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第14話 死闘の果てに


「ほう」

 仲間の加勢を振り切って単身でオーガに向かって行く青年。

 どうやら名前はガランという様だが。

「あの者が戦士団の長の様ですが、少しばかり無謀ではないでしょうか?」

「そうかな?」

 確かに、青い、魔晄と言ったかな? それを纏った彼は真っ向からオーガと戦っている。

 このままだと旗色は悪いだろうな。

 


◇ ◇ ◇



「おおっ!」

 二連撃、ガランの剣がオーガに刻まれるが、その腕と腹に僅かな傷を与えただけ。

 対して彼は――

「ゴアッ!」

「ちぃい!」

 大振りのオーガの一撃を寸前でかわし距離を取った。

 即座に突進するガランをオーガは振り下ろした剣をそのまま振り上げ斬り上げるが、

「ム!?」

 ガランは瞬時にオーガの背後に回り込み突きを打つ。

 三撃。早いな。

 だが浅い。

「オオオ!」

「はっ!」

 無視して繰り出されるオーガの左拳を飛び去って回避した。



◇ ◇ ◇



 再び対峙する二人を眺める。

「あの戦士の攻撃ではオーガに傷は与えられるでしょうが、致命傷は与えられません。一方でオーガの一撃は彼にとっての終焉を意味しています。彼には、勝つ為の手段がありません」

「例えば君ならオーガに対してどうするかな?」

 試みに聞いてみたけど、ラビエラには愚問だったかな。

「今のわたくしはダーウェス様より頂いたお力が御座います」

「簡単に勝てると?」

 彼女は黙って頷く。

「わたくしの纏う防御結界はオーガ如きの攻撃では髪一本傷付けられないでしょう。呪文一つで、カタは付きます」

「強いなぁ」

「わたくしの力は全て、ダーウェス様のお力でありますれば当然で御座います」

「でも彼だって、魔力の量は中々のものだと思うんだけどな」

 僕には、彼の青い魔晄はとても眩しいモノの様に思える。

 その魔晄が少しだけ力強く光った。

 あぁ、そうか。

「彼は、純粋だよ。ただ、強さを願う事に」

 君は決めたんだね。



◇ ◇ ◇



 魔晄の動きに変化が見えた。

「熱くなってきたなぁ、グルダああっ!」

「ム?」

 魔晄が剣に集中した。

 ()()()()青く魔晄を放ち、彼自身は光を失う。

 一気に間合いを詰めるガランだけど、明らかに動きが鈍った。

 まぁ、魔晄による身体強化が無くなったんだから当然か。でも――

「おおあっ!」

「ッナ!」

 ガランが振りぬいた剣が掠めた。それだけでオーガの腕から血が噴き出す。

 あれだけの魔力を込めた剣であれば、硬い筋肉の鎧も簡単に斬り裂けるだろう。

 だが――

「ゴオッ!」

「ぬぅ!」

 オーガが薙いだ剣を間一髪で避けるが、僅かに掠めただけで腹部から血が噴き出した。

 魔晄の鎧を消したんだ。そんな状態でオーガの膂力で振り回される剣や拳を受ければ、人間の身体など紙屑同然だろう。

 距離を取ったかと思えば、刹那、二人はまた突撃する。

「おおあっ!!」

「ガアアッ!」 



◇ ◇ ◇



「何故彼は魔晄を?」

「うん?」

 あぁ。ラビエラには無用だしねぇ。

「ラビエラ、彼はね……あのオーガを斬ると決めたんだよ。何をしてもとね」

「斬る? さっきまでもその積もりだったかと」

「カカカ、アヤツの覚悟の違いよ」

 リーヴァスは愉快そうに僕等に並ぶ。

「あの小僧が普通に戦ってもオーガには勝てない。斬り切れないし、受けきれない」

「それは分かります」

「故に、じゃ。あの小僧、剣だけに魔力を集めて敵を斬る気よ。守りなど考えずにのう」

「捨て身で?」

「身は捨てないよ。ただ斬るだけさ。斬られ様が、抉られ様が、砕かれ様が……斬ると決めたんだよ。まったく」

 身体能力を増さなければ、かわし切れるもんじゃない。

 魔晄を纏っていても真っ向には受けられない。だったらいっそ解いて斬るに専念しようって積もりなんだろうけど……無茶をする。

 能力が下がれば避け切れない、一撃でも受ければ終わりだよ? ガラン。

 斬り結べば斬り結ぶほど、彼の身体は紅に染まっていく。無論、オーガの身体も。


 でも二人とも、笑っていた。


「楽しそうだなぁ」


 彼等は本当に楽しそうに――殺し合ってる。



◇ ◇ ◇



「ぬぁ!」

「ゴアッ!」

 太ももを斬り抜いたガランの頭上にオーガの剣が振り下ろされる。

 掠った肩の一部が削がれるが、そのまま背後に回り込み脊髄目掛けて突き上げた。

「せあ!」

 身を回転してかわしざま剣を横薙ぎに振るオーガから間一髪で距離を取る。

 全てがギリギリの戦いだ。

 その中であってもなお――

「がああああっ!」

「オオオオオッ!」

 二人は猛り合う。

 歓喜と狂気で笑い合い斬り合う。

「ゴオッア!」

 オーガが繰り出した斬り下ろしを半歩下がってやり過ごそうした刹那。

「ッギ!」

 ガランの左目を裂き、胸板から太ももに掛けて深く刃が走る。

 オーガは瞬時に握りを弱め柄尻まで滑らせ握り止めた。

 その所為で僅かに伸びた剣の間合いがガランに届く。

 一瞬、ガランの膝が落ちる。が――


「っおおあっ!」

 傷に構わずガランが突っ込んだ。

 振り下ろした剣をそのまま振り上げ迎え撃ったオーガの前からガランの姿が消える。

「ムゥダダァッ!」

 オーガはさっきと同じく、回転して剣を薙いだ。

「だああっ!」

「グヂ!」

 ガランの剣が狙うのはオーガの背中でも首でもない。

 自分を狙い振るわれるオーガの腕だった。

 ありったけの魔力を注いだガランの剣が、横薙ぎに振るわれるオーガの腕を二の腕から切断する。

 にいぃ。と笑う隻眼のガランの目に、同じく笑う隻腕のオーガが居た。

 まだ、ここからだ。

「しいぃっ!」

 オーガの顔面に向かって剣を突き出したガランの側面から、オーガの拳が見舞われた。

 右腕を差し込んで拳を受けたが、魔晄を纏っている時とは違う。

 腕の骨が粉々になると共に身体が足場を失った。

「っはあっ」

 ガランは飛ばされない。

 飛ばされず、その勢いのまま三回ほどその場で回るが、そのまま着地し左手一本で構えた剣をそのままオーガの胸板に突き刺した。


「グ、ハハ……イイ、闘争ダッタ、ガラン」

「あぁ……楽しかったなぁ、グルダ」


 オーガの身が静かに崩れ落ちたのをもって、この戦いは終了した。



◇ ◇ ◇



 眼下では戦士団の仲間達がガランの下に集まっている。

「どうやら、終わったみたいだね」

「その様ですね。ゴブリンの気配も無い様子ですし。このままお戻りになられますか、ダーウェス様?」

「……いや」

 それは、些か勿体ないよね。

「彼等には遅かれ早かれ挨拶したいのだからね、ちょうどいい機会だ」

「カカカ」

 僕の意を見抜いて、リーヴァスが僕等の周辺に力場を展開した。

 これは落下速度の軽減かな? まぁそんな高さでもないしね。

「行こうか、二人とも」

「仰せのままに」

「カカ、偉大な魔王と未熟な勇者の対面だのう」

 三人で崖から飛び降りる。

 リーヴァスの魔法の御かげでゆっくりと地面に舞い降りた僕達に、どうやら皆はまだ気が付いていないらしい。

 ゆっくりと近付くと、自然と皆の意識が僕等を捉えた。

 僕は彼に、初めて言葉を掛ける。


「素晴らしい戦いだったよ。ラクエルの里の勇者、ガラン君」

「っ! あんたは?」


 これが、僕と君の初めての言葉だったね、ガラン。



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