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第22話 里の懸念


 ラクエルの里の広場には四十人程の戦士団が立っていた。

 皆の前に立つガランとラッツによって隊が分けられ、それぞれがゴブリンの巣穴へと探索に向かう。

 中に取り残されて居るだろう、捕らわれの人達を救いに。

 ほぼ隊分けが終わったころ、ガランが僕に向き直る。

「え、と。ダーウェス様、俺達の準備は出来た、じゃない、出来ました。ゴブリンの巣穴の位置を教えてくれ、下さい、ませ?」

「くく、もっと気楽に接してくれても構わないよ、ガラン」

 先ほど、里長のガリルから里の皆に通達がされた。

 ラクエルの里は僕の庇護下に入り、里の未来を委ねると。

 僕の横にリーヴァスが居る所為もあったかも知れないけれど、それ以上にガリル達里のまとめ役は皆に信頼されていたという事だろう。

 彼の言葉は大した混乱もなく受け入れられた。

 それだけこの大森林での暮らしが大変なのだという事の裏返しでもあるのだろうけれど。

 ガランは受け入れる事は問題無い様だが言葉遣いがよく分からないらしい。変な言葉になってたり、挙句疑問形で終える始末。

 僕としては今まで通りに、あんた、呼ばわりでも良いんだけどね。まぁ、そうもいかないのは分かるんだけどさ。

「言い間違いを気にしながら話されるより、君なりの言葉で伝えてくれた方が僕も助かるからね」

「そんな訳にはっ……いや、分かった。じゃあ、ダーウェス様」

「うん」

「これから俺達は何処に向かえばいいんだ?」

 うん。やっぱりこの方が僕にとってもいいな。

「それについては、リーヴァス殿?」

「カカ」

 僕の視線にリーヴァスは静かに魔力を纏う。


「我が魔力を喰らい顕現せよ闇の牙」

 呪文を唱え、懐から小豆程の何かを五つ、自分の影に落とすと、そのまま影の中に吸い込まれた。

「我が下僕が案内しようさ」

「下僕、ですか?」

 ガランの問いに「ほれ」とリーヴァスが影に手をかざすと、スゥ、と影が広がる。

「これは?」

「ダーウェス様、お下がりください」

 僕の前にラビエラが立つ。

 リーヴァスの広がった影の中から、五つの何かがせり上がる。

「おい「これは「ひっ「なんだよ」

 皆の混乱の中で顕現したのは、二つの頭と首を持った馬ほどもある巨大な黒い狼だ。

 それが五匹。

 それぞれが戦士団の五隊の前に座った。

「カカカ、我が下僕たるケターロスよ。ゴブリンの巣穴まではこ奴等が案内しよう。人間の臭いにも敏感なのでな、無人の巣穴に連れて行く事は無い。道中の安全も保証しようさ。ここらの森でこ奴等の牙を逃れられる魔物などいやせんのでな」

「俺達を襲うって事は」

「案ずるな。お前達は襲わんよ。他の人間もの。我がそう命じた以上、我が下僕たるこ奴等がそれに反する事は決してない。カカカ」

 リーヴァスは道案内だけではなく、道中の戦士団の安全も担保してくれた。

 彼の様な協力者を得た事は僕にとっての財産だ。そして、彼に負けず劣らずの存在も居てくれる。

「ラビエラ」

「畏まりました、ダーウェス様」

 僕の言葉で、ラビエラがガランの下へと行く。

「ガラン様、こちらを皆さまにお持たせください」

「ラビエラさん、これは?」

 ガランに持たせたのは小さな袋。

 その中を見たガランは中の一つを手に取ってみる。

「薬?」

 小さな粒が数十個入っていた。

「私が術を掛けた霊薬です。もしゴブリンをその身に宿している女性が居たならば、その霊薬を飲ませてください。全ては光となって消えるでしょう」

「ラビエラさん……ありがとうございます」

「私に礼は不要です。全てはダーウェス様の御心のままに」

 会話の温度差に思わず苦笑いしてしまう。

「ラビエラ、君の仕業なのだから君は誇っても良いと思うよ。少なくとも僕は君を誇りに思う」

「わたくし如きに、勿体ないお言葉で御座います」

 まぁ、これが彼女が望んだ距離感なのだろうから、と今は納得しよう。

 僕はそのままガランと戦士団に視線を移す。

「皆に苦労を掛ける事になってしまって申し訳ないが、これは僕達がより良い未来を勝ち取る為に必要な事だと思う。どうか皆の力を貸してくれ」

「任せてください。必ず全員助けて戻ってきます。なぁみんなっ!」

 ガランの掛け声に、おーーっ! と戦士団全員の雄叫びが応えたのだった。


 門からガラン達がケターロスと共に森に入っていくのを見届け、僕達は一度里の中へと戻った。

 広場に戻れば、ガリル達数人が話があると里長の部屋に招かれると

「実は、一つご相談したき事が御座いまして」

「なにか? ガリル殿」

「はい。それが」

 彼が言い難そうに話したのは――


「先に連れてきた、エルフの子供の事に御座います」


 その処遇についてだった。 

 

「あの子がなにかトラブルでも?」

 問題でも起こしたのだろうか?

 それほどわんぱくにも見えなかったのだけれど。

「いいえ、あの子自身には何も問題はありません。利発な良い子だと思います」

「ではなにが」

「問題はあの子がエルフの子だという事なのです」

 ん? 僕の聞いた話の中ではエルフと人間が戦いをしているとは聞いては居ないのだけど。

「それが問題だと?」

「はい。エルフは仲間意識がとても強い種族なのです。一人の子が浚われたとなれば集落総出で探している事でしょう。ゴブリンに浚われたとなれば尚の事」

「心配はするでしょうね」

「心配では済みません。エルフはおそらくゴブリンを殲滅してでも取り返そうとする筈です。それが人間が先にゴブリンを倒し、しかもエルフの子を連れ帰ったとなると」

「エルフの怒りの矛先がこちらに向かうと?」

「このままですと、そうなる可能性が高い」

 気持ちは分からないでもないけれど。

「しかしそれは話せばすぐに誤解も解けると思うのですが」

「話せば、ですの。しかしエルフの戦いの基本は奇襲にあります。音も姿も気配すらも消せるエルフは一気に勝負を決めに来るのです。ましてやここは大森林。ここはエルフにとっての狩場でしか無い。話して誤解を解くにしても、それまでに多数の血が流れるのは避けられますまい」

「なるほど」

「この先、あのエルフの子供の処遇を考えねばなりますまい」

「そうか」

 それで合点がいったかな。


 ラビエラとリーヴァスが気が付いては居るみたいだけれど、里の外から視線を感じていたのは、あれはエルフという事なのか。

 数は居ないから偵察か、交渉か。

 でも、まだ戦闘行為に発展するほどでは無い。こちらから行動を起こして相手に子供を返せば、取り合えずの戦いは避けられるだろう。

 しかしなぁ。

 僕としては良い機会だ。この機にエルフとも接触を持ちたいのだけれど、里長達の心配も分かると言えば分かる。

 何しろ戦士団の大半は出払ったばかりだし、まぁ僕はともかくとしてリーヴァスあたりの力をあてにしているんだろうな。

 さてさて、どうしたものっ!?

「これは?」

「ダーウェス様」

「カカカ、なにが起こるやら」

「あの、なにか?」

 僕等の雰囲気にガリルが不思議な顔を見せている。

 じきに報せも届くだろうが。

「ガリル殿。どうやら里の門に「長ーーっ!」、早かったね」

 里長の屋敷に若い男が一人飛び込んできた。

「なんじゃっ! ダーウェス様の前で騒々しいっ!」

「すっ! すいませんっ! しかし」

「しかしもかかしもあるかっ! だいたい」

「ガリル殿」

「っ! 申し訳ございません。若い者が失礼を」

「いえ」

 怒る前に聞いてあげて欲しい。

「彼の話を」

「はい。して、何があったのじゃ」

「は、はい」

 そして彼は告げた――


「里の外に、エルフの子供を返せと」

「エルフが来たのか。ならば丁重にお迎えして」

「いえ、来たのはエルフじゃなくて」

「ん? エルフじゃないなら一体誰が」

「はい、それが」


 予想外の来訪者を。



「アマゾネスが、一人で乗り込んできました」



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