第15話 かくしてヒトは魔王と出会う
僕達が戦士団に近付くと……おっと。
「みんな逃げろーっ!」
どうやらガランには僕達の力が感じ取れたらしい。
仲間を逃がす為に傷だらけの身体で単身、僕に剣を構えてきた。
随分と男前じゃないか。
僕の前に出ようとするラビエラを手で制する。
「いいよ、ラビエラ」
「しかし! ……畏まりました」
一歩前に出る僕に対して、ガランは微動だにしない。彼の仲間も一緒に剣を構えている。
うん。ガラン一人に押し付けて逃げないのは好感が持てるよ。
「そう構えないで欲しいな、ガラン君。僕は君の戦いに感銘を受けたんだ。だから、その」
「しっ!」
一気に魔晄を纏った彼の突きが飛び出した。
「良い攻撃だ」
「なっ!」
繰り出された剣を、人差し指と中指で挟んで止める。
魔晄は、申し訳ないけど物騒なんで中和させてもらったよ?
「馬鹿なっ」
「ガランの魔晄が消えた!?」
仲間が随分と驚いている様だけど、ガラン自身は気勢を削がれていないね。
「どうやら魔晄は純粋な魔力の様だからね。これくらいは出来るさ」
術式を施された魔法ではこうは出来ないかな。あれは色々な要素が加わり混ざる感じなんだ。
指で挟まれた剣を必死で動かそうとしているけれど、単純な力では無理だよ?
多分、僕はオーガよりも強いと思うから。
「くっ!」
「……そんなに嫌わないでくれないかな」
ガランは僕よりも背が低い。
こちらの世界に来る前の僕と同じくらいかな? 百七十五センチだったんだよなぁ僕。なんかまだ二メートル超えの視界に慣れないんだけど。
笑みを浮かべて彼に視線を送ったんだけど、睨み返されてしまった。
どうにも上手くいかないなぁ……まぁいいか。
「取り合えず、その状態ではゆっくり話も出来ないね」
「話だと? っなんっ」
僕は残った左手を彼にかざして、彼の魔力に干渉して彼の身体の傷を癒した。
肉体の復元はそれほど難しくはない。
無論、左目も元通りだ。
彼の全ての傷を癒しながら、他の戦士団の皆も癒しておく。
完全に元通りになった後、僕が指を緩めると彼は静かに剣を引いてくれた。
「どうやら話を聞いてくれる気になったみたいだね」
「その、いったいあんたは……」
一歩下がって、剣を鞘に納めたガランに僕はようやく名乗りをあげた。
「初めまして。僕はダーウェスといいます。君の敵ではないよガラン君」
「……俺の名前を何故知ってる」
「うん? 君の仲間がそう呼んでいたからね。それに」
オーガの躯に視線を送る。
「あのオーガとの戦いも観ていたと言っただろ?」
「……ラクエルの里、戦士団長ガランだ」
「改めての挨拶、ありがとう」
彼が僕の背後に視線を送った。
彼の周りの仲間達がざわついているのは、まぁラビエラが綺麗だってのもあるみたいだけど、大半はリーヴァスの事だよな。
「スケルトンか?」
「じゃあ死霊魔術師なのか」
「おいまさか」
皆の声を聞いてか、ガランが後ろ手で皆を制し視線を強めリーヴァスを見る。
「東の隠者様とお見受けする」
「カカカ、会った事があったかの?」
「俺の爺さんが里長になった時、一度」
「ふむ…………カカ! あの時の小僧か。ふむ、相も変わらず人間とは成長の早い種よ」
楽しそうだねぇリーヴァス?
「リーヴァス殿?」
「カカ。なに、ラクエルの里の長が代々我が屋敷に襲名の挨拶に来ておったのよ。我が領域に立ち入らない代わりに里に害を及ぼすな、とのう」
「庇護下に、ではなく」
「俺達は自分達の身は自分達で守るっ!」
「君達を卑下した訳ではない、と分かって欲しいな」
少し直情的なところもあるかも知れないけれど、そんな熱さは嫌いじゃない。
「東の隠者様はご自分の領域より出ないと、俺の親父も爺さんも言っていた」
「まぁ、そうだろうの」
「何故ここに」
「ふむ」
一度、リーヴァスが視線を送ってきた。
「今の我はここに居るダーウェス殿に従う者なのでな。彼の居るところ我有り、といったところかの」
「配下にしたのか!? 東の隠者たるリッチを」
「リーヴァス殿、僕は貴方を友人だと思っているんだけどね」
「カカカ、誰の下にも就いた事が無いのでのう。偶には良かろうて」
「気が重いなぁ」
随分な友人を持ってしまったようだ。
それにしても、些かガランからの視線が厳しい。
やっぱりどう見ても怪しいもんな、僕等は。
「それで、話ってなんだ」
「うん。出来ればラクエルの里まで案内してほしいんだけど、どうだろうか」
「っ!」
彼と彼の戦士団の仲間が一斉に抜刀してしまった。
う~ん。これってなかなか難しいな。
「里をどうする積もりだっ!」
また、魔晄を纏いだした。
ほう。ガランの他にも魔晄を纏える者達は幾らか居る。彼ほどでは無いにしても、皆なかなか綺麗な光をしているな。
「言っても分かって貰えないのは悲しい限りだけれど、分かって貰うまで言わせてもらうよ。僕は話がしたいんだ、それも君達の里長とね」
「なんの話だ!」
「それは里長に言わせて貰えないかな? 内容は後から里長に聞いて貰って構わない。別に秘密の話でも無いからね」
「だったら俺が」
「でも筋は通さないといけないだろう?」
里の行く末を決める話を、隊長とはいえ一介の剣士が里長に先んじて知り考える必要はないだろう。
それでは順番が違う。
ガランは少し考えて――
「里に危害を及ぼさない保証は?」
「保証は、無いかな」
「だったら」
「必要とあれば私一人であなた方の里を滅してもよいのですよ」
「っ!」
どうやら戦士団の僕への態度に我慢の限界が来たらしい。
膨大な魔力を纏ってラビエラが僕の横に並ぶ。
いや、それは怖いなぁ。
第一、ラビエラの放っている魔力の量が不味い。皆が呆然と固まっているじゃないか。
「ラビエラ」
「しかしダーウェス様。この者達の非礼は見るに耐えません」
「良いんだ。彼等の態度は非礼と呼ぶには値しないよ」
「ダー」
「ありがとう、ラビエラ」
「……いえ。出過ぎた真似、申し訳ございませんでした」
彼女を下がらせ、僕は改めてガランに向き合う。
「連れの者が失礼した。とにかく僕達に害意は無い。どうだろう、もう夜も遅い。今夜はこの場で休むとして明日の朝までに君達で結論を決めてくれないか? 僕等を里まで連れて行くか、断るか、どうだろうか?」
「……わかった。明日の朝、俺達の結論を聞いて貰おう」
「ありがとう。では謝礼、という程でもないのだけど、今夜の皆の安全は僕が保証しよう」
「俺達の、安全?」
「ああ、そうさ」
言うや僕はドーム状の結界を作り出した。
その規模、半径約五キロと云ったところかな。
「この中に居る限り、君達の安全は絶対だよ。ゆっくりと休んでくれ」
「な、んだよ、この結界。この、魔力の量は」
「信じてくれていいよ。たとえオーガが百で来ようが千で来ようが揺るがない」
僕の作り出した結界を見て、彼は呆然と僕に問う。
「あんた……一体何者なんだよ」と。




