↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ナキリムシ  作者: ゆうちぇる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/25

第八話 空白の刻、少女の消える日

1

『――アキ……聞こえる……? 助けて……私、消されちゃう……ッ!――』

 ノイズ混じりの通信機から響いたのは、アキの記憶の隅に引っかかっていた同級生の少女――サラの切迫した悲鳴だった。

「サラ!? サラなのか!? 今どこにいる!?」

『学校の……地下管理棟……っ。サラサラ・クック先生が……私の記憶を……『残価ゼロ』だって……! アキ、お願い、助け――』

ブツッ……ザザザ……

 通信が途絶えた。

 アキは跳ね起きると、鉄パイプを握りしめて電車車両のドアへ向かった。

「アキ! 待て、罠かもしれねぇぞ!」

 カムジが呼び止めるが、アキは振り向かない。

「罠でも行く! これ以上……誰も消させない! ペロペ、行こう!」

「ギィッ!」

 ポン・ペロペも覚悟を決めた瞳でアキの隣に並び立つ。

 カムジは大きく溜め息をつくと、乱暴に髪をかきむしった。

「チッ……クソが! 惚れた女のピンチを見捨てるほど落ちぶれてねぇよ! 俺も行く!」

 三人――少年二人と一匹の怪物は、再び雨の打ち付ける地上、狂った統治機構の牙城へと駆け出した。

2

 深夜の学園・地下管理棟。

 無機質な白い光が照らす実験室の中央で、少女・サラはガラス張りのカプセルの中に拘束されていた。

「素晴らしい……実に純度の高い『無垢な絶望』だ」

 カプセルの前に立つのは、白い白衣を着たサラサラ・クック。

 その隣には、重厚な軍服に身を包んだ最高司令官マクベス・トカチェフの姿があった。

「サラサラ・クック。この個体の処理で、今月の『月面記憶銀行』への定期送信ノルマは達成されるな?」

「ええ、マクベス閣下。彼女の『初恋の記憶』と『未来への希望』を抽出すれば、完璧な資産還元となります。……おや、お客様のようですね」

バリーン!!

 強化ガラスの扉が打ち破られ、アキたちが踏み込んできた。

「サラ!!」

「ア……キ……くん……逃げ……て……」

 カプセルの中でサラが力を振り絞って声を上げる。

サラサラ・クックは愛想笑いを浮かべながら、手元にある「消去レバー」に手をかけた。

「やめろーーーっ!!」

 アキが叫び、必死に手を伸ばす。

しかし、サラサラ・クックは迷いなくレバーを引き抜いた。

――チュイィィィィン……!!

「あぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」

 カプセル内に放たれた極彩色の光線が、サラの身体を包み込む。

サラの瞳から、光が、色彩が、そして「アキを見つめる感情」が、急速に奪われて溶けていく。

『――対象データ:サラ・クック。記憶および感情の減価償却処理、完了――』

『――残価:ゼロ。廃棄体《ナキリムシ》へ遷移します――』

「嫌だ……やめろ! やめてくれぇぇぇっ!!」

 カプセルが開き、中から力なく崩れ落ちてきたのは――。

 言葉を失い、肌が灰色に変色し、ボロ布のような皮膚を纏った新たなナキリムシだった。

「サ……ラ……?」

 アキが膝をつき、抱き起こす。

だが、その瞳にアキの姿は映っていない。彼女はただ、うつろな目でアキの手を押し退け、床に落ちていた「ゴミ」を虚無の表情で口に運び始めた。

「ハハハ! 見なさいパパニカ君! これが『美しい社会』の姿です! 彼女はもう『死にたい』とも『苦しい』とも思いません! 完全な平和を手に入れたのです!」

 サラサラ・クックの高笑いが実験室に響き渡る。

「畜生……畜生ぉぉぉぉぉぉーーーーーーっ!!」

 アキの瞳から血の涙が溢れ出た。

その怒りと絶望に応えるように、ポン・ペロペが咆哮する。

「ギィィィィィィーーーーーッ!!」

 ポン・ペロペはサラサラ・クックへと飛びかかり、その腕を噛みちぎらんばかりに食らいついた!

「ぐあっ……!? この不潔な害獣がぁッ!」

「撤退するぞ、アキ!!」

 カムジがアキの襟首を掴み、力任せに引きずり出す。

アキは涙で視界を濡らしながら、もう戻らない少女の姿と、冷酷に立ち尽くすマクベス・トカチェフの姿を網膜に焼き付けた。

「アキ……誓え!」

 崩れ落ちる地下道を走りながら、カムジが叫ぶ。

「この狂った世界を破壊するって! 月へ行って、奪われたみんなの『心』をぶち撒けてやるって!!」

「……誓う……! 俺は……絶対に忘れない……! サラのことも、ペロペのことも……! 月面記憶銀行をぶっ潰して、全部奪い返してやるーーーーっ!!」

 夜空に輝く冷たい月を見上げ、少年の叫びが暗闇を切り裂いた。

(第八話・完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。