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第37話 四恐の動き


 エルフの里へ向かう馬車の中、僕は目の前に座るリーヴァスの言葉に目を張る。

「ドラゴンだって?」

「うむ」

 北のヒュドラの状況を見に行ったリーヴァスが見て来たのは戦いの光景だった。

 巨大な湖の中央で多頭の巨蛇が翼持つドラゴンと争っていたというのだ。

 僕が聞いているドラゴンといえば――

「西の覇者が動いたというのかい?」

 その巨龍はキーサス山脈より出た事は無いと聞いていたのだけれど、何らかの事象が動いたという事なのだろうか。

 だが静かに首を振るリーヴァスは、僕に見たモノを教えてくれた。

「カカカ。アレは白の息吹と呼ばれるホワイトドラゴンよ。我が目にしたのは赤き龍。レッドドラゴンだったよ」

「レッドドラゴン……」

「うむ」

 それはドラゴンの中でも獰猛で知られる猛き龍だ。

 そのブレスは岩をも溶かし、その鱗は如何なる剣も槍も通さない。

 天空より飛来する抗えぬ災禍。

 だがこの大森林で今までレッドドラゴンの話など聞いた事はない。

「リーヴァス殿は存在を?」

「カカ。遠目で見た事が有るだけだがの。山の向こうがあやつの領域よ。こちらに飛来する事などついぞ無かったのだが」

「それは何故で御座いましょうか?」

 ラビエラの疑問は僕の疑問でもある。

 何故こちらには来なかったのか。レッドドラゴンが四恐を恐れるとも思えないのだけれど。

「詳しくは存ぜぬがの。どうやらあやつがこちら側に手を出さなんだは西の龍が止めておった故の様だの」

「キーサス山脈のホワイトドラゴンが?」

「アレとは幾度か接触した事があるのでな。その時に少し聞いただけよ。だがそれがこちら側に来たという事は」

「レッドドラゴンに何かが有ったのか、あるいは西の覇者に何かが」

「カカカ。何やら楽しそうな事になって来おったのう」

「楽しまれては困るのですけれどね、リーヴァス殿」

「カカカ」

 本当に楽しそうに肩を震わせている。

 まったく、困った骨だなぁ。

「それでリーヴァス様。ヒュドラとドラゴンの戦いはどうなったのでしょうか」

「カカ。まぁ勝敗は付かず終いよ。ヒュドラは空を飛べぬ故にドラゴンを殺し切れず、さりとてレッドドラゴンのブレスではヒュドラを焼き尽くすに足りんわ。アレの再生能力は厄介だからのぉ」

 結局は互いに相手を攻撃するだけ攻撃して、最後にはドラゴンが飛び去り帰ったという事らしい。

 いくらレッドドラゴンといえども四恐の真ん中まで単騎で侵攻する気にはなれない様だ。

 一度に四恐を纏めて相手取るのは僕も遠慮したい位だしね。

 ドラゴンの知力は高いというから、まずは一角を落とそうと挨拶代わりにちょっかいを掛けてきたというところだろう。

 それにしても――


「もう少し待ってほしかったなぁ」


 こちらはまだ準備が整っていないのだが。

 これが続かなければ良いのだけれど。



◇ ◇ ◇



「お待ちしておりました。ダーウェス様」

「お邪魔するよ、サリウ」

 エルフの里に着いた僕等はさっそくサリウの家にやってきた。

 彼女達に頼んでいた南の巨人族の調査について報告がある様だ。

「さっそくで悪いのだけれど聞かせて貰えるかい? サリウ」

「畏まりました」

 サリウは簡単な地図を広げある場所を指差す。

 そこには少し大きめの湖がある。

「現在、タイタンはこの湖の湖畔に居を構えている様です」

「居って、家でも建てているのかい?」

 流石にどんな巨大な家だよ! とつっこみたくなる話だが。

「いいえ、元々巨神には家という概念が無いのです。それは太古の巨神タイタンであろうとも同様で御座います。ただそこに寝、起き、食し、寝る。それを延々と繰り返すのです」

「それはタイタンを崇める巨人族も同様だと?」

 少しだけ首を振るサリウ。

「家を持たないという事では同じですが、巨人族は家族を持ち集落を形成します。ただタイタンを神の使いと崇め称えているだけで、それを除けば私達エルフや人間族と価値観に大差はありません」

「なるほどな」

 前にタイタンが行けば連中も行くと言ったシェーラの言葉に納得がいった。

 屋敷を持たない文化であれば、集落の移動など造作も無いだろう。

「接触はしてみたのかな?」

「はい。居場所と全体数を把握する程度で良いとは言い含めていたのですが、向かった者の一人が接触を受けまして。その事でダーウェス様のご判断を仰ぎたいと思い精霊を使わせました」

「なるほど。巨人族の方からとは有り難いね。出来れば友好的な一時接触を図りたいものだけれど」

「いえ、それがダーウェス様。実は接触して来たのは巨人族ではなく……」

「ん? でも君達は南に調査に行ったと」

「はい。我々は南の地に向かいました」

「んん? では誰から接触を受けたというんだい?」

「それが」

 まさかグレイス帝国って事はないよなぁ。

 聞く限りにおいて、とても良好な接触が図れるとは思えないんだけど。


「私達に接触してきたのは太古の巨神、タイタンに御座います。かの南の巨神はダーウェス様との会談を望んでいると伝えて欲しいと……」

「……はい?」


 どうやらタイタンはこの大森林の中の変化に気が付いているらしい。

 そしてその中心にいる僕の存在にも気が付いている。

 リーヴァスもタイタンとの接触は経験が無いらしく、それほどの知性がある事に驚いて居た様だった。

 ドラゴンとヒュドラに続きタイタンまで動き出す。

 事態は僕の関知していない所で動き出したのかも知れない。

 もっとも、動きの先には僕が居るのだから困った話ではあるのだけれどね。

 さてさて――



「どうしたものかなぁ」



 僕も少し、楽しくなってきたよ。


 

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