第32話 エストリアVSドルト
「しっ!」
「ッ!」
刹那に間合いを詰めたのはエストリア。
目にも止まらぬと形容するに相応しい速度で詰め袈裟に斬り付けるが、キィン! と金属音が辺りに響く。
「ちっ!」
「フン!」
あの速度で詰め振るわれたレイピアにドルトはしっかり反応し、自分の大剣で受けきった。
そのまま合わせたレイピアごとエストリアを吹き飛ばす。
およそ最初に向かい合った位置まで飛ばされたエストリアも難なく着地し再びレイピアを構える。
少し距離を取った僕等は彼等の戦いを注視していたが――
「あの攻撃に反応するとはねぇ。しかし、あの大剣を小枝の様によく振るう」
「はん。まぁ馬鹿力は連中の数少ない特技だからねぇ」
「エストリアのレイピアは風の精霊の加護を受けています。オーガとてまともに斬られては堪らないでしょう」
なるほど、肉体の頑強さに任せて防御を捨てる訳にはいかないのか。
態々受けたという事はドルトもそのあたりは承知の上か、もしくは本能で危険を察したか?
どちらにしても、次は「動くよ」っと! 聞こえたシェーラの声と同時に二人が地を蹴った。
「オオッ!」
エストリアも速いがドルトも劣らずに速い。
速度でもエルフの戦士とタメ張るとは、流石に族長。ドルトの身体能力は凄まじいな。
振り下ろされたドルトの大剣を、エストリアは急制動を掛ける事でかわすと、ドルトの首を目掛けてレイピアを突き上げるが、ドルトは僅かに首を傾けてかわした。
「っ!」
「ヌア!」
振り下ろした大剣を力任せに振り上げるが、エストリアはその腕に足を掛け、そのままドルトの腕力も利用して飛び上がり距離を取る。
「ふっ!」
いつの間にかレイピアを逆手に持った左手に弓を持ったエストリアは、空中で矢を番えてドルトに放った。
「チィッ!」
カンッ! と一矢を大剣で掃うが、着地と同時にエストリアも二の矢三の矢を放つ。
ドルトがたて続けに放たれる矢を全て弾くと、側面にエストリアが肉薄している。
「せっ!」
横薙ぎに振り抜くレイピアに速度に対してドルトは矢を弾いたままで大剣で受けるには間に合わない。
が、ドルトは刹那――
「シッ」
「っ!」
そのまま地面に倒れるように身を反らしたかと思えば、ドルトは足でエストリアの腕を蹴り上げる。
それでレイピアを止める事も腕を砕く事も出来ない程度の威力だろうが、剣筋を反らす事は出来るだけの力と速度だ。
結果としてエストリアのレイピアは空を斬り、バク転して立ったドルトは一足で間合いを詰めエストリアに斬りかかる。
ドルトの大剣は空を斬り、再びエストリアは距離を取るが、追撃したドルトの足は数歩で止まる。
瞬間、天空より七本の矢が地面に舞い降り突き刺さった。
そしてまた――
「はぁっ!」
「オオッ!」
――二人は激突する。
僕等の前では激しい戦いが繰り広げられた。
どちらも必殺の剣戟を持っているだけに、刃と刃がぶつかり合う金属音が鳴り響いている。
何度もエステリアが宙を舞い距離を取る為、その範囲は広い。
僕の見た事のある剣同士の一騎打ちなんて、ガランとグルダの一騎打ちしかないのだが、この戦いはそれ以上の速度と力を以って為されている。
だが一番驚いたのは
「それにしても良く動くな」
「相手のオーガ、で御座いますね」
「あぁ」
2メートルをゆうに超える身長のドルトがエストリアに負けず劣らずの動きを見せるとは、正直に言って予想外だった。
だが――
「でもまぁ、そろそろジリ貧だわなぁ」
「シェーラ?」
「どういう事ですか?」
スタミナを心配するにはまだ早いとは思うのだが。
「見てりゃわかるさ。そろそろだろうからね」
「ん?」
シェーラの言葉を聞いてすぐ、何となく理解が出来た。
エストリアの矢を大剣で叩き落とした瞬間、左側面に肉薄したエストリアの前にドルトの大剣が振るわれた。
ギィン! とレイピアに両手を添えて耐えきったエストリアだったが、弾き飛ばされた先にドルトが肉薄。
右手で振り下ろされた大剣を右側面に回って回避したエストリアがレイピアを構えた刹那には、大剣を左手一本で持ち巻き込む様に回転して薙ぐドルトの大剣が襲う。
距離を取って三本纏めて射られた矢を無造作に右手一本で掴み取るとそのまま投げ返した。
エストリアが矢をかわすと、今度はドルトが肉薄している。
右手一本で大きく大剣を振り上げてるドルトに対し、エストリアは後方に避けながらレイピアで受けに回るが――
「っぐはっ!」
ドルトの左拳がエストリアの腹を捉え、後方遠くに吹き飛び転がる。
「ぐ、ぅう」
「フン」
悠然と佇むドルトに、うめきながらゆっくりを身を起こすエストリア。
一撃で、随分と体力を持っていかれた様だ。
「……貴、様」
「ツマラン。オ前ノ動キニハモウ慣レタ」
それでもレイピアを構えるエストリアに、闘志の衰えは見えない。
「シェーラが言っているのはこれかい?」
「あぁ」
シェーラは腕を組み笑みを浮かべる。
「あいつはこと戦闘に関しちゃある意味天才さ。戦ってるうちにどんどん成長するし手強くなってく。だからあいつをヤルなら速攻仕留めなきゃ駄目だ。エストリアは時間を掛け過ぎさ」
「それほど時間も掛けてないだろう。ここはエストリアが遅いのではなくてドルトが早いのだと思うけれどね」
「はっ! 間に合わなけりゃ一緒さ」
「まぁ、言ってる事は分かったけれど。さて、これは決まったかな?」
う~ん。思ったよりもエストリアは及ばなかったかな。
さて、これには僕も命を賭けてしまったんだけど、どうするか……
「心配ないさダーウェス」
「デュー?」
その長い髪を掻き上げたデューの瞳に迷いはない。
「エストリアはこれからさ」
「ほう? デュー、根拠は」
「姉御、あたいを信じなって。すぐ分かるさ」
「そいつぁ楽しみだねぇ」
本当に楽しそうに二人を見るシェーラは実にいい顔をしている。
自分に予想が出来ない戦いが楽しくて仕方がないというところか。
僕も視線を戦う二人に向けると、ドルトがゆっくりと間合いを詰めていたところだ。
「負ケヲ認メレバ命ハ取ランガ」
「……それは……私の台詞だ」
言うや静かにレイピアを下げる。
まるで無防備に立つエストリアを不審に思うが、不意に一足飛びに距離を取ったエストリアは地に膝を付き両手を地面に付く。
「精霊よ! 我が願い聞き届けよ! アルテサグリアッ!」
瞬間、丘一体が淡い光を放ったかと思えば――
「ッ! コレハッ!!」
丘全体から一斉に木が生えだした。
一瞬で芽が出て、そのまま伸び生い茂る。
一帯が一瞬で森と化す。
サリウが静かに――
「精霊に願い木の成長を促したのでしょう。あまり褒められた事ではありませんが」
「そうなのかい? サリウ」
静かに頷くと視線を送ってくる。
「本来、自然はゆっくり育むものです。それを無理矢理ですからね。もちろん、致し方のない事だとは理解していますが」
「デュー?」
シェーラの言葉に笑みを浮かべる彼女。
「戦いながら巻いてたのさ。種を、ね」
「……はっ。まさか、森の中でエルフと戦う事になるとはねぇ。さぁて、面白くなってきたじゃないか? なぁ? ドルト」
どうやら、第2ラウンドはエルフの庭で行われる様だ。
ゆっくりと立ち上がったエストリアは、静かにレイピアを構えている。
ドルトの突撃を以って、次なる幕が上った。
「さて、エルフの戦いぶり見せて貰うよ……エストリア」




