第23話 アマゾネスの来訪
開いたままの門に悠然と立っているのは長髪を風に揺らめかせている褐色の美女だ。
身長は180はあるだろう長身でありながら均整の取れた肢体。
見事なプロポーションをほとんどビキニだけという煽情的な服装で覆っている。
なのに、色香よりも戦慄を覚えてしまう様な、肉食獣を彷彿とさせるその視線と、右肩に担がれている長柄の斧が、周囲の者達に最大限の警戒を促していた。
「あんたがこの里の頭かい?」
僕等と共に駆け付けたガリルに獰猛な笑みを見せ問いかけるアマゾネスに、一瞬ガリルの身体がビクリと反応したのがわかる。
老体には少しばかり応えるだろう。
「申し訳ないが、立場上今は僕が対応させて貰うよ」
「ん? あたいは誰でも良いんだけどね」
ガリルを背にした僕にも同じ笑いを向ける彼女だが、中々に可愛らしい女性だ。
「僕はダーウェス。君の名を聞いてもいいかな?」
「あたいはデュー、あんた、強そうだねぇ。ちょっとあたいじゃ勝負になんないか」
「そういう君も随分だとは思うんだけれどね」
勝てない、と言う割には彼女は楽しそうだ。
「それにしても……あの骨じゃなくてあんたが大将とはねぇ。あんた、ちょっとあたいと遊んでみる気はないかい?」
言うや、担いでいた2メートルは有ろうかという斧を地に突き立て笑う。
それにしてもリーヴァスを骨呼ばわりするとは、随分な胆力だ。
「今は君と戦う気はないよ。君も、それが目的ではないのだろう? デューさん」
「ちっ! まぁね。今日はあたい等んトコのガキを貰いに来たのさ」
「それは聞いたのだけれどね」
些か話が通らないのはそこだ。
「君はエルフではないだろう? 我々としては彼を故郷に帰したいとは思っているのだけどね、それは君の居場所とは違うのではないのかな」
「はん! 同じなんだよ。いいから連れてきな、そしたら分かるさ」
「……ガリル殿」
「しかし! ……畏まりました」
少しして、彼が戦士の女性に連れられてやってきた。
「やあ。急に呼びつけてごめんね」
「あの、ぼくに何か」
戸惑うエルフの子に一度微笑んで。
「彼女が君を引き取りに来たと言うのだけれど、君は彼女を知っているかい?」
「……」
彼女を見詰める彼は、思わず連れてきてくれた女戦士の後ろに隠れてしまったが――
「ちっ! おいっ!」
ん? 彼女の声は、ビクリとした子供にではなく、どこか他に向けて放った様に聞こえたのだが。
「っ!」
突然、デューの横に気配が生まれた。
なるほど、ガリルが言ったように、本当にかの種族は消えるのが得意らしい。
デューの横にはいつの間にか端正な顔立ちのエルフの男性が姿を現していた。
その草色のマントを翻し、女性と見紛う程の細見と端正な顔立ち。
何よりエルフの代名詞の細く尖った長い耳が、彼がエルフである事を僕に如実に教えてくれた。
彼の姿を見た瞬間――
「エストリアッ!」
エルフの子供は飛び出したかと思うと、泣きながらエルフの男に飛びついた。
「ミルドシリ。あれほど集落からは出るなと言っていたのに」
「うわああん、ひっく、ごめ、んなさいぃ」
「無事で良かった」
泣き続けるミルドシリを抱きしめるエストリアは、優しく背中を叩いて落ち着かせていた。
「ったく。手間掛けさせんじゃないよ」
デューはつまらなそうに斧を今一度肩に担ぐ。
「そんじゃこのガキは返して貰うよ」
「あぁ、どうやら問題はなさそうだからね」
「邪魔したね。いくよ、お前達」
デューに促されエストリアも続こうとした時、僕は声を掛けた。
「ちょっと待ってくれないかい?」
「……なんだい?」
うん。随分と物騒な視線で返された。
そんなつもりは無いんだけどなぁ。
「僕は今日、この里の面倒を見る事になったのでね。出来れば君達の長にも挨拶をしたいのだけれど、どうだろう? 僕を長の下まで連れて行って貰えないかな」
「姉御に? あんたがかい?」
「そちらの要望は聞くよ。僕一人と言うのならばそれでも構わないのだけれど」
「う~ん」
頭をガシガシと掻いて考えているデューだが、もう少し女の子らしい仕草をしてくれると嬉しいなとは僕の勝手な理想かな。
うん。と一人で納得したデュー。
「まぁいいさ、あたいに付いて来るなら勝手にしな。姉御に話は通してやるよ」
「ありがとう」
僕が礼をいうと、リーヴァスの馬車が僕等の近くに出現した。
「カカ、お主等も乗ってゆくか?」
「ふん。死炎馬の引く馬車になど誰が乗るかよ。あたいの馬は有るから構うんじゃないよ」
デューが言うと、彼女の傍に炎が生まれた。
炎が消えて残ったのは、燃える鬣と尾を持った馬だ。
火霊馬と呼ばれる火の精霊獣らしい。
「私はミルドシリを連れて先に戻ります」
「あぁ、好きにしな」
「では」
「皆、助けてくれてありがとうっ!」
二人のエルフは僕等に頭を下げ礼をするや、その姿を消してしまった。
相も変わらず僕ですら気配をうっすらとしか掴めないというのは凄い。
もっとも、戦いともなれば殺気位は感じられそうだけれども。
「では参りましょう、ダーウェス様」
「そうだね」
僕は馬車の扉を開き、まず先にラビエラを促し乗り込ませ、そして僕も乗り込む。
ふ、と気が付けば後ろに続いていたリーヴァスが振り返る。
「ときにアマゾネスの戦士よ」
「なにさ」
「これから向かう先には、エルフも居るのかのう」
何を今更、な事を聞くリーヴァスに「当たり前だろ」と鼻で笑いながら答え、彼女は馬に乗り歩みを始める。
「カカカ、そうかそうか、なるほどのぉ」
リーバスも乗り込み、二頭の死炎馬が引く馬車が火霊馬の後に続き動き出した。
僅かに揺れる馬車の中で、リーヴァスの言葉が引っかかる。
「リーヴァス殿」
「なにか? ダーウェス殿」
僕の問いを予想していたかの様に落ち着き払っている。
「なにがどう、なるほどなのですか?」
「カカ。いやなに、全てに得心が云った故のう」
「全てとは?」
「カカカ」
彼は笑い、その髑髏の中の赤い光を輝かせる。
「ゴブリン、オーガ、エルフ、そしてアマゾネス。此度の成り行きの全てに、よ」




