第42話 ラビエラVSシェーラ
「ふっ!」
「!」
互いに踏み出し中央で得物を合わせた。
夜の湖畔に私とシェーラの得物がぶつかり合う金属音が響く。
「やるねぇ。あたしの剣を受けるかい」
「褒めて頂く程の剣激でもないでしょう」
上段から振り下ろされた剣を錫杖で受けたが、これは小手調べでしょう。
合わせた剣を力任せに振り回して私の身体は元居た位置よりも遠くに飛ばされた。
まぁ、剛力ではあるのでしょうけど。
別に問題視する事も無く着地すると――
「我が敵をその見えざる刃で切り裂け――ザリューダ」
彼女の詠唱が聞こえたかと思えば、風の刃が迫って来る。
瞬時に魔法障壁を展開すれば風の刃は私には届かずに消滅した。
私の障壁を破れる程の威力は無いが、剣士の彼女が振るったにしては威力は申し分ありませんか。
「先程も思いましたが戦いに用いるには些か拙い魔法ではありませんか?」
「はん! あんた等以外には十分通用するのさ」
まぁ、そう言われればそうかも知れませんね。
「しかしあんたも大概出鱈目だねぇ。あたしの剣を眉一つ動かさずに受け止めるなんてね。魔法使いとは思えないよ?」
「キリハの巫女は戦巫女。私に得手不得手は御座いませんので」
「そいつは凄い」
再び剣を構えたシェーラは笑みを浮かべている。
キリハ族はダーウェス様に仕える一族である。
神も魔も人も獣も、この世の全てと戦う魔王に仕える我が一族の巫女に必要なのは純潔性でも神聖性でもない。
ただ力のみなのです。
その時の一族で最も力の有る者が、巫女や巫覡になるだけの話。
そして今代において、私は里の誰よりも強い者。
魔法であれ、剣であれ、だ。
もっとも、今の私にはダーウェス様より頂いた左目が有ります。
里での私とは強さの桁が違う。少しばかり反則かとも思わないでも無いですが、彼女にも東の隠者の作った賢者の石が有るのだからお互い様でしょうか。
さて、彼女の剣にはまだ奥が有りそうですが、こちらはどうでしょうか?
「我に立ち塞がるもの悉くを切り裂け――ヴァイパー」
「ちっ!」
私の生み出した風の刃が彼女を襲う。
如何です? 貴方のそよ風とは訳が違うでしょう?
さて、彼女はどうするのか。
「ふんっ!」
剣に魔晄を込め、彼女は私の魔法を袈裟斬りに切り裂いた。
「なかなか」
「へっ!」
相当な量の魔力を込めた様ね。それほど手加減はしていないのだけれど、私の魔法が文字通り切り裂かれたか。
「熱くなってきた、ぜっ!」
今度の踏み込みは一度目よりも速い。
一気に肉薄してきた彼女が薙ぎ払うのは右薙ぎだ。
錫杖で受けたかと思えば彼女の姿が掻き消える程のステップで背後に回り込み上段から振り下ろしてきた。
「んだい? そいつぁ」
「剣士を名乗った積りもないのですけれど?」
「ちぃ!」
数度、振るわれた彼女の剣を私の錫杖が受け止める。
自動的に。
「魔道具かい?」
「まさか。なんの変哲もない錫杖ですよ。ただ、私の魔力を込めているだけです」
「はん!」
更に剣激のスピードを増す彼女の剣ではあるが、宙に浮き私を護る錫杖をぬけないでいた。
私は錫杖に魔力を通し、意思一つで操作している。
込められた魔力以上の剛力であれば簡単に貫けるのであろうけれど、彼女の力では些か難しいだろう。
剣と錫杖が縦横にぶつかる中で静かに手をかざす。
「地よ猛れ。我が眼前に敵は在る――レンバスタ」
地面より土で出来た数多の槍が突き出された。
「ちっ!」
一足飛びに距離を取ったシェーラはまた構える。
しずかに手を振り槍を消す。
「やり難いったらないねぇ」
「その割には楽しそうですが?」
「当たり前、さっ!」
「む!?」
その場で振ったシェーラの剣から魔晄の刃が放たれた。
剣激を飛ばすとはなかなか面白い。それだけの魔力が込められているという事だろうけど……
私は錫杖を手に戻し、魔力を込めると錫杖が魔晄を帯びる。
別に魔晄が剣士の専売特許という訳でもない。魔力の扱いに長ければ可能な技だ。無論、魔法使いの私には造作も無い。
錫杖を振るい魔晄の刃波を打ち砕く。
が――
「ん?」
シェーラの姿が、消えた?
ふむ……視界から姿を消す方法は幾通りも存在するし、それはさほど難しい事でもない。私にも可能だ。
エルフの戦士も決闘に際して姿を消していたし、現在エルフを保護しているのが彼女達アマゾネスであるのならば、その方法を手に入れていても不思議ではないが。
さて、しかしこれは……エルフのモノとも違う様だ。
姿は無い、気配も無い。だが肝心の魔力を感じるのだけれど――q
私の周囲全てから彼女の魔力を感じる。
……なるほど。
彼女は文字通り目にも止まらぬ速さで移動している訳か。
さて、どこから攻撃してくる積りか……
――炎よ踊れ我が怒りのままに――
何処からともなく彼女の声が響くのだけれど、すこし意外だ。
魔法詠唱? それは些か期待外れね。
――ファイナー!
呪文と共に、私の周囲から炎弾が出現した。
ふふ、全部で5発。それも前後左右に、頭上から、ですか。
移動しながらこれだけの威力の炎弾を5つ同時に放つ技量は感嘆に足るのだけれど、私には物足りない。
刹那に魔力防御障壁を球状展開する。
防御障壁は術者の技量次第で形も大きさも変える事が出来る。まぁこの速さで球状展開出来る使い手はそうそう居ないだろうとは思うのだけれ、ど?
炎弾が防御で相殺された刹那に干渉する物がある。
ダーウェス様との戦いでも剣で防壁をぬいて攻撃していた様だけれど、5つ同時に? 何かの魔法か幻術か……いやっ!
錫杖に魔力を注ぎ込み振るい迎撃する。
この5つの攻撃は実在する物理攻撃。
彼女は何かを放っている!
錫杖を振り回し、5つ全ての攻撃を迎撃した。
私の防壁内の軌跡は完全に伝わる。侵入口から軌跡、その予測も容易ではあるが、違和感は拭えない……これは……
弾かれた何かが動いて行くのが分かる。
その先にはシェーラの姿が在った。
悠然と佇む彼女は右手に持った長剣を無造作に肩に担ぎ、その左手を僅かに開いていた。
彼女の綺麗な左手の指全てに指輪が煌めいている。
「鋼線……いや、鋼糸、ですか」
「初見で見破られたのは初めてさ。とことんやり難いねぇ、あんた」
細く鋭利な糸。
確かに戦技として使う者もいるのだが、あれほどの動きの中で5本同時に操るには相当の魔力と、なにより精神力を要する。
それを可能にしているのだから彼女は……もはや恐るべし、と認識するべきでしょうね。
「申し訳ございませんでした、シェーラ様」
「あん?」
一度、錫杖を構え直す。
「貴女を侮っていた非礼をお詫びいたします」
「んん? 別に侮ってくれたって構わないさ。その方が都合が良い」
彼女も剣を構えた。
私が身に纏う魔力を上げると彼女も嬉しそうに笑みを見せる。
ふふ、本当に戦う事がお好きなのですね。
「で? こっから先はどうするんだい? お嬢さん」
もちろん、決まっているでしょう。
「我が非礼は戦意で埋め合わせましょう」




