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第20話 ゴブリン殲滅の後に


「思ったよりも早かったね」

「我が下僕が優秀なのかあやつ等が不甲斐ないのかは分からぬがの」

「どちらでも構わないけれどね」

 大事なのは結果だ。

 殲滅が早ければ早い程、人々は安心して暮らせるというモノだからね。

「あの……」

「なにか? ガリル殿」

 あっけに取られている皆の中からガリルが口を開く。

「いまの隠者様のお言葉は、まことに御座いますか?」

「えぇ、どうやらその様ですね」

「ほんとに、ゴブリンが」

 一同は騒めき出した。

 そんなに簡単に成せる筈は無いという声と、リーヴァスならば或いはとの声。

 だが中にはやはり――

「何故今になって」

 という声もある。

 こんなに簡単に出来るのであれば、もっと早くに滅ぼしてくれれば人間がゴブリンに襲われる事も無かったのに、と。

 その気持ちも分からないでも無いのだけれど。

「カカ。別に我にとってはゴブリンなど吹けば飛ぶ存在。我が相手にするまでも無いのだがの」

「では」

「ダーウェス殿が望んだ故よ。我が動くにそれ以上の理由も必要あるまい」

 おいおい、僕に振らないでよ。

 皆の視線が集まってしまう。まぁ、事実なのだから仕方がないけれど。

「ゴブリンという種族が他種族と共存共栄出来るのであれば、この様な事態は招かなかったと思います。ですが彼等にはそれが難しいと知りました」

「ゴブリンと共存など、どの種族にも不可能でありましょう」

「僕は、より多くの種族と共に平穏を築きたいと思っています。その未来にゴブリンの席は無かった。それが経緯で、これが結果となりました。彼等を滅ぼした罪は、僕が永劫に背負ってゆかねばなりませんね」


 僕が望み、決め、滅ぼした種族だ。

 どんな大義も殺戮を許容してはならない。

 だからこそそれは魔王の所業でなければ成らないのだから、その業もまた魔王たる僕のモノだ。


 見れば、皆が再び頭を垂れる。

「ゴブリンは長く我々の生活を脅かす大敵で御座いました。此度のダーウェス様と東の隠者様の御大業。我々一同、里を代表し、またこの東の大森林に住む人間全てに代わり深く、感謝致します。まことにありがとうございました」

 皆もまた「ありがとうございました」と続いた。

「顔をお上げください。僕の戦いは、まだ始まったばかりなのですから」


 さて、まずは一手目は終えた。

 次なる手を打つには更なる情報が必要になるな。

 まぁ、リーヴァスからまた色々と教えて貰いながら進めるとしようか。

 と考えていると「…………あの」と声が掛かる。

「なんだい? ラビエラ」

 何かを思案している風なラビエラを促す。

「はい。少し気になる事が御座いまして」

「気になる事?」

 はて? 

 今のことろは順調なんだけどな。

 するとラビエラは不意にリーヴァスの方に向き合う。

「リーヴァス様」

「なにか? 巫女よ」

「先ほどゴブリンは殲滅したと伺いましたが」

「さよう」


「では捕らわれている者達はどうなりましたでしょうか」


……ぁ、これは駄目なやつだ。


「無論、巣穴に居ろうな」

「置き去りですかっ!」

「無事なら自力で這い出よう?」

「捕らわれているのは女性ばかりですよっ! しかも身体の状態も良好とは思えませんっ! 森には魔物も居るでしょう!」

「カカカ、案ずるな」

「では何か手を」

「ここいらの人里ではゴブリンに浚われた者は死んだものと扱うのでな。帰って来なかろうと問題なかろう」

「問題大ありですっ!!」


 東の隠者といわれるリーヴァスと喧々囂々のラビエラに、皆も驚いているのだけれど。

「ありがとうラビエラ。よく気が付いてくれた」

「いえ、わたくし如きが差し出がましい真似を」

「僕はありがとうと言ったよ、そのまま受け取ってくれないかな」

「畏れおおい事に御座います」

 

 さて、ラビエラは下がった事だし、事を進めようか。

「リーヴァス殿」

「なにか? ダーウェス殿」

 なにか? じゃないんだけどなぁ。

「ゴブリンゾンビが襲った巣穴の場所は分からないかな?」

「ふむ。あやつ等の死の気配は我には濃厚に伝わりますのでな。場所は判明しとるよ」

「では案内をお願い出来ますか? 使い魔でも構いませんので」

「カカ。何をお考えか?」

「無論」

 考えもなにも無いよ、ったく。

「残されている人々を助けに行かなくてはならないでしょう。ラビエラ、すまないが君も」

「お供致します、ダーウェス様」

「ありがとう……それでリーヴァス殿」

「カカ。無論、同行しよう」

「ご足労をおかけしますね」

「カカ」


 僕が立ち上がり、ラビエラとリーヴァスが傍に立つ。

「あの」

「あぁ、すいません」

 部屋の一人が僕に声を掛ける。

「僕達はこれからゴブリンの巣穴を巡って残された人達を助けに向かいます」

「ダーウェス様自ら、で御座いますか」

「はは、僕には配下は居ませんからね」

「しかし」

 驚くほどの事でもないだろうに。

「もしその中にこの里の人が居た様でしたらお連れ致しますので、出来れば良くしてやっていただきたい」

 どうやらゴブリンに連れ去られた人達には、色々と事情が発生すると聞いたからね。

 これ以上の過酷な目には合わせたくはない。

「それでは、僕達はこれで失礼します」

 そして背を向け部屋を出ようとした僕等三人に――


「お待ち下さい」


 とガリルが声を掛け止めた。


 僕が振り向けば真摯な彼の視線が僕をまっすぐに射抜いている。

「ゴブリンの巣穴探索の件、我らラクエルの戦士団にお任せ願えませんでしょうか」

「貴方達に?」

 僕等とは一線を引くと思っていたのだけどな。

「ダーウェス様」

「なにか、ガリル殿」

 両手の拳を床に付け、彼は真剣に言葉を放つ。


「このラクエルの里を代表し申し上げます」

「承りましょう」

「我が里一同、ダーウェス様を主と仰ぎ、この島の未来への道のり、共に歩みとう御座います」


 彼が深く頭を下げると共に、他の皆も僕に頭を下げた。


「……僕のゆく道は、険しき道ですよ?」

「安穏とした道の先に平穏など御座いますまい」


 僕は片膝を付き、ガリルの肩に手を置く。

「ガリル殿、皆もどうかお顔をお上げください」

「お許しを頂けるまでは」

「なればこそ、身を起こし下さいと申し上げております」

「では」

 皆、顔を上げた。



「ありがとう御座います……共に、この島を良い島にしましょう」

「……勿体ないお言葉に御座います」



 

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