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第28話 漆黒の古エルフ


 サリウの家のテラスに場所を移し、彼女が淹れてくれた紅茶の様な飲み物に口を着ける。

「良い集落じゃないか」

「はい」

 丸いテーブルを挟んで差し向いに座る彼女と微笑み合う。


 眺め見下ろした先ではエルフとアマゾネスの子供達が遊んでいる。

 そこに種族の違いなどは感じられない。

 褐色の肌のアマゾネスと白磁を思わせるエルフ、そして褐色の肌のダークエルフ。

 視線をサリウに戻せば彼女も微笑ましそうに子供達を眺めていた。


 かつて、ダーウェスに下ったエルフは神々や精霊の恩恵に背を向けた。

 そしてダーウェスの闇をその身に宿したが故に、その肌の色を漆黒に染め上げる事となる。

 現在に至り、当時のエルフの生き残りはサリウただ一人と聞く。

 もちろんワグナスでは、の話ではあるのだが、他の大陸でもおそらくは生き残りは居ないだろうとの事。

 本来、たとえダークエルフと云えども肌は褐色に過ぎない。

 漆黒に染まった肌は、直接ダーウェスからの恩恵を与えられた証であり、決して遺伝はしない。

 永い、長い時間の中で、数多の戦いや生存競争の中で、漆黒の古エルフはほぼ絶滅したと言っていいそうだ。

「私に残された時もあと僅かでしょう。門をくぐるのも時間の問題かと」

「君が?」

 彼女に寿命の概念があるとは思えないのだけど。

「多くの戦いに身を置きました。既にあちらとこちらの境界が、私の中で曖昧になっておりますので」

「そうか」

 彼女達エルフは、現世での死を迎えた後に精霊界の門をくぐり向こうで妖精となると云う。

 どちらにしても永劫の存在には違いない。ただその在り様が変わるだけの話だ。

 故に老いたエルフに死の恐怖は無い。

 若いエルフは門を感じる事も向こうとの境界を自覚する事も無いので、やはり死への恐怖はある。

「ですがまだ先の話ですね。人の子が老い、その孫がまた老いて死ぬよりも先の話にはなるのでしょうけれど」

「それでも、僕は寂しいよ、サリウ」

「勿体ないお言葉です、ダーウェス様」


 静かにカップを置く。

「先ほどのダーウェス様のお話ですが」

「うん」

 僕と向き合うサリウは真剣な顔だ。

「現在の私共はアマゾネスの方達の庇護下にあります。ダーウェス様の理想には私も共感するところ大ではあるのですが、私共の勝手で離れるという訳にも参りません。彼女達には多大な恩もありますれば」

「そう辛そうな顔は見せないでくれないかサリウ。せっかくの美人が台無しだよ」

「ダーウェス様」

 僕のワグナス平定の案に賛同はしてくれた。

 僕としては今回はそれで充分だ。

 アマゾネスが保護してくれている以上、当面、エルフの人達の安全は心配しなくても良さそうだからね。

 これはこれで朗報とも言える。

「僕の下である必要は無いんだよ。君達が穏やかに暮らせればそれだけで良い。現状、それが成されているのなら問題は無いさ」

「畏れ入ります」


 今日の処は挨拶だけでいいだろう。

 僕はサリウに別れを告げ、ラビエラとリーヴァスの下へと向かい帰路に就いた。

 帰りの馬車の中――

「このまま帰ってもよろしかったのですか? ダーウェス様」

「良いさ。好意的な一時接触は出来た。ゆっくり構える気も無いけれど詰め込む気もないよ。失敗は出来ないからね。これはゲームじゃない」

「ゲーム? とはなんでしょう?」

「ん? はは、こっちの事さ」

 つい気が緩む。

 それも良い事だね。

「カカ、では取り急ぎは人間種を纏める事を最優先という事ですかの」

「そうなるね。頼りにしているよ、二人共」

「わたくしの持てる全てを」

「カカ、退屈はしなさそうよな」


 僕達は、まだ一歩を踏み出しただけだった。



◇ ◇ ◇



 僕等がラクエルの里に戻って二日後、ガラン達戦士団は探索より帰還してきた。

「おかえり、ガラン」

「全員無事戻りました、ダーウェス様」

「ご苦労様」

 ガラン達は一人の欠損も損傷も無く帰還してくれた。

 探索の道中では魔物の襲撃もほとんどなく、あったとしてもリーヴァスが召喚したケターロスがあっさりと咬み殺したようだ。

 そして――

「彼女達が」

「……はい」

「そうか」

 そこには十五人の女性が居た。

 上はおそらく四十代から、下には十代前半にしか見えない子も含まれている。

 皆の疲労と、それを上回る恐怖と絶望を思わせる雰囲気に、ゴブリンへの憎悪がまた鎌首をもたげてくるのだが、不意に左手に触れたラビエラの手に心が落ち着いた。

 ありがとう、と小さく言い――

「遠いところをようこそ、ラクエルの里へ。里を代表して貴女達を歓迎致します」

 僕の言葉に彼女達は戸惑いこそ見せるが反応は薄い。

 でも中には手を上げて僕を覗き見る人も居る。

「あの」

「なんです?」

「私達、これからどうなるんでしょうか……」

 ふむ。

 救われた者の中で自分の村に帰れる者は送ってきている。

 つまり此処に居る人達は皆帰る場所が無いという事だ。

「皆さんにはこの里で暮らして頂こうと思っています。もちろん強制はしませんが。希望者には自分の家と土地を提供しますし、生活に不安のある方は僕の屋敷で暮らしていただいても結構です。その場合にはそうですねぇ……使用人の真似事をして貰う事にしようかと思っていますが、酷使はしないと確約しますよ。あとは皆さんの判断に委ねます」

「そんな待遇で……」

「僕が皆さんにしてあげられる事は、それぐらいしか無いのです」


 結局、全員を僕が養う事になったのは、まぁ仕方がない。


 基本、この里、というか大森林の中では通貨という概念は存在しない。

 物々交換が主であり、あとは融通の一言だ。要するに過酷な状況下で皆が助け合って生存しているという状況。

 国という裏付けが無い場所であるのならばソレが妥当なのだろう。

 


 数日後、僕はリーヴァスの屋敷をラクエルの里に転移させた僕の屋敷で、リーヴァスの報告を受けていた。

 この大森林に点在する人里を全て記載された地図の制作が完了した報告だ。

「結構多いね」

「左様ですな。しかし東に集中しているのは手間が省けますの」

「うん」

 北と南、そして西にはやはり四恐が居るので人も避けている。

 リーヴァスが隠者と呼ばれる程の引き籠りだったのが幸いしたというところか、人間はほぼ東に集中していた。

「すでに里長によって連絡がいっております。皆、ダーウェス殿への恭順を示唆しております」

「従ってくれたから万歳では済まないよ。だからこそ、彼等の暮らしを良いモノにしていかなくてはね」

「カカカ、林道の整備は八割がた終わっておりますのでの。時期、往来も楽になろうよ」

「ガラン達もよくやってくれる」

 村々を結ぶ道を敷く作業にはリーヴァスの召喚が大いに役立っている。

 大まかな整地は僕が済ませたが何しろ危険な森の中の道だ。

 肝心なのは安全面で、巡回に放つケターロスは既に三十匹を越えた。

 召喚している間は魔力を消費し続けるので、これは現在僕が召喚し、常時展開している状況だ。

 まだまだ出番があるようだが、やがて森の魔物も道行く人々には手を出さなくなるだろうさ。獣だって学習する。

 ネットワークの拡大は活性化に繋がるからね。

 いつの日かこの大森林も大きな経済に組み込まれる事もあるだろうから、その時までに耐えられる環境は整えたい。

 気配を感じると。


「ダーウェス様、ただいま戻りました」

「おかえり、ラビエラ」

 

 ラビエラが、僕の下へと戻ってきたのだった。




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