? アレを倒す事も……毒の呪いを残さない事も」

「……」


 なるほどね。

 僕に討伐を依頼してくる理由は分かった。

 確かに、まぁ出来る出来ないで言うのなら、出来るとは思うんだけどね。


「北の地が空いたなら僕等は北に移りたい。無論、君の要請があるなら僕はいつでも合力しよう」

「南の巨神の合力は確かにありがたいけどね」

「オマケと言ってはなんだけど、君が僕の望みを聞いてくれるならば、対価として僕はこの大森林を守ろう」

「リュクトス」

「危険な魔獣も邪悪な魔物も、僕が常時見守り排除するよ。ギガスのリュクトスの名に懸けて確約する」

「確かに、南の巨神、それに彼等巨人族にとっては広大な大森林と言っても管理の手を届かせるに不足はないでしょう」

「カカ。我が使い魔よりは、安心出来るかの」

 う~ん。

 確かに美味しい話を持って来るなぁ。

 子供の見てくれだから勘違いしてしまいそうになるけれど、流石堕ちたとは云え神の一柱。こちらの意図を掴んだ上で話をするんだものな。

「君の目指す道程にとって、そう悪い話でもないだろう。何しろこれから先、この大森林は……君の背後だ」

「まぁ……そうなんだけどねぇ」


 ヒュドラ、か。

 確に何処かでケリは付けなければならない相手だ。

 交渉も譲歩も通用しないただの魔獣であるのなら、殺すの殺されるのの段にはどのみち行くには行く訳か…… 


「良いだろう、リュクトス」

「じゃあダーウェス」


 僕等は見つめ合い、頷き合う。



「申し訳ないが北の厄災、その人騒がせなヒュドラには……この大森林より御退場願うとしようか」



 さぁ、蛇狩りだ。



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