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第16話 彼女達の悪夢


 夜は少しだけ賑やかな場となった。

 魔物が来る心配をしなくていい事で大きな篝火を焚いているおかげで十分な明るさがある。

 ラビエラが収納の魔法から出した簡易的な食事を、戦士団の皆と一緒に食べた。

 このまま打ち解けて明日の朝を迎えれば、問題無く里に連れて行ってくれないかな。

「離してえっ!」

「止せってっ!」

「取り合えず落ち着いて」

「あんた達に何がわかるのよっ!」

「まずナイフを置いて! 話し合おう、な?」

 なんだろう? 少し騒がしいが。

「結界が反応した気配はありませんでした」

「うん。これはそういうんじゃないだろうね」

 確か、聞こえてきた話ではラクエルの里の女性二人の他に四人の人間が捕らわれていたらしい。

 残酷な予想だけれど、全員が無事だとは考え難い。


「なにかあった……あぁ、これは」

「既に遅かった、という事でしょう」

 僕等の視界に入ってきたのは、数人の戦士団に囲まれながらも自分の喉や胸にナイフを当てがって周囲を牽制している二人の女性だった。

 そのお腹は、膨れている。

「ゴブリン、か」

「カカカ、あと一日といったところかの。元気な子が産まれそうだわい」

「リーヴァス様。戯言ではすみません」

 うん。これは参ったね。


「あんた達にあった事も、これから起こる事も俺達は誰にも言わない。俺達の里の奴等にも、あんた達の村の奴等にもだ。だから」

「言う言わないじゃないのよっ!」

 ガランの説得にも応じない。

「こんな……化け物を産み落とすなんて死んでも嫌っ!」

「全部悪夢よ……あんな、汚い奴等に……みんな悪夢なのっ! だから終わらせる」

「だからって死んでも」

「カカカ!」

 おいおい。シリアスな場面だったんだけどな。

 リーヴァスが思い切り笑い声を上げて踏み入った。

「ゴブリンを産むくらいなら自死するというか。カカカ、いや見事見事」

「ば、化け物」

「なんでアンデッドが」

 女の言葉にもリーヴァスは動じない。

「だがの? 産まれるのは確実だわい」

「だから死んでも産まないって」

「母体が死ねば残った母体の養分を全て搾りつくして、その腹からゴブリンは飛び出るぞ? 養分を過剰に奪うが故に強力な個体が産まれような」

「そ、そんな」

「どうせ死ぬなら産み落としてから死ぬがいい。生体が産み落とすゴブリンはひ弱だからの。殺すのは容易い(たやすい)ことよ」

「……」

「カカ。何なら自らの手で自らが産み落としたゴブリンの首でも跳ね飛ばすが良かろう」

「……」

「おぉ! 傷め苦しめ怨嗟の悲鳴を上げさせながら少しづつ削り殺したければ我が手を貸してや」

「もういいでしょうっ!」

 リーヴァスの前にガランが立ちはだかる。

 言葉を失っている彼女達を庇うかのように。

「彼女達はもう十分に傷ついています。これ以上は、どうかお止め下さい、東の隠者様」

「東の……」

「あ、あの人が」

 どうやら彼女達の村にもリーヴァスの事は知れているらしい。

「カカ。選択肢などそうあるまいに。我が言葉に偽りはない。産まれるは確定した事よ。死して産むか、生きて産むか、どちらを選ぶかという事だけだろう」

「くっ……」

 リーヴァスの言う事は、どうやらガランにも理解が出来るらしい。

 今までにも、きっとこんな事はあったんだろうな、とは思う。

 この世界は僕の居た世界とは違う。

 人が生きるには厳しい世界なんだとつくづく思う。


「選択肢は、まだあります……」

「ほう」

 リーヴァスを睨み言い放ったガランは、女達に向き直る。

「あんた達……村で待ってる男は居るか?」

「「……」」

 二人は黙って首を振る。

 待っている男が居ない事が、幸か不幸かは判断が難しいところだ。

 ガランは何かを決意し、顔を上げる。


「あんた達の腹を裂く」

「っ!」

「え?」

「腹を裂き奴等を取り出す。取り出した後で、傷を塞ぐ。塞いで、あんた達には……生きてもらう」

「こんなになった腹を裂いて、どうせ生き残れるわけないじゃない」

「絶対死なせないっ」

「無理よ。そんな事」

 それはガランの空手形だ。なんの信憑性も裏付けも無い。

 だがそれに力を持たせるだけの――

「あんた達のどちらかでも死んだなら、俺もこの場で腹を切って死ぬ」

「え」

 ガランの覚悟があった。

「たとえ……生き残ったって、こんな私達にもう」

「二人とも生き残るっ!」

「「っ!」」

「生きて、帰ったら」

 ガラン、か。

 面白い男だなあ。


「お前達二人の一生、俺が貰い受けるっ」


 う~ん。こっちって重婚ありなのかな? まぁ近代的では無いとは思ってたけどさ。


「な!」

「え!」

「勿論、あんた達の気持ちは優先するけど、俺の気持ちも俺の覚悟も変わらない」

 彼女達が驚くのは勿論だけど、それと同じくらいに驚いたのが戦士団の様だ。

「ちょ! ガラン待てよっ」

「お前何勝手に! 確かにあの人達は不憫だけど、だからってなにも」

「不憫だとかそんなんじゃないっ! これはもう俺の問題だっ」

「ガラン!」

「止めるなラッツ」

 たしかあの子は副隊長だったかな?

 ガランの腕を掴んで視線をぶつけている。

「いくらなんでも無茶だろっ」

「無茶でもなんでも、ほっとけないだろう」

「だからってお前、仮にも里長の孫なんだぞ? それをこんな」

「こんな?」

 ガランの視線が強まる。

 もっとも、ラッツとやらもなかなかの心胆の持ち主だな。怯む様子もない。

「彼女達の所為じゃない。彼女達にはなんの責も無い。だけど! ……()()()()()()()だ」

「違うぞラッツ。間に合わなかった俺達の所為なんだ。救えなかった俺達全部の責なんだっ! 里長の孫であるなら尚の事、これは俺がしなくちゃならない。それに」 

 ガランの視線につられ、ラッツも彼女達を見る。

「二人共美人じゃないかよ」

「お前は……ったく」

 どうやらラッツも諦めたらしい。

「言い出したら聞かないんだったよ。忘れてた」

「忘れるなよ、親友だろう」

「ははは」

 それからは、むしろラッツの方が動きは早い。

 どうやら実際に戦士団を切り盛りしているのは彼の様だ。

 オーガとの斬り合いを楽しんでしまうあたり、ガランには団の運営などは無理だろうからな。

「ありったけの聖水と灯りを持ってこい! 天幕を一つ開けろ! それと清潔な布だ、あるだけ持って来いよ!」

「はい!」

「あ、俺たしか毛布持ってきた」

「湯を沸かさなきゃだめだろよ! 水汲み行くぞー」

「治癒術使える奴は全部来いっ! 寝てる奴は叩き起こせ」

「薬草足んねぇよ、全部持って来いって言ってんだろっ!」

 彼等は一斉に動く。

 その行動に迷いは無く、その表情は……


「いい顔するじゃないか」

「ダーウェス様?」

「いや、ああいうのは良いなと思ってね」

 皆と力を合わせて、か。

 僕にも、そういう機会はあるのだろうか。

 でも、多分僕の役割はそうじゃないんだろうと思う。



「じゃあ、僕も一つ、役を貰おうかな」


 

 そうでなくては、僕がこの世界に居る意味がない、だろ?




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