第13話 ガランVSグルダ
山菜を取りに出掛けた一行がゴブリンに襲われ、ユリとメイサが浚われた。
急いで奪還に来たにはいいが、くそっ!
「なんなんだっ! これはっ!」
ゴブリンを討ちに来てみれば既に戦いが始まっていた。というか、変な戦いが始まってた。
ゴブリンがゴブリンに襲われている。しかも変なゴブリンにだ。
傷だらけで血だらけで、まるでゾンビみたいなゴブリンが、巣穴に巣くっているゴブリンに襲い掛かっている。
しかも何故か俺達には見向きもしないでゴブリンだけを狙う奴等だ。
そいつらとの戦いに俺達が乱入して、気が付いたら変なゴブリン共は巣穴へと突入していったんだが、あれは何だったんだ?
おまけに、こいつだ。
「ガランっ! 今行くっ!」
「来るなっ! こいつは俺がやる!」
仲間を下がらせて戦士団の隊長である俺が対峙する。
他の者では殺されるだけだ。
オーガが相手では。
「ヤル、カ。貴様ガ? 俺ヲカ?」
「そう言ったんだよクソ……ッタレっ!」
「フン!」
思い切り胴を薙いだってのに奴は無造作に横腹で受け止めただけだ。
それだけなのに剣が筋肉を断ち切れない。
防御も考えずにカウンターで振り下ろされる剣を何とかかわすと、地面まで思い切り突き刺さってやがる。
相変わらずこいつらは、俺達人間とは身体のデキが違いやがるっ!
「面白イ。貴様、人間ニシテハナカナカヤル」
「お褒めにあずかり光栄だぜ」
一度、気合を入れ直す。
「ラクエルの里、戦士団長ガラン。お前は?」
「グフ。イチニンマエニ名乗リヲ上ゲルカ、マアイイ。俺ハグルダ」
くそったれ、名持ちかよ。
オーガは一人前と認められて初めて名前を与えられる種族だ。
しかし――
「名持ちのオーガが何でゴブリン共を支配しているんだ!」
「フン。貴様ニハ関ワリノ無イ事ダ」
「あぁそうかい」
だったら他所でやってくれよ。
だいたい此処いらにはオーガの集落なんて無かった筈だ。
群れから追い出されたオーガも偶には居るが、そいつ等は非力だから追い出される連中だ。こんなに力の強いオーガがはぐれオーガの訳はない。
しかもおそらく居るのはこいつ一人。
一体、なんだってんだ。
「グハハ! 面白クモナイ辺境ニ飽キ飽キシテイタトコロダ。ガランヨ、精々俺ヲ楽シマセテクレ」
「お前を楽しませるつもりは無い!」
精神を集中して柄を硬く握りしめる。
「ホウ」
「……」
俺の身体と剣が青い光を帯びた。
「生意気ニモ魔晄ヲ纏ウカ」
「……」
俺には魔法は使えない。
でもだからと云って身体に流れる魔力を使えない訳じゃあない。
俺達剣士にだって魔力の活用方法はある。
それが魔晄だ。
魔力を放出することや魔法を組み立てる事は出来なくても身に纏ったり剣に纏わせたりは出来る。
そしてそれは俺達の力を一気に増幅させてくれた。
身体能力だけじゃない。
体に纏った魔晄は盾よりも丈夫だし、魔光を纏った剣なら鉄だって斬れる。
「行っくぜぇっ!」
「グハハッ! 来ォォイッ!」
グルダの剣を俺の剣で受け止める。
「つっ」
今度は飛ばされない。が、やはり力負けする。
俺が魔晄を纏っても押し負けるのか!
だが――
「フンッ!」
「――!」
奴の振り下ろしを避け、瞬時に背後に回り背中の真ん中に突きを入れた。
寸前で身をよじられ回避され掠るに留まる。
掠るだけじゃ無傷だろうけど、肝は冷やしたか?
「チッ! チョコマカト!」
「硬てぇんだよクソッタレ!」
戦いは一見拮抗した。
俺はあいつの剣を避け受ける。
確かに速いが見切れない訳じゃない。普段なら見えた所で身体が付いていかないだろうけど、今の、魔晄を纏った今の俺なら付いていく事が出来る。
だけど俺の剣が致命傷に届かない。
何度か当たるが、それはあいつが強度に自信のある部位だけだ。
頭に来る事に魔晄を纏っている剣でさえ、あいつの腹筋や二の腕は切り裂けない。
頭部などの急所は防がれる、というより狙いが細かくなる分、ずらすのも容易だ。
「ふっ!」
「ッ!」
一歩、間合いに踏み込めば、グルダが横薙ぎに剣を振るった。
それをギリギリでしゃがみかわせば奴の体が流れている。
「しょっ!」
屈んだ姿勢からの一気の突き上げをお見舞いしようとしたが。
「がっ!!」
一回転した奴の裏拳が俺を捉えた。
左腕一本挟み込んでガードしたけど吹き飛ばされた。
飛び掛かっている時には踏ん張りが効かないからな。
「っかぁ~」
痺れた。
少しだけ左手を振るが、うん。いけるな。
魔晄の上から殴られただけでこれかよ化け物が。
「そんじゃぁ、よっ!」
「!」
脱力状態から一気に間を詰めた。
奴が剣を振り下ろして迎え撃つのを剣を合わせて止める。が、そのまま剣から手を離して奴の間合いの更に奥まで。
「ナン!?」
「おおおおっ!」
思い切り金的を蹴り上げた。が
「フンッ!」
「っと!」
逆に蹴りが吹き上がってきた。
かわし去り際に剣を回収。
やっぱり効かないか。つか無かったな。
生殖行為の時以外は性器は体内に隠れてるってのは本当だったのか。
戦いやすい構造になっていると聞くけど、便利なもんだぜ。
「オ遊ビハ、ココマデダッ」
「くっ!」
間合いを詰めて来たのは向こうだった。
速いっ!
「ぬぐっ!」
「グハハッ! ドウシタァ!!」
凄まじい連撃だ。
一撃一撃が早くて重い。
かわすのが間に合わない。
「ぐ」
袈裟斬りを受けると身が沈まされる。
何とか受け止めは出来たけどすかさず蹴りが命中する。
三歩分、ふきとばされたが――
「カァッ!」
「ぬうあっ」
追撃してくる奴の剣がかわし切れなかった肩口を浅く傷付けた。
魔晄を纏ってなければ今ので終わってた。いや、もうとっくに終わってるか。
剣を構え直して息を整える。
ん?
「ガラン悪いっ」
「こっちは終わったぞ!」
仲間が俺に並んだ。
どうやらゴブリンの方はカタが付いたらしい。こっちに手を貸してくれるって事なんだろうけど、これはダメだ。
「駄目だっ! 皆は下がれっ!」
一歩、前に出る。
「ガラン!」
「みんなで掛かればコイツくらい!」
「無理だっ! 下がれっ! 命令だっ!!」
奴は楽しそうに笑みを浮かべてる。
アイツにも分かってるんだ。みんなで掛かれば、勝負は決まる。
俺にとっての枷が増えて、あいつにとっての盾が増える。それだけの事だ。
俺の他にも魔晄を纏える者も居るが、みんなのソレではアイツの剣は防げない。傷も与えられない。
「ガラン」
「ラッツっ! 皆を下がらせろ!」
俺に並んだ幼馴染のラッツに命令する。
幼馴染に命令とか普通しないけどな。ここは敢えて隊長として副隊長に命令させて貰う。
アイツとは付き合いが長い。俺の意図はいつも酌んでくれた。
「……足手まとい、なんだな、俺達は」
「皆を頼む」
「わかった」
ゆっくり下がるラッツに少し安心した。
あとはコッチの問題だけだが――
「ガラン!」
「?」
まだ何かあるのか?
「楽しむのも程ほどにしとけよテメェ!」
「あん? ったく」
この状況の何処がどう楽しいってんだ馬鹿野郎。
呆れた親友だ。
そんなんで俺の気持ちを鼓舞出来るなんて思うなよな。
現在絶賛絶対絶命中だっての。
俺の前にはニヤリと笑みを浮かべたオーガが剣を構えてるし、その眼に映る奴の獲物の俺は――
「冗談いうなよなぁ」
――嗤ってた。
汗一杯の顔で、肩口から血を流しながら、楽しそうに……嗤ってる。
あぁ……
そうかよ……
強くなりたかった。
強くなりたくて、強くなって、戦士団に入って、団長にまでなった。
もう、俺は一番強くなった。
でも、俺はまだ、強くなりたかったんだなぁ。
「コイツは滅茶苦茶強えぇんだぜ?」
「グハハ、イイゾ? ガラン」
敵わない、自分よりも強い敵に……昂ぶる。
俺も大概馬鹿野郎だが、そいつに付き合うグルダってのも、大概オーガだよなぁ。
オーガって種族は戦闘狂って話も本当だったか?
さぁ、馬鹿は馬鹿同士、どこまでも――
「いこうかぁあああっ!」
「来ォイッ!」
――戦おうっ!!




