第25話 種族の性質
グランゼスト大陸のずっと南方に魔島と呼ばれ恐れられる大地がある。
その名をワグナス。
他の大陸では類を見ない程の数と質の魔物や魔獣が跋扈するこの島は、全ての人々から忌諱の対象として挙がるほどだ。
ワグナスは大陸の中央を縦に走るキーサス山脈を境として、その西側にはなだらかな丘陵地帯や平地、台地が広がっているとされ、太古よりこの地に出来る国の王都や都市は西側に存在していた。
そして山脈の東側には広大な大森林が存在しており、国を追われた者達や開拓者などが入植するなどして人々は森に生活の居を構えたらしい。
山脈を北や南に迂回する形で、大陸の北部にはワグナス最大の湖があり東と西とを湖畔で結び、南はサバンナ地形の様な場所が広がっている。
豊かな自然と実りの多い大地として、ワグナスはかつて世界中から注目を集める大地だった。
だが、いつの頃から島全域に濃い魔素が立ち込めると、人々は魔の巣くう島、魔島と呼び恐れたという。
そして魔島ワグナスには伝説の存在が居た。
ワグナスの四恐。
北の厄災ヒュドラ
南の巨神タイタン
東の隠者リッチ
西の覇者ドラゴン
ワグナスの大森林の四方に存在すると言われる四つの存在は、グランゼスト大陸においてもその脅威は畏怖を以って知られているという。
なんというか、その東の隠者とは現在一緒に馬車で移動中な訳なのだが。
そして聞いて驚く事にアマゾネスという種族は――
「アマゾネスは数がある程度増えたならば一族の戦士を選りすぐり、決まって戦いの挑むのですよ。その四恐にの」
「なんういうか、それは勝てる算段あっての事かい?」
でなければ只の自殺行為だ。
リーヴァスの強さは戦った僕が一番分かって居るつもりだ。
見た感じでしかないにしても、デュー位のアマゾネスならば百やそこらではどうにもならないと思うのだけれど。
「策を弄そうにも、大体の場合は最後の一人まで戦いを止めないのでの、生きて帰る者が居なければ反省も修正もあるまいて。まぁ延々とその繰り返しよ」
「力押しにも程があるだろうに」
「だからこそ、オーガは今まで滅びずに済んでおるのです」
「なるほどね」
アマゾネスにとってオーガはただの喧嘩相手であり訓練相手でしか無い訳だ。
彼女達の本番はもっと強い、それこそ勝てないと分かっている相手と戦う事にある訳だから。
どうりでデューがリーヴァスの事を骨呼ばわりした訳だ。
彼女にとっては東の隠者はいずれ戦う相手であり倒す対象に過ぎない。敬称を使う必要は無いという事か。
ん?
「それではリーヴァス殿はアマゾネスと戦った事はあるのですか?」
「カカ、そうさの、十年前に相手をしたのが最後になるか。それ以前にも百年以上昔に何度かあるかの」
「なるほど。十年前に一度、彼女達は貴方に全滅させられている訳だ」
これは交渉が面倒そうだなぁ。
「ん? いや、我は全滅はさせとらんよ」
「ほう」
それは意外だ。
僕と戦った後の今のリーヴァスなら分かるが、以前の彼だと歯向かう者は皆殺しにして何が悪いと言いそうなんだけど。
「面白そうな者が一人居たのでな。戯れにそやつの命は取らないでおいたわ」
「なるほど、戯れね」
うわ~、悪者全開だなこりゃ。
しかし、聞けば聞くほど、なんというかどこかのアニメの尻尾付き戦闘民族みたいな連中だな。
いやそれ以上か。
毎回負ける戦に嬉々として挑んでいくのが目に浮かぶようだ。
戦うのが楽しいというオーガが大人しく見えるな。
彼女達は強い相手と戦わなければ死んでしまうかの様な中毒振りだ。もう一種の病気でいいだろそれ。
いかんな、そんな戦闘ジャンキーと僕の路線が一致を見るとは思えないだが。
僕が少し憂鬱な気分に浸っていると。
「ダーウェス様、到着した模様です」
「ん? そうか」
馬車が停まり、僕等は外に出る。
「ほう……これは」
そこには変わらず森が在るだけなのだが、違う点が多くみられた。
「なるほど、森の民とはよく言ったものだね」
「はい。エルフの住居とは大概があのような物です」
「カカ、変わった奴等よの」
エルフの家は大木の枝の上に建てられていた。
簡素とは言い表しにくいなかなかに見事な家が枝に建ち、森の木々のあちこちからこちらを伺うエルフの姿が見受けられる。
よく見ると家の壁や柱は土台となる木と一体化していた。
なるほど、落ちない道理だ。
しかも随所にアマゾネスが哨戒で立っている。
その気配の配り方は中々に抜け目がない。
これでは彼女達に気付かれずに侵入するのは難度が高いだろう。少なくともオーガには無理だろうな。
「あたい等のシマはこっちだよ、付いといで」
「助かるよ」
デューの後を付いていくと、おそらくこれが中央平原なのだろうという、広大な平野に出た。
此処がアマゾネスとオーガが覇権を争っている場所だ。
東西南北を四恐に抑えられている状況で、唯一残された支配地域。
そしてそんな、いつ何時戦場となるやもしれぬ場所の、少しだけ小高くなった丘に数十の粗末なテントが設けられている。
見渡せば他にもちらほらと集まりが見える。
魔力で探査を試みても、なにも引っかからない。つまりは、備えをしていない。
「なんだってこんな無防備な場所に居を構えているんだい? しかも防備の備えも無いように見えるのだけど」
「は?」
僕としては彼女達の無計画さに寧ろ、は? なのだが、デューはそんな僕の問いを鼻で笑った。
「強い方が弱い方を警戒してどうすんのさ。夜襲奇襲は弱者の特権さ。それを奪っちまったら興が削がれちまうだろ?」
「つまり、君達はわざと襲われやすい場所に居を構えているという事なのか?」
「じゃなきゃ楽しめないじゃないさ。あははっ」
「は、はは」
うん。突き抜けてるなぁ、色々と。
デューが更に歩を進めると、一番小高い場所に生えている一本の木の下で、組んだ腕を枕に仰向けに寝ているアマゾネスが一人。
「姉御、エストリアから聞いてるかい? 姉御に会いたいって連中を連れてきたよ」
「…………あぁ。東の骨と一緒って連中だね。聞いてるよ」
デューに答えて、彼女はゆっくりと起き立ち上がり、腕を腰に当て僕等を見下ろして言い放った。
「あたしがシェーラさっ!」
それはいっそ痛快な自己紹介だった。




