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第24話 繁殖の相違


 馬車の中で僕とラビエラを前にリーヴァスはその口を開いた。

「どうやらアマゾネスがエルフを囲い込んだ、という事が今回の一連の流れの発端であろうな」

 それがリーヴァスの結論だった。


「つまりアマゾネスにとってエルフが必要という事なのかな。デューとエストリアを見る限り力関係ははっきりしているみたいだけれど」

「カカカ、この大森林におけるエルフの立ち位置は微妙はモノですからの」


 リーヴァスの言うには、エルフはゴブリンはもとより、オーガやアマゾネスにも常に狙われている種族だという。

 ゴブリンとオーガに関しては理由は分かる。

 ゴブリンが狙うのはエルフの女性に限り、オーガは男女共に狙う。そしてゴブリンはともかく、オーガはエルフにとっては脅威に足るだろう。

 しかし――

「アマゾネスもとなると、では彼女達も?」

「さよう、アマゾネスという種には女しか存在しないのですよ。ゆえに多種族の男が必要であり」

「やはりエルフの男性との間の子は優秀という訳か」

 その点においてはアマゾネスはオーガよりも切実と言えるだろう。

 ゴブリンやオーガと同様、彼女達の腹から産み落とされるのはアマゾネスだけだ。いかなる種族が相手であろうとも。

 そしてオーガには男女が居るがアマゾネスには男が居ないのだから。

「それゆえにアマゾネスの多種族狩りは苛烈を極めると聞き及びますが」

「なるほどね」

「カカ、如何にも。だが問題はそこではないな」

 確かに、まだ何も見えてはこない。

 僕の目にはデューとエストリアの間は支配者と隷属者の関係には見えなかった。

「エルフは逃げ続ける日々に終わりを告げたという事よ。アマゾネスの影に覆われる事によっての」

「エルフにとってはオーガよりもアマゾネスの方が都合が良いという事か」

「アヤツ等はそう考えたようだの」

 考えてみれば難しい話じゃない。

 ゴブリンやオーガにエルフの女が浚われた場合には、おそらく生きて帰ってくる事は難しい話になるのだろう。

 だがアマゾネスの方はどうだ?

 デューとは意思の疎通がしっかりと出来る。その点でゴブリンとは違う。

 そして彼女達が必要としているのは男だ。

 それは永遠に必要ではない。子供が宿ればそれでいい話。

「あるいは一定量、もしくは一定期間の男の貸し出しを条件にするのならば、アマゾネスはエルフを保護するだろうの」

「エルフの皆さんはオーガを警戒する必要も無く、アマゾネスの方々は種の存続が安泰になると?」

「ふむ」

 エルフとアマゾネスの方は僕にも納得が出来る。

 だがいまいちわからない。

「そこにオーガとゴブリンがどう絡む?」

 たんにエルフを失った、というだけにしてはリーヴァスの含んだモノが見えない。

「他の種族にならいざ知らず、エルフをアマゾネスに奪われる事はオーガの種族にとって危機そのものだからのう」

「アマゾネス限定の話なんだね」

「カカカ、アヤツ等は永く争って来た種族よ」


 オーガがそうであるように、アマゾネスもまた戦闘種族だという。

 そして二つの種族は、この大森林の中央平原を巡って戦いを続けている。

 もっとも――

「平原支配を目指しているのはもっぱらオーガの方だけでしての。アマゾネスからしてみれば手頃な喧嘩相手が居る程度に思っているでしょうな」

「アマゾネスとオーガではアマゾネスの方が強い、と」

 であれば意識の違いも頷ける。

「以前はそれ程でも無かったのだがの」

「最近違ってきているという事ですか?」

「ふむ。では巫女よ、一つ問おう。アマゾネスの腹からはアマゾネスが産まれ、オーガの種や腹からはオーガが産まれる。ではアマゾネスとオーガの間に子が出来た場合には、何が産まれると思うよ」

 リーヴァスの問いに「それは、どうでしょう」と首を傾げるラビエラ。

「カカ。アマゾネスが産まれるのさ。それも、とかく強いアマゾネスがの」

「そういう事か」


 アマゾネスとオーガの間に闘争がある以上、中には捕らわれる個体も当然出るだろう。

 そしてアマゾネスがオーガを捉えた場合に、その結果としてアマゾネスに強い個体が産まれる事になる。

 リーヴァスの知るところでは、現在のアマゾネスの長はオーガを父に持つアマゾネスだという。

 だが、だとすると……


「その上でエルフまで抑えられたとすると、もはやオーガには」

「カカ、エルフを抑えられてはオーガ同士で子を増やすしかあるまいが、アマゾネスはエルフとの数を増やすだろう。なればこそ、偶然手に入ったエルフの子供を必死に奪いに来たのだろうが」

「ではやはりあのオーガは子供目当てでゴブリンを襲ったと」

「いや」

 彼は否定した。

「オーガに殺されたゴブリンが居ないのを不思議に思ってはおりましたが、どうやらアヤツ等はゴブリンにも用が有ったようですな」

「しかし」

「戦いの盾なり特攻なりにしか使えないと我が言ったのを覚えておいでか」

「うん」

 確かに、最初に彼はそこに疑問を持っていた。

 オーガがゴブリンを使う用途に理解が出来ていない様子だった。

「だがまさに、ゴブリンの使い道とはまさにソレだったのですな」

「そうか。つまりアマゾネスとの戦いにおける、使い捨ての盾であり、使い捨ての槍であるという訳か」

 

 オーガはアマゾネスに質で負け出す。

 だがオーガ同士の子作りで質の負けを数で補っていた。

 だがアマゾネスがエルフを獲得した事で、その数でもオーガは追い詰められる事になってしまう。

 そこでオーガが打った次策が、物量で圧倒するというモノ。


「しかしゴブリン程度が千でも万でも、あのデューみたいな戦士が百も居ればそれだけで済みそうな気がするんだが」

「カカカ、それだけオーガ共が追い詰められているという事だの。エルフを影に居れたのはそう昔の話でもなかろう、オーガとしては手遅れになる前に決着を付けようと思ったのだろうが、カカカ、実にタイミングが悪い」

 確かに、これは僕も絡んでしまったな。

「ゴブリンは殲滅してしまったからね」

「アヤツ等も慌てているだろうさ」

「オーガが次策を打つと?」

「さて」

 ここからひっくり返すのは難しそうだけど。

「逃げるか籠るか策でも練るか、あるいは……カカ、面白い動きもあるやも知れませんな」

「なんか楽しそうに見えるよ、リーヴァス殿」

「然り。ダーウェス殿に出会えてからというもの、我の停滞していた時が動き出したかのようだわい、カカカ」

「まぁ楽しそうなのは何よりなんだけれどね」


 しかし考えれば考える程、今の今まで均衡を保っていたのが奇跡に思えるな。

 なにもエルフからの供給を確保しなくても問題なさそうな気もする。

 戦えば戦う程、オーガには犠牲も出るだろうし、アマゾネスには少しづつ強い個体が増えていく事になったろう。

 とっくに決着が付いていてもおかしくなさそうだ。

 だがその問いに対するリーヴァスの答えもまた、意外なものだった。

「カカカ、それがアマゾネスの愉快なところよ」

「愉快?」

「アヤツ等はオーガ以上の戦闘狂での。ある程度の数が揃うと決まって挑みに向かうのよ」

「挑む?」

「カカ、全滅を承知で勝てぬ戦にのぉ」



 そして僕はまた一つ、魔島ワグナスを知ったのだった。



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