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第27話 魔王を知る者


 ドラゴン。

 僕だって知っている。いや、誰だって知っている。

 巨大な体躯に鋭利な爪と牙。

 全ての生態系の頂点に在る絶対的暴君。


 そのドラゴンに、アマゾネスは挑むと言いう。


「五年後にはドラゴンと戦える戦力が? 今エルフを保護したところで流石に間に合わないと思うのだけれど」

 今日子供を作って五年後には戦闘に足るとは思えない。

 アマゾネスがそれ程早熟だとは聞いていないのだが。

「別に戦うだけなら今日でも構わないんだけどね、それじゃあたし等が終わっちまうだろ?」

「……なるほど。つまりは次代の準備ってことかな」

「あたし等が死んでもアマゾネスが終わらない様になる迄の時間ってだけさ」

 戦闘に向かう戦士達の全滅は既に計算の内だというのだから狂った話だ。

 だが単純にアマゾネスは戦いに狂っている訳では無い。

 自分達が戻らなくても一族が残れるだけの算段が成り立って初めて無謀な挑戦をする。そう言った意味では堅実であるとも言えるのかも知れない。

「わかっちゃいるけど止められない、という訳か」

「ダーウェス様?」

「いや、言ってみただけさ」

 中毒なんてそんなもんだよな。

 不意にシェーラは立ち上がると振り返り歩き出す。

「時間はあんだろ? まぁゆっくりしてきな」

 後ろ手に手を振りながら彼女は森へと消えていった。


 アマゾネスとの取り合えずの挨拶は済ませた。

「余り詰め込んでも仕方がないからね。エルフにも挨拶して引き上げるとしようか」

「畏まりました、ダーウェス様」

 後はエルフとも少し話をさせて貰い今日は帰るとするか。

 ガラン達が帰ってくるのは二日後の予定だ。出来れば里で出迎えてあげたいからね。


 僕達がエルフの集落に入れば、エストリアが僕等を待っていた。

「長老が会いたいと」

「僕等に?」

「いや」

 首を振った彼は僕をまっすぐ見る。

「長老は貴方と二人で話がしたいと言っている。すまないが付いてきてはくれまいか」

「させると思いますか」

「ラビエラ」

 妨げようとする彼女を下がらせる。

「連れて行ってくれるかな、えっと」

「エストリアと呼んでくれて構わない」

「ありがとう」

 行ってくるよ、とラビエラとリーヴァスに告げてから僕はエストリアとエルフの集落の中を進む。

 エストリアと並ぶと彼は口を開く。

「里の子を助けてくれた事、礼を言う」

「当然の事をしただけだよ、礼を言われる筋じゃないさ」

「それでも、礼を言う……ありがとう」

「……どういたしまして」

 エルフの皆を守る戦士としての矜持がある。

 僕はエストリアを好ましく思った。

「あれが長老の家だ」

「ほう」

 一際大きな大木の上に、少し小さめの家が乗っかっている。


 エストリアは「私は此処までだ」と木の根元で見送った。

 木の幹に絡みつく様に枝が巻き付いている。まるで階段の様だ。

 登り家のドアをノックしようとすると自然にドアが開く。

「失礼します」

 僕がドアをくぐると自然に閉まり、奥へ続く廊下を進むと布のカーテンが先を塞ぐ。

 近付いただけでカーテンが開けば、部屋の正面、上座と思しき場所に大き目の椅子が置かれている。

 だが無人だ。

 視線をずらせばその横で平伏している女性が一人。


「貴女は……」

「ようこそお越し下さいました。空を堕とし魔王、ダーウェス様」

 あぁ、僕は知っている。

 僕の身体は、知っている。


「久しぶりだね……サリウ」

「ご復活、心よりお祝い申し上げます」


 

 彼女に進められるままに椅子に座り、僕の前に彼女は膝を付き控えた。

「八千年振りか。元気そうでなによりだ」

「勿体ないお言葉……かつての大戦のおり貴方様をお守りも出来ずに生き恥を晒しております」

「はは、君達に出来る事は無かったろうに」


 神々や龍、精霊に魔神、悪魔族まで加わったダーウェス討伐戦だ、彼女達エルフに出来る事など少なかったろう。

 平伏しているサリウが微かに震えているのがわかる。

 

 かつての僕、いや、ダーウェスは数多の種族を従えていた。

 無論、皆彼を慕っていた訳でも支持していた訳でもない。


 従うか、死滅するか。

 

 ダーウェスが迫ったのはその二択。

 中にはラビエラの祖先たちの様に、迫害を受けていたが為に進んで僕の下に来た者達も居たが、エルフは苦汁の選択として恭順を選んだ。

 だけど僕には分かる。

 そんな支配すら、ダーウェスにとっては戯言(ざれごと)だった。

 戯れに従え戯れに殺す。ただそれだけの目的でしかない。


「……度し難いな、本当に」

「っ! 申し訳ございません」

「いや、君達の事ではないよ」

 思わず口を突いてしまった。

「君達はもう僕の配下でもなんでもない。そろそろ顔を上げてくれないか」

「いえ私共は永劫の忠誠を」

「サリウ」

 ゆっくりと彼女が顔を上げてくれた。

「全ては八千年前の話だよ。僕等は新しい時の中に生きている。それでいいじゃないか」

「は、はい……その、ダーウェス様」

「なんだい?」

「その、恐れ入りますが……ダーウェス様、でお間違いありません、よね?」

「はは」

 確かに、そうだよなぁ。

 流石にエルフ。

 本人と会った事のある人物が普通に生きているとはね。

「封印の間に色々とあったんだ。以前の僕とは厳密な意味では違うのかもしれないけれどね、それでも僕は魔王ダーウェスだよ」

「申し訳ありませんでした」

「いいよ。昔の僕を知っている君に会えて、僕は嬉しいからね」

「ダーウェス様」


 椅子を立ち、跪く彼女の手を取り立たせる。


「改めて、よろしく、サリウ」

「畏まりました、ダーウェス様」


 僕と握手をしたまま、彼女はその顔にようやく笑みを浮かべてくれた。

 記憶にあるどの彼女よりも、穏やかな微笑みだ。


 僕はその夜闇の様に漆黒の肌を持つダークエルフを、美しいと思った。



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