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第29話 大森林の動向


「おっ! ダーウェスぅ、とうとうあたいと遊ぶ気になったかい!」

「はは。遠慮しておくよデュー」

「ちぇっ! また振られたか」

「はは」

 現在、ラクエルの里とアマゾネスの里の間には貿易が行われている。

 アマゾネス側からは狩った獲物やエルフが収穫した森の恵みだ。そして里から提供されるのは――

「今日も良い魚が入っているじゃないか」

「その言葉は僕じゃなく獲って来た皆に言ってあげて欲しいな」

「言ってるさ。連中も喜んでるしよ」

 視線の先では品定めをしているエルフの姿も見えた。

 てっきりエルフはベジタリアンかと思っていたのだけれど、そうでもないと知った時には割と驚いた。

 思い込みって怖い。

 しかしアマゾネスとエルフがこの貿易に乗ったのには理由がある。

 

 魔島ラクエルでは魚が獲れなかった。


 何故ならばワグナスを囲む海には凶暴巨大な海獣が多数存在しているのである。

 大陸と隔絶しているのはソレが理由だ。

 例え軍船を持ち出し航行したとて、ワグナスに到着する事は叶わない。

 故に、魚を獲るという習慣がこの島には無かった。

 さらに、この大森林において唯一海に接し人間が向かえるのは、この東の海岸しか存在しない。

 北と南には四恐が存在しているが故に。


 これらは全てラビエラの功績だ。


 彼女は入り江からおよそ30キロ離れた海域まで出向き、東海岸一帯に結界を張った。

 その深さは海底よりも深く浸透し、その上空にまで効果は及んでいる。

 結界に提供する魔力はラビエラの左目を通して僕と繋がっているから、およそ考えられる海獣程度では破る事は出来ないし、もし破られればすぐに僕が感知出来た。

 無論、魔に属さない普通の海洋生物は素通り出来るため、魚達にとっても海の魔物から逃げる事の出来る海域であるので、漁場としては最高の生息量だろう。


「なぁダーウェス」

「ん? なんだい?」

 相変わらず彼女達アマゾネスは気軽に話しかけてくれる。僕としては嬉しい限りだ。

「近々あたい等んとこに遊びに来ないかい。姉御がたまには顔位だせって言ってるしよ」

「そうだね。こちらがそろそろガリル殿に任せる事も出来そうだし、近いうちに伺うと伝えておいてくれるかな」

「わかった、言っとくよ」

「頼むね」


 そろそろアマゾネスやエルフとの関係をもう一つ進めようかと思っていた処だ。

 この大森林の人間達の生活が安定してきたのならば、次はもう少し手を広げようと思う。

「さて、どうするか……ん?」

 見れば一羽の双頭のカラスが飛来する。

 傍の家の軒にとまれば――

「ダーウェス殿」

「どうしました? リーヴァス殿」

 声に緊張が走る。

 彼が使い魔を寄越すという事は何かしらの動きがあるという事だ。

 問題は、どこだ? なのだけれど


「どうやら連中が動く模様ですの。そこなアマゾネスもエルフを連れて戻るが良いさ」

「あたい?」

「カカ、他に居るかよ」

「あん!?」

 どうにもリーヴァスとアマゾネスは馬が合わないらしい。

 まぁ昔戦っていれば仕方のない話だけど。

 だがこのまま見ているのは少しばかり具合が悪いか。

「デュー、皆と共に戻った方が良い」

「なんでさ」

「どうやら君達の里にお客さんが到来するみたいだよ?」

「客?」

 彼女には真意は分からない、が、それでもその表情には真剣さが見て取れた。

 なにしろ、あまり好ましい客では無いのだから。



「そろそろ動く頃だと思ってリーヴァス殿に見ていて貰ってたんだけどね。君達の里に向かっているのは、オーガだよ」



 すぐに出発した彼女達の後を追う形で、僕とラビエラ、リーヴァスは馬車に乗って走り出していた。

「些か時間が掛かりましたね。もう少し早くに動きが有るものかと思っておりました」

「カカカ、エルフを奪われゴブリンを滅ぼされ、連中には打つ手も無かろうて。玉砕を決める迄の時間と云う事よ」

「オーガにも意地はありましょう。爪痕を残す程度の足掻きは見せるのでは?」

「我の予想ではもう少し面白い事になると踏んでおるがの。まぁどちらにせよ、中原の争いはこれで幕を引こうさ」

 二人の話を聞いても、僕には納得がいかない。

 オーガにせよアマゾネスにせよ、どちらも僕等と共存が不可能な訳じゃない。

 ゴブリンとは違うのであれば、僕はどちらの種族も共にワグナスで暮らしていけたらと思ってしまう。

「まずは様子を見るとしよう」

「まだ介入はなさらいのですね」

「あぁ」

 これはあくまで種族間の問題だ。

 僕の様な第三者が訳知り顔で割って入って良い話じゃない。

「どこで線を引くのかは当事者の問題だからね。けど、それが僕に許容出来ないモノであれば」

「カカカ、では我は終始傍観とさせて貰うかの。どう転んでも楽しめそうだわい」

「リーヴァス様、戯れも程々になさって下さいね」

「カカ、心しておこう」


 僕等が里に到着した時には、既に戦える者はアマゾネスもエルフも集落には居なかった。

 だが気の高まりは里に近付いている時に既に感じている。

「さて、どうなっているか」

「まだ始まっては居ない様子です」

「カカ、睨み合いとはある意味で意外だの」

 初めてシェーラと会談した平原に向かえば、皆が既に集結している。

 そして平原の向こう側。

 里とは反対の場所に多くのオーガの姿が見えた。


「うん。まだ結構な数がいるね」

「おそらく戦士だけでしょう。戦えない者は含まれては居ないと思われます」

「あちらさんも決死かぁ」

 おそらく、全戦力を持ってきたのだろう。

 数だけで言うならばアマゾネスと互角なのだろうが、アマゾネス側にはエルフ族も控えている。エルフも優秀な魔法戦士であるのだから兵力的には負けている。

 第一……

「数だけ揃えても質が備わって居らんわ。かつてのオーガ族に比べて小粒になったものよ」

 数で負け、質で負けた。

 それ故のゴブリンへの支配でありエルフへの固執である。

 そのどちらも失敗に終わった以上、やはりオーガには玉砕しかない。

 そしてそれを選ぶ故の、戦闘種族なのだろうけど。

「オーガが必敗の戦いに挑むとは思えないんだが。もしそれを選択するくらいなら、彼等はアマゾネスと同様に四恐にだって挑みそうなものじゃないか」

「確かにそうですね」

「彼等には何かの策があるのか、もしくは何らかの賭けに出るだけの余地があるのか」

「ふむ。どうやら……賭けの様ですのぅ」

 リーヴァスが示した先で、一人のオーガが向こうから単身で歩いてくる。

「あれは?」

「カカ、なるほどなるほど、確かに博打だわい」

「リーヴァス殿?」

 楽しそうなリーヴァスに視線を送る。


「あれなるは今のオーガの長ですな。名を確かドルトと云うたかの」

「あれが」

 ドルトというオーガは遠目で見ても他のオーガよりも大きい体躯をしている。

 以前に見たオーガのグルダが平均であるならば頭一つは優にデカい。

 230センチ位は有るんじゃないか?

 そんな彼が背負うのは背丈よりも巨大な大剣だ。


「さて、舞台は整った。あとは役者がどう踊るかだがの」

「リーヴァス殿には彼の目論見が?」

 彼がする賭けとはなんだ?

「カカ。あやつは賭けたのよ。一族の未来もアマゾネスの存亡もなにもかもをの。そしてこの賭けに乗るか逸るかすらも賭けに出た。カカ、さてさて、一体幾つの幸運を重ねればあやつは望みを得られるのか見物よ」

「……では彼は」


 僕が視線を移し見たドルトの表情は、一切の迷いを見せない凛とした戦士のモノだった。



「左様。あのオーガの小僧は決闘をご所望よ。さて、勝てる見込みなど有るのかのう? カカカ」



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