第48話 オーグリスのミーナ
うちはオーガ族のミーナ。
あ、女のオーガだからオーグリスっていうすかね?
うち等オーガ族の中では一番小柄な戦士。まぁ人間の子供と同じ位しか背丈が無いんだけど、あ! でも腕力はうちの大将の次位にはあるっすよ!
うち等の大将のドルト兄とは腹違いの兄妹っす。
今日はドルト兄から頼まれてラクエルの里まで来たんすよ。
目的はもちろん、ダーウェスの総大将の屋敷さ!
今現在はダーウェス様がうち等の総大将って事になってるんすよね~。アマゾネスの姉さん達じゃなくて。
何故かって?
そりゃあダーウェス様が姉さん達を自分の配下に入れたからっすよ。
アマゾネスの今の族長であるデューの大将が族長の座に就くと宣言した日、うち等オーガやエルフ達も一緒に酒盛りしてたら、なんでかダーウェス様が乗り込んで来たっすよ。
「僕はワグナスを手中に収めようと思っているのでね。君達にもそれを認めて貰う事にするよ。君達の好きな……力ずくでね」
前族長のシェーラ姉さんと一緒にやって来たダーウェス様はそう言った。
何で突然? と聞いた者も居たけど「君達を手に入れればオーガやエルフも付いて来るのだから都合が良いじゃないか」と笑っていたよなぁ。
で、結局は姉さん達だってそんな話に従う訳無いんよ。だから酒盛りが一気に戦いの祭りになっちまったわけ。
「代表者を出せなんて詰まらない事は言わない。五十人なんてケチな事も言わない。可能な限りの人員で、出し得る限りの全力で、死に物狂いで抵抗するが良いよ。君達の最後の祭りの相手はそれでも尚届かない……僕なのだから」
「上等だ」
そして始まったアマゾネス族とダーウェス様の戦いは、あれは戦いなんてものじゃ無かったっすねぇ。
ダーウェス様は戦う前に宣言したっす。
「もちろん僕はハンデをあげるよ。右手しか使わないし魔法なんか使わない。そうだねぇ……僕に片膝でも付かせたら君達の勝ちでいい。うん、その時は僕を煮るなり焼くなり好きにするといいよ。君達は自分達で負けを認める迄いつまでも抵抗するといい」
そう言うダーウェス様は鎧も剣も持たないで、左手に筆を一本持って笑ってた。
もちろん姉さん達は怒り狂って襲い掛かったんだけど……あれはビックリだ。
てか見てたうち等も呆然としてたっす。
何も変わった事はしなかった。
ダーウェス様は黙って近付いて、その右拳で殴って気絶させる。その繰り返し。
延々と繰り返す。
淡々と繰り返す。
驚くほどに淡々と。
ダーウェス様は薄く魔晄を纏ってたすけど、それが凄い!
あのアマゾネスの攻撃を一切避けずに斬られても突かれても、まったく傷が付かない。
貫けない。
裂けない。
通らない。
あんな出鱈目な防御膜はうちは見た事が無い。てか想像も出来ない。
どんだけ魔力を込めればあの強度に到達出来るんすか。
ドルト兄に聞いたけど「我の魔晄よりも遥かに硬い」と慄いてた。いや、兄の魔晄よりってどんだけっすか。
で、拳っすよ。
速い。
とにかく速い。
もういつ繰り出しかなんて分からないけど、振り抜いた後の姿勢で「あ、今殴ったんだ」と分かるだけ。
で、重い。
もうとにかく重い。
盾だろうが鎧だろうがガードだろうがお構いなしに、上からぶん殴るだけ。
それだけで粉砕するし貫通するし、まぁ意識なんて確実に一撃で持っていかれた。
不倒で必倒。それがダーウェス様。
もちろん、姉さん達もそんなに物分かりは良くないっすからね。
気絶してもものの一分で意識が戻って、また立ち向かうんすけど、その時の顔が面白い。
気絶して復活したアマゾネスの顔には、いつの間にかバツ印が付いてるんすよ。
もちろん、ダーウェス様が左に持ってる筆、あれはそのためだった。
一層頭に来た姉さん達も怒涛の勢いで襲い掛かるんだけど、バツ印がどんどん増えていく。
流石に自分の顔に五個も六個もバツ印が掛かれた姉さん達は次々に戦う事を止めて白旗を上げていくしかない。
というか、もう笑ってしまう程の力の差っすよ。
最後まで立っていたのはデューの大将だったけど、その時には顔中に十三個のバツ印が付いてたっす。
意識を取り戻した大将は、最後は笑ってた。
「……オーケー分かったよ。ダーウェスの勝ちさ。あたい等を煮るなり焼くなり好きにするが良いさ」
「はは。別に煮も焼きもしないよ。それに、君達を退屈にもさせないさ」
「祭りも終わったのにかい?」
戦う為の戦いが好きな姉さん達からしたら、目的を持った人の下に付くのは業腹でしょうねぇ。
「僕の目指す先は所詮は戦いの道だよ。君達にも一緒に歩んでもらおうと思ってる。強制はしない。戦いたく無い者は護ってあげよう。でも共に剣を取るという者は、それなりの覚悟を決めて貰うよ」
「あ……く、あっはははは! なんだよそりゃ」
望むところだ。
そう笑ったデューの大将は、ダーウェス様の差し出した手を握った。
そしてアマゾネスとエルフ、そしてうち等オーガはダーウェス様の下に一つになる事になったっすよ。
最初はどうなる事かと思ったけど、実際にはまあ楽しくやれているから、うちとしてもビックリっすよね。
ダーウェス様の館はラクエルの里の奥に在る。
「あら? おはよう、ミーナちゃん」
「ちわ~っす」
メイドさんに挨拶して中に入れて貰う。
この屋敷には二十四人のメイドさんが居る。
皆、ゴブリンや魔物に襲われて天涯孤独になったり行き場の亡くなった人達みたいで、ダーウェス様が面倒を見ているっす。
で、彼女達はこの屋敷で仕事をしているって訳。
仕事っていうのはこの屋敷でメイドとして働いたり、あとは子供達の世話っすね。
入った屋敷の中で子供等の声が聞こえて来たから見てみれば、皆が中庭で遊んでいた。
ざっと見ても二十人くらいの子供等が居た。
子供等も女達と同じだ。
身寄りも行き場も無くなった子供達をダーウェス様が面倒を見ている。
その世話をしているのもメイドさん達だけど、他にも身寄りの亡くなった年寄り連中も一緒に暮らしているし子供等の面倒を見ていたりするっす。
まぁ、こんな場所が出来てるってだけでも、今までとは随分と変わったっすよねぇ。
「ねぇ次これ読んで~」
「はい。それでは皆さん、もう少し集まって座りましょうか」
「「「は~い」」」
子供等に囲まれて本を読んでるラビエラ様を見つけた。
いや~、いつ見ても綺麗な人っすねぇ。ほんと、あの美貌でシェーラさんをボコボコにするとかどんな化け物っすか。
ドルト兄なんかは一度手合わせしたいなんて言ってたけど、うちは御免っすね。
だって今だって隙らしい隙なんて無いんすもん。なんすかあの抜き身の剣みたいな人は!
おっ! ダーウェス様だ。
ダーウェス様はベランダで揺り椅子に揺られながら眠っているみたい。
最近はずっと寝ている様子だ。
で、うちの用事は、まぁこの二人には無いから別に良いんすけどね、っと! 居た居た。
「こんちわ~、リーヴァス様」
「ん? カカ、今日は騒がしいのう。人の次は小さきオーグリスかよ。しばし待て」
ダーウェス様の勢力を仕切っているのは東の隠者だ。
「ではヒルキの連中の護衛は七番隊でよろしいですね」
「良いさ。シェーラには我より話を通す。なに、ガランの小僧でも与えておけば憂さも晴れようさ」
「だ、団長大丈夫でしょうか?」
「ん? ガランの心配なんかするだけ無駄だ。気にするな」
「気にしますよっ!」
「カカカ」
うん? 人間の戦士団のラッツさんとラルトス君っすよね?
なにやらまた隠者に相談をしてるっすか。あんまり困らせてばかりもイケないっすよぉ。
ま、かく言ううちも相談持ち込んで来たんすけどね。
「して? オーグリスよ、其方の要件はなにか」
「あ、はい! 実は今度の遠征の事なんすけど」
「遠征っていうと、殲滅班の? 確か北東の村近辺に出たバジリスク討伐ですよね」
「そ! それそれ」
うち等オーガとアマゾネスの混成で編成されてるのが殲滅班っす。
大体一班二十人くらいでそれが十班。
こう見えてもうちだって第三班の副班長張ってるんすよ。
で、うち等の仕事ってのは魔獣の討伐。それも、とびきり手強い魔獣や魔物の討伐す。
具体的に言うと、大森林の主だった箇所を巡回・監視している東の隠者の使い魔が殺された場合に出番さ。
てか、あのケターロスとかいう狼の化け物を殺せるってだけで並みの相手じゃないすからね。人間の戦士団には荷が重いし、放っておいたら集落も大変だってんで、そういう場合はうち等殲滅班が出張って始末するって話。
でも今回はねぇ。
「今度の相手はバジリスクじゃないすか。あれって結構面倒なんすよね」
「流石に殲滅班の方達でもキツイですか」
「バジリスクってあれですよね? 猛毒とか石化を仕掛けてくる魔物の」
「そうっすよ。北東で一匹の気配が消えたってんでエルフの風の矢筒が調べに行って見付けたのが三日前。で、うち等三班と五班が討伐に行くことになったんすけどね」
エルフの人等は自分達を一本の矢と言って、部隊を矢筒って云うんすよね。
で、風の矢筒は風の精霊の扱いに長けた偵察、伝令に特化した部隊なんす。
「二班だけで行くんですか? もっと数を」
「いやぁ、他に五つが昨日から南西の滝に巣食ったカースドラゴン狩りに行ってるんすよね。あっちも結構無茶やってんすけど、デューの大将もそっち行っちまってるし、うち等の大将も行ってる。全部出払う訳にもいかないから出張れる班は精々二つ。やっぱこの森物騒っすよねぇ」
「して用向きは?」
おっと、骸骨さんがちょっと怖いす。
「それが今度の遠征の指揮がうちトコの隊長のシャルさんなんすけど、それが少し、いや可也の呑気さんでですね? 毒はうち等が魔晄を纏えばなんとかなるから良いんすけど、石化の波光はどうにもならないじゃないすか。だから光の精霊使いの補充を提案してんすけど、大丈夫じゃな~い? って感じで聞いてくんないんすよ」
「ふむ。お主等の班にも居るだろうが」
「居るには居るんすけど、うち等オーガやアマゾネスの姉さん等ってあんまり精霊に好かれないんすよね。だから恩恵も少なくて……出来れば他所から二人、それが無理なら熟練を一人でも融通して貰えないかな~っと」
「光の矢筒はどうした」
「それがデューの大将が根こそぎ連れて行ってしまったらしくて」
「カカ。好き勝手しよるわ……さて………………ふむ」
少し考えるそぶりをした隠者がふと見上げる先をうちも見たんだけど…………あ。
ラッツさんも視線の先を見て「おぉっ!」と手をポンと叩いていたす。
「え? え? え?」
いやぁ~、居る所には居るもんすねぇ……間の悪い人って。
「ラッツ、良いな」
「まぁ仕方がないですね」
「いや~、じゃあよろしくっす!」
「え…………あの…………」
ラルトス君の手を握ったうちと目が合った彼は「…………嘘」と呟いたっすけど、まぁ諦めて――
「いやだあああああああ」
「まぁまぁ、楽しく狩りましょうってっ」
うん。これで目処が立ったっすね!
「それじゃ失礼するっす!」
泣き叫ぶラルトス君を引き摺ってダーウェス様の館を出たうちは、殲滅班の詰め所に向かって歩いていく、んすけど…………
「自分で歩いてくんないすか? ラルトス君」
「バジリスク……バジリスク……僕がバジリスク……」
「あぁ、まぁ無理ないすか」
そんなに怖いすかねぇ。結構楽しい狩りになると思うんすけどねぇ……人間って分かんないす。




