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ナキリムシ  作者: ゆうちぇる


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24/25

第二十四話 さよなら、ナキリムシ(最終話)

1

 月面記憶銀行の崩壊とともに、無数の輝く粒子が宇宙を満たしていった。

 それは地球で「残価ゼロ」と判定され、剥ぎ取られていた全ての人々の記憶と感情――愛された記憶、未来への夢、誰かを想う暖かな心。

 光の雨となって地球の空へと降り注ぐ思い出の群れ。

「あ……あぁ……っ……!」

 地球の街角で、灰色に果てていたナキリムシ(元子供たち)の身体に、かつての肌の温もりが戻っていく。

 無機質に死を待っていた少女・サラの瞳に、美しい色彩と光が宿る。

「アキ……くん……? 私……思い出した……! アキくんとの……思い出……っ!」

 地球のあらゆる場所で、泣き声と、そして「ありがとう」という温かな声が響き渡っていた。

2

 月面の崩壊する特別管理室。

 光の中に消えていくペロ(ポン・ペロペ)を見送り、アキ・パパニカは胸元の「文字化けした名札」をそっと手で擦った。

 バグで読めなくなっていた文字が、記憶の還元とともに鮮明な文字へと書き換わっていく。

『アキ・パパニカ』

「……俺の名前……戻ったよ、ペロ」

 アキはボロボロになった鉄パイプをそっと床に置いた。

 隣ではカムジが、妹の面影を取り戻した地球の空を見上げながら、噛み締めるように煙草の煙を吐き出していた。

「行こうぜ、アキ。俺たちの……新しい『地球』へ」

「あぁ!」

 解放された少年・ゼロもまた、清々しい笑顔を浮かべながらアキたちの隣に並んでいた。

もはや彼を縛る「死にたいノイズ」は存在しない。互いの悲しみと希望を分かち合った少年たちは、静かに地球へと帰還する船へと歩み出した。

3

 ――数ヶ月後。

 統治機構の支配が終わり、人々が自らの意思と感情で復興を進める新しい世界。

 桜の木々が立ち並ぶあの坂道に、アキの姿があった。

「アキくーん!」

 坂道の向こうから、笑顔で手を振るサラの姿が見える。

かつての「減価償却」も、「残価ゼロ」という残酷な刻印も、この世界にはもう存在しない。人は傷つき、悩み、悲しみながらも、自分の足で歩んでいく。

 アキは空を見上げた。

雲の隙間から差し込む温かな太陽の光。風に乗って舞う桜の花びら。

「ペロ……聞こえるか? 俺たち、今……笑って生きてるよ」

 風が吹き抜け、桜の花びらがアキの頬を優しく撫でた。

どこからか、懐かしいあの声が聞こえた気がした。

『――うん。バイバイ、アキ。ずっと……大好きだよ――』

 少年は微笑み、サラのもとへ向かって元気に駆け出した。

怪物の去った空に、どこまでも澄み切った青空が広がっていた。

(『ナキリムシ』全24話・完)

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