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第12話 ゴブリンと戦士団


 二度目の馬車は一度目ほど酔わなかった。

「全体としての進捗(しんちょく)は?」

「問題ありませんな」

 馬車の中でリーヴァスにゴブリンの殲滅状況を聞いてみると、大体は上手く行っているらしい。

 すでにゴブリンゾンビの数は数えるのも馬鹿馬鹿しい程に膨れ上がっており、この大森林からゴブリンが駆逐されるのは時間の問題らしい。

 リーヴァスにとってはいつでも出来た簡単な作業であるのだろう。

 僕の命令一つで、たった一昼夜で一つの種族が駆逐されようとしている状況に、少しだけ気が引けてしまう。

 選択自体に後悔はない。

 多種族と共存出来ないのであるのならば、彼等を取るか他を取るかの二者択一だ。今の僕にとっては選択の余地はないのだから。

「それで?」

「はい、そろそろ到着するかと」

「そうか」

 問題はその一か所でしか発生していない。

 その場所でのみ、ゴブリンゾンビの反応が消失するらしい。

 つまりは、倒されている。

 それ自体は簡単だ。首を刎ねればいいだけの事なのだけれど、問題はそれがゴブリンだけではありえないという事。

「ゴブリンの中に進化を遂げた個体でも出たのかな」

「あるいは何者かの介入があるのやも知れません。ん、どうやら到着したようですな」

「わかったよ」

 下を見下ろせる崖の様な場所に出た。

 眼下に見える岩肌から洞窟の入り口が見えるが、どうやら目的のゴブリンの巣穴らしい。

 出口前に広がる広場の様な場所を見れば――


「人間か?」

「戦っている様ですね、ダーウェス様」

「カカカ。まさかアヤツ等が我がゾンビを殺したかの」

 ラビエラとリーヴァスと三人で眼下を眺める。

 

 その広場では戦いが行われていた。

 二十人ほどの人間達がゴブリン達と剣を交えている。

「完全とは言わないけれど随分と組織立っているね。彼等は?」

「ふむ。あぁ、あれはラクエルの里の者達ですな」

「ラクエルの里?」

 リーヴァスが言うには、この東の大森林においては最も大きい人間種の集落という事だ。

 彼が保護していた集落とは比べ物にならない位の規模ではあるらしい。

「それでは彼等はその里の兵士、という所かな」

「里にゴブリンの襲撃でもあったのでしょう。浚われた女性でも居るのではありませんか?」

「あの里には外壁もありますしな。大方、外に出ていた者達が襲われたというところかの」

「そして奪還に来た」

「カカカ。あれ等は里の戦士団だろうて。まぁよほど面倒くさい相手にでも出くわさなければ、あの位の人数でも十分だろうのう」

「戦士団」

 視線を向けると、そこにはキチンとした剣を持ち、胸当てや籠手もしている。

 僕がこちらの世界に来て初めて見る、まさにファンタジーな戦士と戦いだ。


 彼等は基本、一対一で戦う様にしている様子だ。

 もちろんゴブリンの方が数の上では圧倒しているんだけど、おそらく数人は敵を倒す事を目的とはしていない。複数を相手に足止めをしているに過ぎないだろう。

 一体づつの戦いは直ぐに決着が付く。

 そうすれば足止めの負担も減り、少しづつではあるが数は減っていく。

「確実性を重視、て事なんだろうね」

 どうやら僕達が手を貸す必要ななさそうだ。

 さて、次なる問題は、僕としてはなんとか彼等とは友好的に接触を計りたいという事だけど。

「…………なるほどのう。しかしこれは少しばかり……」

「リーヴァス殿?」

 不意に彼の声色に怪訝なモノが含まれる。

「どうかしたのかい?」

「ふむ。いやなに、我が下僕を消したモノがわかりましたのでな」

「あの戦士団では?」

「広場にはアレの躯が転がってない」

 僕にはゴブリンゾンビとゴブリンの死体の違いが判らない。というかどちらも同じで、どちらも死体だ。違うのは動きを止めた時期だけだろう。

「では何が?」

「カカカ。なにやら毛色の違うモノが混じって居るようですなぁ」

「っダーウェス様」

「ん? ……あれは?」 

 洞窟の暗闇から姿を出したのは、ゴブリンよりも大きな影だ。いや、あの場の誰よりも大きい影。おそらくは二メートル位か。今の僕と同じくらいだろうけど、あれはどんな種族だ?

 毛深い身体に胸当てを付け、巨大な両刃の剣を持っている。

 どうやらアイツがゴブリンゾンビを殺したという事なのだろう。確かに毛色は違う、というか種族が違うだろうに。

 

「あれはオーガです」

「オーガ……」

 

 うん。多少は聞いた事がある。

 もっとも、聞いた事がある程度だしな。

 ゴブリンもそうだけど、前世では実物なんて居ない。あくまでフィクションだったんだから知らなくても無理がない。

 だがどうやら(ちから)は、人間よりもあるらしいな。

 足止め役と思われた戦士を構えた盾ごと吹き飛ばした。


「本来オーガがゴブリン如きを配下に置くことなどは無いのですが」

「知性の無いゴブリンを従える事が出来るのか?」

「オーガは太古にゴブリンから派生した上位種と考えられておりますからの。数匹を殺すだけでゴブリンは本能的に従うでしょうな。もっとも」

「なにか?」

「簡単な指令しか受け付けますまい。要するに、戦え、位でしょうかの」

 なにかが変だ。

「引っかかるのかい?」

 僕にはリーヴァスがなにか気になっている様に見える。

「ふむ。オーガにとってゴブリンの使い道など知れておりますからの。精々が戦いの盾役なり特攻なりしか無いでしょうな。問題はなぜアヤツ等がそれを必要としておるのか……ともすればこれは」

「オーガの側に何かがある、と」

「まぁ、予想は立てられますが」

「それはぜひ聞かせ! ほう」

 見れば、巨大なオーガに対し、飛び掛かり剣を振り下ろしている若者がいた。

 オーガは無造作に剣で受け払ったが、飛ばされはしたが上手く着地している。


「どうやらあの者があの一団では最強の手練れの様です」

「へえ」

「加勢、なさいますか?」

「いや」

 ラビエラが少しだけ魔力を高めようとするのを留める。


「彼は戦う気だよ?」

 戦士は両手で剣を握りしめ、真っ向からオーガと対峙している。

 オーガの方も彼の気迫を感じているのだろう。まっすぐに向かい合っていた。

 これはもう、決闘だ。

 だったら、これからは先は彼等二人の問題で、領域だ。

 ちゃちゃを入れるなんてものは――



「無粋というものさ」



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